23.夏へ
Sクラスとの合同演習から数日後。
学園は、夏休み前の恒例行事『新入生サークル勧誘期間』で賑わっていた。
中庭には無数の屋台や看板が並び、上級生たちが新入生を奪い合っている。
「おい見ろ、Eクラスのアロイスだ!」
「あのアリシア様の『聖域』を破ったっていう…?」
僕が歩くと、周囲からヒソヒソと声が聞こえる。
一躍有名人になったわけだが、肝心の勧誘は全く来ない。
なぜなら――
「君、魔力ゼロなんだってね? うちは『火魔法研究会』だから無理だわ」
「『飛行サークル』です。飛べない人はちょっと…」
この学園のサークルは9割が魔法系。
魔力のない僕は、どのサークルにとっても規格外すぎて扱いづらいのだ。
「ちぇっ。せっかく英雄扱いされたのに、モテないなぁ」
隣を歩くレオンがぼやく。彼は「陸上部」や「逃走研究会」から引く手あまたで、大量のチラシを抱えていた。
「まあ、僕は帰ってトレーニングでも……」
そう言って帰ろうとした、その時だ。
「――あら。貴方、『古い匂い』がするわね」
不意に、袖を引かれた。
振り返ると、そこには一人の女子生徒が立っていた
瓶底のような分厚い眼鏡に、ボサボサの黒髪。制服の上から薄汚れた白衣を羽織り、手にはカビ臭い洋書を抱えている。
「……僕ですか?」
「ええ。貴方から漂うマナの残滓……現代の『数式』じゃないわね。もっと原始的で、泥臭い……『言葉』の匂い」
彼女は僕の顔を覗き込み、ニヤリと笑った。
「私はエルザ。『古代遺跡研究会』の部長よ。...貴方入らない?」
「古代遺跡……?」
「ええ。今の魔法体系ができる前の、失われた歴史や遺物を掘り起こすサークルよ。部員は私一人。活動場所は旧図書館の地下。…興味ない?」
ドキリとした。
僕の使う「古代魔法」は、実家の屋敷にあった「開かずの間」で見つけた古文書を解読し、たった一人で研究して身につけたものだ。
誰にも教わっていない、僕だけの秘密。
それを、一目で見抜かれた?
そのルーツを知ることは、確かに興味がある。
……だが。
「すみません。夏休みは修行に出る予定なんです」
今の僕に必要なのは知識よりも、ガザ師匠に叩き込まれた剣術と、この古代魔法を実戦で使いこなすための経験だ。
僕が断ると、エルザ先輩は残念そうに、でもどこか楽しそうに肩をすくめた。
「そう。……まあいいわ。肉体の鍛錬も結構だけど、『過去』を知りたくなったら来なさい。歴史は繰り返す貴方の戦いは、きっと過去と繋がっているから」
彼女は古びた部室の鍵をチャリとならし、人混みの中に消えていった。
『古代遺跡研究会』
……今は無理だが、頭の片隅にこびりつくような、奇妙な出会いだった。
翌日。1学期最後のホームルーム。
ギル先生は、夏休み前の浮ついた空気を一蹴するように黒板を叩いた。
「……静かにしろ。夏休みに入る前に、一つだけ伝えておくことがある」
生徒たちがざわめく。先生の目が、いつになく真剣だったからだ。
「2学期の初めに、学園最大のイベント『全学年対抗・魔導武闘祭』が開催される」
「魔導武闘祭……?」
それは王族や海外のVIPも観戦に来る、国を挙げたビッグイベントだ。
「だが、全員が出られるわけじゃねぇ。出場できるのは、各学年から選抜された『上位5名』のみだ」
ギルはチョークで大きく「5」と書いた。
「夏休み明けすぐに、その5人を決める『1年生代表決定トーナメント』を行う。クラスの枠は関係ねぇ。SもEも混ぜこぜの個人戦だ。……昨日の勝利がマグレじゃねえって証明したい奴は、枠を勝ち取れ」
教室の空気が変わった。
昨日の勝利はチーム戦だった。だが、次は個人戦。
ノアやユリウス、そしてあのアリシアが、本気で復讐に来るだろう。
そして、まだ見ぬ強敵たちも――。
「面白い」
アロイスは拳を握りしめた。
夏休みの修行。その成果を試すには、最高の舞台だ
「解散! ……ま、ハメ外しすぎて補導されんなよ」
こうして、僕たちの激動の1学期が幕を閉じた。
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