表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢でしょうか?いいえ、令息です。  作者: 依馬 亜連


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/9

8:王太子のお呼び出し

 それは、一時間目の授業を終えた時のことだった。

 隣のクラスのイケメン魔術師が、リーアやコルネリオのいる教室にこっそり顔を出したのだ。しかし次の授業は移動教室のため、準備中のクラスメイトは誰もそれに気付かない。リーアも含めて。


 原作ゲームの攻略対象でもあるイケメン魔術師は、特にコルネリオに気付かれないよう人込みに紛れて教室を横断し、リーアの斜め後ろを取った。遅れてそれに気付いた彼女が振り向いた瞬間、そっと小声で告げる。

「リーアネキ、殿下ニキが呼んでるンゴ」

「あ、ニキが……はい……」


 リーアが生で聞くなんJ語 (しかもバリトンボイスだ)の威力で呆気に取られている内に、彼は一枚のメモを握らせてきた。そして来た時同様に、誰にも気取られることなく教室を出て行った。

(さすがは陰キャイケメン。気配の消し方が、板に付きすぎ)

 そういえば彼はウンデルト王太子と同じクラスだったか、とリーアは思い出しながら渡されたメモに目を通した。


 ――コルネリオのことで話がある。お前らの担任には話を付けているから、授業を抜け出して生徒会室に来い。


 原作ゲームでは分からなかった、意外と丁寧な手書き文字でそう記されていた。

 教師もおサボり容認ならまあいいか、とリーアもなんJ魔術師に(なら)ってこそこそと移動教室へ向かう集団から外れた。


 なお原作ゲームでも現実でも、ウンデルトは生徒会と一切関係がない。

 王太子である彼は政務も任されており、そこに生徒会業務まで詰め込むほど学園も王家も鬼ではなかったようだ。そして彼の右腕であるコルネリオも、当然生徒会には関わっていない。

 彼らの代わりに瓶底メガネをかけた七三頭の、素足に下駄を履いた伯爵令息(マザコンの熟女趣味)が生徒会長をしているのだ。もちろん彼も顔と声だけは麗しい、攻略対象者である。


 二階の角部屋である生徒会室にいたのは、ウンデルトと彼付きの使用人だけだった。来客用のソファでふんぞり返っていた彼は、入室したリーアへ「よお」と手を上げる。

「休み時間にここまで呼んで悪かったな。けどあいつに気付かれにくい場所を探したら、ここぐらいしかなかったんだよ」

「いえいえ、お気になさらず」

 リーアは一礼してから、彼に手招きされて向かいのソファに座った。そこへすかさず、メイドが白磁のティーカップを給仕してくれる。カップは(ふち)に色ガラスが使われ、薔薇の透かし模様になっている。いかにも値の張りそうなティーカップだ。


 そんなお高めティーカップからは湯気と共に、甘さを含んだ紅茶の香りが立ち上った。学び舎で嗅いでいい豊潤さじゃないだろう。

 折角なので温かいうちに飲みたいものの、前世の社畜記憶があるリーアはカップに手を付けず、まずはウンデルトの出方を窺った。


 彼の前には既にカップが置かれていたが、中身は空になっていた。そこへメイドがお替りを注ぎ入れる。

 ウンデルトは彼女へ手短に礼を言ってから、改めてリーアを見た。名前はともかく、顔だけなら文句なしの美男子だ。目が眩しいほどに。

「メモにも書いたんだが。お前、コルネリオとどうなるつもりなんだ?」


 なるほど。出来る上司として、腹心がご執心の貧乏貴族令嬢に釘を刺したいらしい。リーアは愛想笑いを崩さないまま、揉み手で答えた。

「もちろんご安心ください。まさか公爵令息様とお近づきになりたいなんて、夢にも思っ――」

「いや、そこは狙えよ。玉の輿じゃねーか」


 が、食い気味でツッコまれた。リーアの愛想笑いに、怪訝な色が混じる。彼女は「なんでだよ」と言い返す代わりに品よく首を傾げた。

「……他家に誇れることが無借金運営以外にない、貧しい男爵家の娘なもので。公爵家への玉の輿なんて、とても(おそ)れ多いのですが」

「まあ、普通はそうだよな。でもお前、あいつが普通に見えるか?」

 答えづらい質問である。思わずリーアは目を伏せた。


「えっー……と……多少、風変わりな方かなーとは」

「いやいや。あいつ、むちゃクソ変な奴だろ。目ぇ、いつもヤバいと思わねーか?」

「そう思うなら、止めてあげてくださいよ。あの方、殿下の側近なんですよね?」


 思わず素でツッコミ返しをかますと、何故か噴き出された。ウンデルトは男爵令嬢の小生意気なご意見にも「だよな」と笑って頷いている。寛大だ。

「一応止めてやりてー気持ちもあるんだけどな。まあ、オレ様ごときでは無理なんだわ。ってかたぶん、オレの親父でも無理」

 国家元首でも止められないヤンデレとは一体。やはり化け物なのでは?


 リーアが酸っぱい表情を浮かべていると、ウンデルトは彼女の方へ身を乗り出した。青い瞳を細め、苦み走った笑みになる。

「リーア嬢。お前はコルネリオに兄貴がいたって、知ってるか? 十年近く前に、死んじまったんだけど」

「……いえ、初耳です」

 わずかに言い淀んでから、リーアはきっぱりと首を振った。


 原作ゲームにおいても回想シーンにて、コルネリアが家族と不仲であることと、その原因が兄の死であることはふんわり描かれていた。

 最愛の兄を(うしな)った経験から、がむしゃらに愛を求めるヤンデレが形成された、ということらしい。

 しかしそれは、前世において実況動画から仕入れただけの又聞き情報だ。しかも当世のリーアは、コルネリオの家族構成すら聞かされていない。


 リーアの小さな逡巡(しゅじゅん)を、困惑と受け取ったらしい。ウンデルトは再度ソファの背もたれにふんぞり返ると、足も組んで殊更(ことさら)明るい声をだした。

「だよなー。まあ、醜聞(しゅうぶん)ってほどじゃねーけど、あの時は色々トラブったからな。遠方に住んでるお前は知らなくて当然だよ」

「なるほど……」

 長兄つまり跡取り息子が死んだのだ。ゴタついても仕方がないのかもしれない。

「――でもな、あいつに絡まれてる以上、知っておいた方がいい」

 彼の意見には、リーアも同感である。出来るだけ神妙な顔を作り、ヤンデレ爆誕に至る秘話を拝聴した。


 原作での悪役令嬢コルネリアは、幼い頃は普通の美幼女だった。

 両親は、跡継ぎでない彼女にあまり構わなかったものの、年の離れた兄が目いっぱいの愛情を注いでくれていたのだ。

 そしてそれは、悪役(仮)令息のコルネリオに対しても同じだったようだ。彼も兄がいた頃は、ただの純真無垢な美幼児だったらしい。


 転機は、その大好きな兄の死によってもたらされた。事件性のない、不運な落馬事故による突然死だった。

 最愛の兄の死に、幼いコルネリオは大いに打ちのめされた。もちろん両親も、天才の名をほしいままにしていた跡取り息子の死に嘆き悲しみ、ついうっかり言ってしまったのだ。


「せめて死んだのがコルネリオだったら」


 この思ってても絶対口に出してはいけない呟きを、よりにもよってコルネリオ本人に聞かれてしまった。しかも、兄の葬儀の直前に。

 当然コルネリオは号泣し、思い切り暴れた。

 ここで公爵夫妻が彼に謝ればまだマシだったのかもしれないが、彼らは開き直りからの逆ギレに転じたのだ。なんでだよ。


 この貴族と言うよりも、いい年をした大人にあるまじきド失態二連コンボの結果――

「オレも葬儀には出てたんだけどな……子どもながらにマジで地獄だと思ったよ。教会中がクソみたいにギスギスしてて、コルネリオはずっとギャン泣きでさ」

「うわぁ……」

「しかもあいつ、鼻水たらして泣きながら『じゃあ僕が死ねばよかったんだね!』とか言っててな。公爵夫妻も夫妻で、舌打ちしてあいつに怒鳴り返してやがったわけよ。ひでーだろ?」

 参列者だったウンデルトにとっても、二度と思い出したくもない葬儀が出来上がったらしい。彼の表情には、当時を思い出して蘇った忌々しさが満ち満ちている。


 もちろんそれだけではなく、心の傷によって見事に歪み、(ひね)くれまくった公爵令息も出来上がってしまったわけだが。


 当時の修羅場ぶりを知ったリーアも神妙な顔で、しみじみと息を吐く。

「他のご家庭のそういう空気、見せられても困りますよね。下手に口出しも出来ませんし」

「それな。屋敷に帰ってやれよって、おふくろも言ってたわ」

 原作ゲームにおいて、おっとり人妻として一部ファンから熱烈な人気を獲得していた王妃にそこまで言われるとは、よほどであろう。


 かく言う前世のリーアも、セクシーかつ善性の塊な王妃殿下にキュンと来た一人だったりする。

 当時は自分でも驚きだったのだ。ヒロインもイケメンどももそっちのけで、脇役に等しい王妃のはんなり笑顔に「……いいじゃん、熟女」と目覚めちゃったことに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ