17.屑鉄と迷子の子猫
Eクラスの教室は、本校舎から隔離された森の奥、ツタの絡まる「第3旧校舎」にあった。
カビ臭い教室に集められた30人の生徒たち。彼らは皆、魔力が低いという理由でここへ追いやられた「負け組」の目をしていた。
だが、アロイスは違った。一番後ろの席で、窓の外の森を眺めながら面白そうに周囲を観察していた。
(……悪くない。障害物が多いこの森は、ゲリラ戦の練習に最適だ)
その時、バンッ!! と教室の引き戸が蹴破られるような勢いで開いた。
粉塵が舞う中、入ってきたのは無精髭を生やした男 死んだ魚のような目をしているが、全身から漂うのは、教育者にあるまじき鉄錆と血の匂い。Eクラス担任、ギルだ。その経歴は一切不明。学園の七不思議の一つとも噂される男である。
「よう、ゴミ虫ども。俺が担任のギルだ」
ギルはチョークを指で弾き、黒板に深々と突き刺した。カツン、と乾いた音が響く。
「このクラスの授業は一つだけ。『生存』だ」
教室がざわめく。魔法史でも理論でもなく、生存?
「魔力がねぇなら頭を使え。罠を張れ、毒を盛れ、背後から刺せ。教科書通りの魔法なんざ教えねぇ。…格上に勝つための『殺し合い』を叩き込む」
ギルの狂気じみた演説に、生徒たちは恐怖に震えた だが、その言葉はアロイスの、そして一部の生徒たちの胸に火をつけた。ここは墓場じゃない。牙を研ぐための檻だ。
「来週、Sクラスとの『合同演習』がある。各々、死なない程度に覚悟して挑むように。……以上だ」
ギルはそれだけ言い残し、嵐のように去っていった
ギル先生が去った後の教室は、ハチの巣をつついたような騒ぎになっていた。
「合同演習だってよ……」
「Sクラスの標的にされるだけじゃねえか」
と嘆く声が響く。そんな中、僕の周りには奇妙な連中が集まってきた。
「へえ! お前が『ゼロ』のアロイスか! 噂になってるぜ!」
前の席から身を乗り出してきたのは、茶髪のレオン
「俺はレオン! 魔力は120ちょい。ギリギリD級に引っかかった程度の凡人だけど、足の速さだけは自信あるぜ!」
レオンはVサインを作って笑った。嫌味のない、底抜けの明るさだ。すると、その横からメガネの少年がヌッと顔を出した。
「……キミ、本当にゼロなの? 測定器のバグじゃなくて?」
彼は片手にドライバー、片手に謎の金属部品を持っている。バーンだ。
「ああ、正真正銘のゼロだよ」
「すげぇ…! 僕は25しかないE級だから、親近感覚えるよ。理論上、生体活動に必要な微量マナすら自己生産してないなんて…キミの身体どうなってるの? 解剖させてくんない?」
バーンが興奮してドライバーを突きつけてくる。魔力25。この学園では致命的に低い数値だが、彼に悲壮感はない。その目は典型的なマッドサイエンティストのそれだ。
「やめろよバーン。アロイスが引いてるだろ」
レオンが笑いながら止める。
「だってさぁ! 魔力ゼロでゴーレム倒したんだろ? 絶対に何かカラクリがあるはずだ! 筋肉増強スーツか? それとも対魔素材の刀か?」
「……まあ、企業秘密ってやつだよ」
僕がはぐらかすと、バーンは残念そうに、でも興味津々に自分の席に戻っていった。魔力25で入学できたということは、筆記か実技で何か特化した才能があるはずだ。魔導具いじりか、と僕は当たりをつけた。
ふと、視線を感じた。
教室の隅。カーテンの影に隠れるようにして、小柄な女子生徒が座っている。長い前髪で目元は見えないが、ジッとこちらを伺っている気配がする。
「……あの子は?」
僕が小声で聞くと、レオンが困ったように眉を下げた。
「ああ、ミナだ。さっき名簿で名前だけ見た」
「知り合いじゃないのか?」
「まさか。教室に入ってきた瞬間から、ずっとあんな感じで布にくるまって震えてるんだよ。俺もさっき『よろしくな!』って声かけたんだけど、ビクッ!てされただけで無視されちった」
レオンは「参ったね」と肩をすくめる。
ミナと呼ばれた少女は、僕たちが噂しているのに気づいたのか、さらに布を強く握りしめ、亀のように縮こまってしまった。周りの生徒たちも、どう接していいか分からず、遠巻きに見ている状態だ。
だが、僕は見逃さなかった。
彼女の机の上に、綺麗に手入れされた「針」が置かれているのを。それも、重心が完璧に調整されたプロ仕様のものだ。ただの怯えている少女が持つ道具じゃない。魔力がないわけじゃなさそうだ。むしろ、気配を消すために抑えているのかもしれない。
一癖も二癖もありそうな連中だ。
Sクラスのエリートたちが見たら「ゴミの集まり」と笑うだろう。でも、僕には宝の山に見えた。彼らは正面からの魔力勝負を捨て、別の牙を研いでいる。
「……ねえ、みんな」
僕はニヤリと笑って、彼らに話しかけた。
「来週の合同演習。……Sクラスの鼻、明かしてやりたくない?」
レオンが目を丸くし、バーンがメガネを光らせ、ミナがピクリと顔を上げた。
「どうせ負け戦だろ? 相手はあのノアやユリウスだぜ」
「いや。ルール次第じゃ勝てる」
僕は、ギル先生が黒板に残した『工夫』と『殺意』の文字を指差した。
「先生も言ってただろ? 正面から戦う必要はない。……僕たち『掃き溜め』なりの流儀を見せてやろうよ」
教室の空気が、少しだけ熱を帯びた気がした。まだ小さな火種だが、それは確かに「反逆」の狼煙だった
遅くなりました、、、!
誤字脱字、改善点などあれば教えていただけると嬉しいです。




