19.5 チーム・ゼロ
放課後のEクラス教室で、僕はいつものメンバーに声をかけた。
「ねえ、みんな。ちょっと付き合ってくれない?」
机で突っ伏していたレオンが顔を上げる。
「あ? どこにだよ。食堂ならもう閉まってるぞ」
「違うよ。……裏山で、特訓しよう」
僕の提案に、ガラクタいじりをしていたバーンと、カーテンに隠れていたミナが反応した。
「とっくん……?」
「そう。今のままじゃ来週のSクラスとの合同演習、ただの『的』にされて終わる」
僕はみんなの顔を見渡した。
「悔しくないか? またノアたちに見下されて、泥水を啜らされるのは」
レオンが眉をひそめ、やがてフンと鼻を鳴らして立ち上がった。
「……ったりめーだろ。あいつらの余裕面、一発殴らなきゃ気が済まねえ」
「ボ、ボクも……自分の発明が通用することを証明したい!」
「……私……もう、逃げたくない……」
全員の目に、小さな火が灯る。
魔力一桁の落ちこぼれ集団。けれど、牙を失ったわけじゃない。
「よし、決まりだ。……僕が、君たちの『武器』を磨いてあげる」
「いいかい、レオン。君の足は武器だ」
アロイスは木刀を構え、レオンに向き合う。
「でも、ただ逃げるだけじゃダメだ。魔法使いは目で追って魔法を撃つ。だから、『リズム』を狂わせろ」
「リズム?」
「急加速と急停止。……相手が『ここに来る』と思った場所を裏切れ」
何度も何度も、アロイスが投げる石を避ける練習。
泥だらけになりながら、レオンは「変則的な走り」を身に着けていく。
次に、バーン。
「バーン。君の発明はすごいけど、準備に時間がかかる」
「うぅ……部品が多くて……」
「だから、『設置型』に特化しよう。戦場を君の『工房』に変えるんだ。あらかじめワイヤーやトリモチを仕掛けて、敵を誘導する」
最後に、ミナ。
「ミナ。君の投擲精度はSクラスにもいない才能だ」
アロイスは彼女の手を取った。指先のタコ。努力の証だ。
「君は姿を見せなくていい。影から、敵が魔法を撃とうとする瞬間、その杖か指を狙うんだ。……君が僕たちの『守護神』だ」
「……うん。わかった」
ミナの目に、強い意志が宿る。
「よし。じゃあ仕上げだ」
僕は木刀を抜き、3人に向き直った。
「僕を、Sクラスの『ノア』だと思って殺しに来てくれ」
「はあ!? アロイス、お前死ぬぞ!?」
「手加減はしないよ。……来いッ!」
僕が殺気を放つと、3人の顔色が変わった。
本気だ。やらなきゃやられる。
「くそっ、行くぞ!!」
レオンが突っ込んでくる。
以前ならただの猪突猛進だったが、今は違う。
ジグザグに走りながら、足元の砂利を蹴り上げ、僕の視界を潰しに来る。
(いい動きだ。……でも、甘い!)
僕は砂利を手で払い、レオンの剣を弾く。
その瞬間。
カシャンッ!
足元で音がした。
ワイヤーだ。バーンがレオンの動きに合わせて、死角に罠を張っていたのか。
体勢が崩れる。
「今だ、ミナちゃん!」
バーンが叫ぶ。
ヒュッ!
音もなく飛来する石礫。狙いは僕の眉間。
回避不能のタイミング。
(……やるね!)
僕は口角を上げ、呼吸を変えた。
吸気……循環……。
『魔導呼吸法』による身体強化。
限界を超えた反射神経で首を捻り、石を紙一重で躱す。
ドスッ!
石が背後の木にめり込んだ。
「……うっそだろ!? 今の避けるのかよ!?」
レオンが絶望の声を上げる。
「合格だ」
僕は構えを解き、息を吐いた。
「今の連携、完璧だったよ。もし僕が魔法使いなら、詠唱を中断させられて、レオンに殴られていた」
3人がへたり込む。
全員、汗だくで泥だらけ。でも、その顔には今までにない達成感があった。
「すげー……。俺らでも、アロイスをヒヤッとさせられた……」
「ボクの罠、ちゃんと作動した……!」
「……私、外した……次は、当てる」
それぞれが手応えを感じている。
個々の力は弱くても、噛み合えば格上を食える。
「その意気だよ。……Sクラスの連中は、個人の力に頼り切っている。連携なら、僕たちの方が上だ」
「へへっ……なんか、いける気がしてきたぜ」
レオンが笑う。
「ボクの罠、絶対引っかかるよ!」
バーンが眼鏡を拭く。
「ちょっと...自信持てた」
ミナが手を心に当てる。
アロイスは空を見上げた。
個の力は弱い。でも、噛み合えば格上を食える。
僕はみんなに手を差し伸べた。
「勝とう。Eクラス全員で」
夕焼けの下、泥だらけの手が重なり合う。
前衛:レオン
工兵:バーン
狙撃手:ミナ
指揮官:アロイス
こうして、最強の落ちこぼれパーティ『チーム・ゼロ』の連携が完成した。
準備は整った。
次は、本番――Sクラスとの合同演習だ。
夕闇が迫る裏山。
ボロボロになったアロイスたちは、泥だらけの拳を突き合わせ、解散した。
「じゃあな! 明日の演習ぶちかましてやろうぜ!」
レオンの声が遠ざかっていく。
その様子を、少し離れた高い木の上から見下ろす影があった。
担任のギルだ。
彼は咥えていた香草を噛み潰し、気だるげな目を細めた。
「……ケッ。青春ごっこかよ」
口では悪態をついているが、その口元は微かに吊り上がっていた。
かつて戦場で、部下を捨て駒にする貴族たちを見てきた彼にとって、アロイスたちの泥臭い結束は、眩しく、そして懐かしいものだった。
「個の力でねじ伏せる『英雄』と、群れで巨象を食い殺す『狼』か……」
「面白くなってきやがった。見せてみろよ、アロイスお前が作る『最強の掃き溜め』ってやつをな」
ギルは音もなく木から飛び降り、闇へと消えた。
その背中は、教師というよりは、獲物の成長を楽しむ狩人のそれだった。
ふーむ。
ちゃんとやっぱ書き方勉強した方がええですかね?
アドバイスまってます〜。




