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悪役令嬢でしょうか?いいえ、令息です。  作者: 依馬 亜連


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2/6

2:ヒロインはジェイソン・ステイサムと同じ誕生日

 『(つるぎ)の乙女は恋に落ちて』というタイトルの、家庭用ゲーム機向け恋愛シミュレーションゲームがあった。サブタイトルも付いていた気はするが、たしかイタリア語だったので今のリーアは覚えていない。

 いや、かつてのリーアも

「あー、うん。ペペロンチーノって書いてないことだけはたしか」

で流していた気がする。


 本作は乙女ゲーにRPGの要素を組み込んだゲームだった。

 乙女ゲーであるアドベンチャーゲームのパートは、各攻略対象者ごとにキュンッなイベントが盛り沢山かつ、キャラクターデザインも声優も一流どころを起用しており文句なしのクオリティだった。

 またRPGとしてもメインストーリーに加えてサブイベントやクエストが豊富で、アイテム等の収集要素も充実していた。おまけにゲームに不慣れな女性でも楽しめるよう、難易度変更も可能だったのだ。

 つまり、だいたいは誠実なゲームと言えよう。


 だが、これだけだったら前世のリーアは覚えていなかったはずだ。

 なにせ彼女は、乙女ゲーを嗜んだことがなかった。辛うじてギャルゲーなら、何本か遊んだ経験はあるが。

 前世のリーアの主戦場は、クソゲーまたはバカゲーだった。最も愛したゲームは、クソゲー界の征夷大将軍こと『デスクリムゾン』だ。ご存知でない方も、YouTubeなどでオープニング映像をぜひ見てほしい。凄いから。

 前世の彼女は『デスクリムゾン』――通称デス様を遊ぶため、リサイクルショップでブラウン管テレビも購入し直したほど愛していた。世間一般的にはヤバい人間だろう。


 そして自分で遊ぶのは無論、他のユーザーのプレイ動画を鑑賞するのも大好きな悪趣味野郎だったのだ。

 『剣の乙女は恋に落ちて』も、同士のバカゲー愛好家仲間のプレイ動画を鑑賞していた一作だった。


 どういったバカゲーなのかは、ボットンニー王国という国名からお察しであろう。

 ちなみにゲームパッケージの中央でキメ顔を作る、金髪碧眼のイケメンこそが王太子なのだが、彼の名前はウンデルトである。

 フルネームはウンデルト・ブリトワ・ボットンニー……ゲームが発表された当時も「ウンコの国のクソ王子かよ」とSNSで話題になっていた。

 もちろんファンからの愛称も「ウンコ殿下」である。蔑称か尊称か、判断に困るところだ。


 他にも「一人称が『小生』で、敵に攻撃されると喜ぶドM騎士」や「告白シーンやシリアスな場面でも、ずっとなんJ語で話す陰キャ魔術師」「王太子のストーキングが生き甲斐の神出鬼没な悪役令嬢」などなど、主要人物たちがことごとくイロモノだった。

 もちろん全員、容姿だけはどこに出しても恥ずかしくない美形である。


 ついでにストーリーも、基本だけは「復活した邪神とその信奉者を倒して世界を救う」という王道ファンタジーだ。

 しかし随所にネットスラングやジブリネタ、またはお笑い芸人ネタ等がねじ込まれている。


 また公式SNSにおいても、各キャラクターの誕生日に合わせた投稿で

「本日はフットワーク軽すぎなストーキング公爵令嬢こと、コルネリア・メリディアーニ様の誕生日です。本編では彼女の放つ全体魔法に、ヒンッと泣かされたファンも多いかもしれませんね。なお彼女は、ドウェイン・ジョンソンと同じ誕生日だったりします!」

などと、絶対に要らん情報まで添えて来るという徹底ぶりだった。


 この投稿後、外見だけは超妖艶な悪役令嬢コルネリアの際どいドレスを着たドウェイン・ジョンソンのイラストまたは、『ワイルド・スピード』で大暴れするマッチョなコルネリア嬢のイラストがネット上に大量放流されたのは、自然の流れだろう。


 こんな公式すらもどうかしているゲームの世界に、リーアは転生してしまったのだ。下手に動こうものなら――いや、下手に動かずとも、ロクでもない目に遭う可能性が高いだろう。

 前世の記憶を思い出した瞬間、リーアは現年齢に似合わぬ渋い目標を打ち立てた。


「わたしは絶対に目立たない。出る杭にならない。スローライフで、植物のような静かな暮らしを送るの」

 己の心に『ジョジョの奇妙な冒険』の吉良吉影(きらよしかげ)を宿し、平凡で無味無臭な生活を死守しようと心に誓ったのだ。


 幸いリーアには異性の手を収集してハァハァする、ド変態な猟奇趣味もない。

 このまま顔がちょっと可愛すぎるだけの男爵令嬢として育ち、隣の伯爵領にある女学校に通い、十把一絡(じっぱひとから)げの貴族令嬢から貴婦人へと進化して平々凡々に暮らすのだ――そう考えて、なんだかんだで十一年が過ぎた。


 しかし悲しいかな、RPGの主人公であるリーアのポテンシャルは妙に高かった。そりゃあ最終的に、世界の敵である邪神ダ=ツフンダを倒す逸材なのだ。高くて当然だし、国が見過ごすはずもない。


 ある日リーアの家に、王都にある名門学園からの手紙が届いた。いかにもお高そうな、金箔で縁取られた手紙の内容を要約すると

「おっす、セルヴァ男爵! オラは王立魔術学園校長! おめーんトコの一人娘、すんげー有能なんだってな! いっちょオラんトコに通わせろよ! 学費、タダにしてやっからよ!」

であった。つまりは特待生のお誘いである。


 この手紙を読んだ瞬間、男爵パパとリーアは号泣した。男爵は、娘の玉の輿が夢ではないと確信して。そしてリーアは、物語の舞台に引きずり出されることを確信して。

 そう、この学費もバカ高い魔術学園への入学から、イカれたゲームはスタートするのだ。


「わたしがっ……わたしが可愛い上に、優秀なばかりにぃぃぃー!」

 床にしゃがみ込み、握りしめた拳をダンダダンダンとリズミカルに打ち付ける娘(と、泣きながら庭を駆けずり回っているアホ犬みたいな夫)を見て、男爵夫人は上品に笑った。

「あらあら、リーアちゃんったら。でも、自己肯定感が高いのはいいことねぇ」


 朗らかな母の声が、かえってリーアの胸にぶっ刺さった。

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