21.決戦。
森の中央広場。
焼き払われた更地で、Sクラス主力とEクラス精鋭が激突した。
「ここからは総力戦だ。小細工なしで消し炭にしてやる」
ノアが吠える。アロイスは黒刀を抜き放ち、不敵に笑った。
「望むところだ。プランCだ!」
ドォォンッ!
戦場が弾けた。
「逃がしませんよ!」
ユリウスが眼鏡を光らせ、指先から『誘導雷』を放つ。必中の追尾魔法だ。
「うおっ! 危ねぇ!」
レオンは地面を転がり回避するが、雷は執拗に追ってくる。
「無駄です。君の回避ルートは計算済みだ」
「計算? 知るかよそんなもん!」
ドンッ!
レオンは木の幹を蹴り、物理法則を無視した急加速を見せた。アロイス直伝の変則ステップ。
「時間稼ぎにしかならないですよ!そんなもの!」
レオンの口角が上がる。
時間稼ぎ。それでいい。
「やーい!やーい!Sクラス様よお!当ててみやがれってんだ!」
「目障りよ、ゴミ虫ども!」
エリスが扇子を振るう。
ゴオオォォッ!!
森の木々を根こそぎなぎ倒すほどの『暴風』が発生した。
バーンとミナは、大木の陰に隠れてやり過ごすのが精一杯だ。
「ひぃぃっ! 出力がおかしいよ! あんなの当たったら消し飛んじゃう!」
バーンがガタガタ震えながら叫ぶ。
ミナも顔面蒼白だ。針を投げようにも、風圧が強すぎて届かない。
「……無理。勝てない」
「そうだね、勝てない! ……でも、『足止め』ならできる!」
バーンは覚悟を決め、リュックの中身をぶちまけた
大量の煙玉と、粘着液が入ったカプセル。
「行かせないよ、お嬢様!」
ボシュッ! ボシュシュッ!
辺り一面が濃密な色の煙に包まれる。
「小賢しい!」
エリスが鼻で笑い、一振りの風で煙を吹き飛ばそうとする。
だが、煙が晴れた一瞬の隙。
ヒュッ!
ミナが投げた針が、エリスの頬をかすめ、一筋の血を流させた。
「なっ……!?」
エリスが驚愕し、防御の風を強める。
「わたくしの顔に傷を……! 許しません、挽き肉にしてあげます!」
エリスの標的がアロイスから外れ、バーンたちに向いた。
これこそが狙い。
バーンが次々とガラクタを投げ、ミナが死角から針を放つ。
エリスの暴風は圧倒的だが、チョロチョロと動き回る二人を捕まえきれず、イライラだけが募っていく。
(倒せなくていい……! 一秒でも長く、この怪物をここに釘付けにするんだ!)
圧倒的な格上相手に、Eクラスの3人は必死の「遅延行為」を続けた。
一方、戦場の中央では、さらに激しい衝撃音が響き渡っていた。
「オオオオッ!! 消えろアロイスぅぅぅッ!!」
ノア・ルバリオンが吠える。
彼は魔術師でありながら杖を持たない。両拳に圧縮した爆炎を纏わせ、超近接戦闘を仕掛ける『爆炎の格闘者』だ。
踏み込みと同時に放たれる拳は、岩盤すら粉砕する威力を持つ。
ドゴォォォォンッ!!
爆風が地面をえぐり、熱波が空気を焦がす。
だが。
「……熱いな。少し頭を冷やしたらどうだ?」
アロイスはその猛攻の中を、涼しい顔で歩いていた
ノアの拳が顔面を捉える寸前、アロイスの姿がブレる。
(摩擦係数ゼロ――『滑走』)
氷の上を滑るように、最小限の動きで攻撃を回避。
紙一重でかわされたノアは、空を切った勢いでバランスを崩しかける。
「チョロチョロと逃げ回るなッ!」
ノアは激情のままに魔力を解放した。
全方位爆破。回避不可能な面制圧魔法だ。
「これなら避けられねえだろ!」
迫りくる紅蓮の壁。
アロイスは逃げなかった。いや、逃げる必要などなかった。
彼は黒刀を鞘に収めたまま、左手を前にかざした。
「避けはしない。……いなすだけだ」
アロイスが手首を捻る。
その瞬間、大気中のマナがアロイスの腕力によって強引にねじ曲げられた。
(古代魔法――『潮流』)
グンッ……!
ノアの放った爆炎が、見えない巨大な渦に飲み込まれたかのように、アロイスの身体を避けて左右へと逸れていく。
炎はアロイスの後方の木々を焼き尽くしたが、アロイス自身には煤一つついていない。
「は……!? 魔法を、素手で逸らした……!?」
「魔法頼みの大味な拳じゃ、僕には届かないよ」
アロイスが一歩、踏み込む。
その一歩は、ノアの反応速度を遥かに超えていた。
懐へ侵入。
「がッ……!?」
「終わりだ」
アロイスの掌底が、ノアの鳩尾に深々と突き刺さる
ズドンッ!!
内臓を揺さぶる衝撃。
ノアは声もなく崩れ落ち、白目を剥いて地面に沈んだ。Sクラス筆頭が、手も足も出ずに完封された瞬間だった。
障害は排除した。
アロイスは振り返らず、さらに奥へ。
そこには、最後の砦――Sクラスの旗を守る「守護神」が待っている。
敵本陣。
戦場の喧騒が嘘のように静まり返ったその場所に、一人の少女が優雅に椅子に座っていた。
輝くような金髪と、翡翠の瞳。
アリシア・ルクセリア。
この国の第3王女。
その魔力量は35,000。ノアすら遥かに凌駕する、正真正銘の怪物だ。
「……無茶をしますね、アロイス様」
アリシアはティーカップを置き、悲しげに首を振った。
彼女の周囲には、半透明の光のドームが展開されている。
王家特有の聖属性魔法、『聖域』
物理、魔法、あらゆる干渉を拒絶する絶対防御の要塞だ。
「ノアたちを倒しても、この聖域は破れません。貴方のような『持たざる者』の暴力は、全て弾かれます」
彼女の瞳にあるのは、敵意ではない。
弱き者を守らなければならないという、無自覚で傲慢な「憐憫」だ。
「貴方は守られるべき弱者。……大人しく私の箱庭にお入りなさい」
慈愛という名の拒絶。
だが、アロイスは黒刀を構え、ニヤリと笑った。
「……『弱者』か。随分な言い草だね」
アロイスは全身の筋肉をバネのように収縮させた。
黒刀に、自身の全体重と、古代魔法による超重力を乗せる。
(質量変換――『偏重』)
(固有振動数同調――『共振』)
二つの古代魔法の併用。
アロイスが振り下ろした一撃は、もはや剣撃ではない。隕石の衝突だ。
ギチチチチチチ……!!
光の壁と、漆黒の刀が衝突し、火花を散らす。
アリシアの余裕の笑みが凍りついた。
「な……嘘……!? 私の聖域が、軋んで……!?」
「悪いけど、王女様」
アロイスは歯を食いしばり、鋼鉄の筋肉を軋ませて無理やりバリアをこじ開けていく。
「僕は誰かに守られるつもりはない。……自分の足で立つと決めたんだ!」
パァァァンッ!!
ガラスが砕けるような音と共に、聖域が粉砕された
光の破片が舞い散る中、アロイスはその勢いのまま旗を掴み取った。
「……勝負ありだ」
ウゥゥゥゥゥーーーーーッ!!!
その時。
演習終了を告げるサイレンが、森中に鳴り響いた。
最強のSクラスが、そして王家の絶対防御が、魔力ゼロの「落ちこぼれ」に破られた瞬間だった。
アリシアは腰を抜かし、呆然と目の前の少年を見上げていた。
それは彼女が初めて見た、自分を守ろうとしない強く美しい獣の姿だった。
んん〜、、。
戦闘シーン苦手。
どうやって表現するのこれ。
誤字脱字、改善点などあれば教えていただけると嬉しいです。




