0.3 絶望
僕の名前が呼ばれた。
「イニティウム公爵家長男、アロイス!」
数百の視線が僕に突き刺さる。期待、羨望、嫉妬、好奇心。
僕は、祭壇へと歩を進めた。
祭壇には、巨大な魔水晶が置かれている。
神官が厳かに告げた。
「では、アロイス様。水晶に手を」
僕は小さな右手を、水晶に乗せた。
(光れ。……世界中が驚くくらい、眩しい光で!)
念じた。
体中の熱を、掌に集めるイメージで。
…………。
……………………。
1秒。10秒。1分。
水晶は、沈黙していた。
光はおろか、微かな熱すら発しない。ただの冷たい石塊として、そこにあった。
「……あれ? おかしいな」
わかってはいた。
「光ってよ。ねえ、光ってよ!」
わかってはいたが、涙がこぼれ出ていた。
神官が青ざめた顔で、予備の測定器を持ってきた。
だが、結果は同じだった。
「……魔力量、測定不能。いえ、反応がありません」
神官の声が、静まり返った広間に虚しく響く。
「つまり……ゼロ、です」
時が止まったようだった。
最初に聞こえたのは、誰かが吹き出す音。
それを皮切りに、さざ波のような嘲笑が広がっていった。
「ゼロだと? 聞き間違いか?」
「一般人でも5はあるぞ? 魔法が使えないのか?」
「おいおい、『蒼の瞳』なんてただの見掛け倒しかよ!」
「イニティウム家も終わったな。とんだ恥さらしだ」
笑い声。失望の溜息。侮蔑の視線。
それらが一斉に僕に降り注ぎ、幼い心を串刺しにする。
僕は、英雄じゃなかった。ただの、目の色が珍しいだけの「無能」だったんだ。
その時だった。
「静粛に願おうか」
ドォォォンッ!!
広間の床が揺れた。物理的な衝撃ではない。父上が放った、濃密な「殺気」による威圧だ。
笑っていた貴族たちが、ヒィッと悲鳴を上げて腰を抜かす。
父上は鬼のような形相で会場を睨みつけると、祭壇で立ち尽くす僕の元へ歩み寄り、大きなマントで僕の小さな身体を隠すように包み込んだ。
「帰るぞ、アロイス。母さんがアップルパイを焼いて待ってる」
「……父上……」
僕は父上の服を握りしめ、泣きじゃくった。
「ごめんなさい……僕……ごめんなさい……!」
「謝るな」
父上の腕は、痛いほど強く僕を抱きしめていた。
「お前が謝ることなど何一つない。……誰がなんと言おうと、お前は最高の息子だ」
その優しさが、今の僕には何よりも辛かった。
僕が弱いせいで、父上まで笑われた。泥を塗ってしまった。
「蒼の瞳」の神童は、この日死んだ。
そして、僕の目から色が消えた。
ふーむ
話の区切りが難しいですね。




