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悪役令嬢でしょうか?いいえ、令息です。  作者: 依馬 亜連


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12/13

12:そしてヒロインは諦めた

 リーアはコルネリオからの不意打ちすぎるプロポーズに数分間頭がバカになったものの、その後は我に返って学園内に残る眷属を一掃して回った。もちろん求婚の一件はごまかした、というか

「わたしたち、未成年ですよね! ならそういう話って、親も交えてするもんじゃないっすか? そうですよね? ね? わたしに言われても、なんとも言えませんですしー!」

思い切り考えることを放棄して、後回しにしたのだ。


 そして眷属大暴れ事件から数日後、そのしわ寄せを食らう羽目になっていた。

 彼女がいるのは、学園内の応接室だ。ご身分の高いご来賓(らいひん)様がいらっしゃった際に使うらしい、なんとも高級感漂う調度品に囲まれた部屋だ。

 リーアはそのラグジュアリーなお部屋で、これまたブリリアントな革張りソファに座らされていた。彼女の隣に座り、(せわ)しなく目をまたたかせて周囲を見渡しているのは父の男爵だ。


 リーアの実家である男爵領は、ド田舎の農村である。どれぐらい田舎かと言えば、学園がある王都まで馬車で十日以上もかかるレベルだ。

 しかし今回、公爵家子飼いの竜騎士まで動員して、超高速で父を招集したらしい。竜の背で運ばれたことを嬉しそうに語る父を見た瞬間、リーアは己の失態を悟った。

(公爵家もノリノリじゃん! なんであの時、ちゃんと断らなかったの!)

 ラスボス化した悪役令嬢の猛威っぷりが脳裏をよぎり、面と向かって拒否できなかったわけだが。


 そんな風に日和(ひよ)った結果、向かいのソファにはニコニコと屈託なく微笑むコルネリオと、同じく満面の笑みを浮かべるヒゲの紳士が並んで座っている。口ヒゲを生やした紳士はもちろん、コルネリオの父の公爵だ。

 そう、公衆の面前で息子を「コルちゃん」と呼んではシカトされている、自業自得の残念公爵である。


「いやぁ。今まで色恋沙汰と縁遠かった息子に、こんな素晴らしい女性がいたとは。さすがだよ、コルちゃん」

 残念公爵は残念ぶりをみじんも出さず、イケオジオーラすら放って悠然(ゆうぜん)と言った。もちろん「コルちゃん」の呼びかけは、半笑いで無視されている。とても気まずい。


 しかし気まずい空気を、下っ端オーラを全開にした男爵が揉み手で参戦して吹き飛ばした。

「いえいえっ、恐縮でございます! むしろ(ワタクシ)どもこそ、公爵令息様のような素敵なお方に娘を見初めていただいて、もうっ感謝しかございません!」

 父はデレデレニコニコと、馬鹿のような元気いっぱいの声量で言ってから、猛然とリーアへ振り返った。そのままグッと、親指を立てる。


「やったねリーア! よっ、出世株!」

「……うっす」

 ここで「玉の輿」という単語をポロリしなかっただけ、マシと思おう。リーアは生気のない目と声で、雑に相槌を返した。


 しかしこのまま生ける(しかばね)として座っていたら、トントン拍子に婚約が結ばれそうだ。

 普通ならば、男爵家の娘が公爵家に嫁ぐなんてありえない。それこそ夢物語、おとぎ話だ。

 だがその娘が剣の乙女という、超プレシャスでオンリーワンな肩書きを持っているうえ、公爵令息の方も女性どころか全人類に興味がないことで有名な訳あり物件ならば。

 外野が表立って反論も出来ないのだ。おまけに王族も、歓迎ムードを漂わせていると来た。


 正直なところ、このまま大人しく婚約を受け入れた方が、コルネリオも(ぎょ)しやすい気はする。

 剣の乙女に選ばれてしまった時点で、リーアもかなり「もうどうなってもいいや☆」精神にはなっている。

 それにコルネリオの顔は、彼女の好みのど真ん中だ。


 だがそれでも。見え見えの火種については、やはり注意喚起するしかないだろう。

 リーアは一つ息を吸って、コルネリオを見た。彼もすぐに、とろけた甘々しい目で彼女を見つめ返す。

「リーア嬢、どうしたの?」

「いえ、えっと、あの……婚約のお話は、たしかに光栄ですけど……わたしはこれから先、邪神を封印するために、地下神殿に通わなければいけませんので」

 リーアは煮詰めた砂糖にハチミツとホイップクリームと、ついでに味醂(みりん)もダパァッと注ぎこんだような彼の瞳に照れながらも、剣の乙女の務めを語った。


 これは名誉職でも何でもなく、邪神討伐という激烈に面倒臭いお仕事込みでの肩書きなのだ。待っているのはきっと、臭くて汚くて生傷の絶えない、カスみたいな職場だろう。

 邪神の眷属だって、剣の一振りで倒せるのはチュートリアルで登場するあの小さな連中だけだ。それ以降は攻略対象者と協力し、弱らせてからでないと消滅させられない。


 ゲーム画面で見た長い長い(そして気味悪い)地下神殿を思い出して、リーアの目が暗くなる。浮かれていた父も、邪神討伐という大役を思い出して青ざめ始めた。遅すぎるだろ。

「……なので正直、五体満足で戻って来れる自信もないですし……しかも当然ながら、男所帯での討伐です。身持ちがよくないかも、と噂される可能性だってあります」

 ひぃっ、と男爵が弱々しい悲鳴を上げた。傷だらけの娘を想像したらしい。公爵もわずかに眉をひそめた。


 しかし温和でお人好しな男爵と違って、コルネリオは諸々の覚悟が完了しているようだ。一人だけ表情を一ミリも曇らせず、むしろうっとりとリーアを見つめている。

「あの時私が誓ったのを、お忘れですか? 貴女の全てを守り、討伐のお手伝いもするつもりですよ。貴女に群がる、あらゆる害悪やゴミ虫から守って差し上げましょう」

「ゴミ虫……」

 そのゴミ虫の中には、彼の主もいるのだろうか。いるんだろうな、たぶん。いや絶対いる。


 コルネリオは体を少しだけ前へ傾け、リーアの暗い顔を覗き込む。

「ご存知ではないかもしれませんが、私は剣も魔術も得意な方でして」

 そこで思い出されるのは、全体魔法を連続でぶっ放し、邪神と合体した後はオッパイミサイルという謎の新技まで披露する悪役令嬢の暴れっぷりだった。

 リーアの頬も、つい引きつる。

「あー……たぶん、存じてると思いますね。ハイ……」

「それは何より。幸いどちらも人並み以上にこなせますので、邪神討伐の道中でも大きな戦力になると自負していますよ」


 彼はそう言って目を細め、小鳥のように首を傾げる。仕草は悪戯っぽいのに、深紅の瞳には隠しようもない闇があった。

「――それともリーア嬢は、私を置いて行かれるおつもりなのですか?」

 闇というか病みを(はら)んだ声音に、室内の人間が全員ヒンッ!とびくついた。


 リーアだって置いて行けるなら、そりゃあ置いて行きたい。

 この男、見た目はド美形で妖艶な貴公子なのだが、やることなすことが呪いの人形めいている。邪神をやっつけに行くのに、呪物をお供にしてたまるか。むしろリーアたちが討伐されかねない。


 だがこの呪物を放置しておくと、今度は原作通り邪神と仲良しになる可能性が大なわけで――

 リーアは束の間無表情になって考えた。彼をどう扱うべきか、と。

 しかし考えたものの、これまでの自分の努力がことごとく空振りに終わっている事実も再確認してしまった。


 そして行き着いた結論は

(……まあでも。裏で色々やってた原作ゲームと違って、本人が『ついて行きたい』って言ってくれてるんだし。というか、そもそも性別も違うし……もういいか、なんか疲れた!)

であった。前世は庶民で、今世もほぼ庶民の小娘の手に負える案件ではない。


 ならばもう、なるようになれだ。


 リーアもコルネリアと同じように、首を傾げてちょっとだけ笑った。こちらは覇気もないが、毒気もない笑顔だ。

「置いてかないですよ。だって恨まれそうだし」

 ただ後半の一言に、ちょっとした意趣返しは混ぜてみた。しかし。

「私の性分を熟知して下さって、ありがとうございます」

 むしろとんでもなく嬉しそうに、頬を赤らめて喜ばれた。リーアは再びの失態に「クソが!」と思いながらも――国を傾けるどころか滅ぼせそうな麗しの顔から目が離せず、それどころではなかった。


(まあ、顔はめっちゃくちゃ好きだしね。うん……面食いでよかったよ……はー……なんだこの顔。キレイ過ぎだろ。ってか声もエロい。本当、傍から見てる分にはおもしれー目の保養なのになぁ。なんなんだろう、この色男)

 とりあえず、うっとりと彼の笑顔を鑑賞した。ヤケクソ半分、現実逃避半分だ。

 しかしニコニコとコルネリオを見つめ返す姿は、大人たちからは好印象に映っていたらしい。

 息子に訪れたようやくの春に、公爵は目を潤ませた。そして男爵も、寂しそうではあるが念願の玉の輿にホッと微笑んでいる。


 ちなみに色々と諦めと受け入れモードのリーアは、この時夢にも思わなかった。

 ゲーム内では平均プレイ時間五十時間にも及ぶ邪神討伐大作戦が、ラスボスの相方を加入させたことでまさかの稼働日数一週間で終了してしまうだなんて。

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― 新着の感想 ―
一週間なら時間でいうと144時間だ ゲームより長いよ!やったねリーアちゃん!
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