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蒼とゼロ  作者: 霧ぽ
第1章 欠たる器の反逆
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15.入学試験

 王立魔法学園の試験会場は、一種異様な熱気に包まれていた。

 国中から選りすぐりのエリートたちが、己の力を誇示するために集まっているのだ。

 僕の席の近くには、あのノア・ルバリオンがいる。彼は不機嫌そうにペン回しをしながら、周囲を威圧するような魔力を垂れ流していた。

 反対側にはユリウス・サピエンティア。銀縁眼鏡の彼はすでに問題を解き終えているのか、涼しい顔で瞑想している。


「試験開始!」


 試験官の合図と共に、一斉に羊皮紙がめくられた。

 筆記試験。内容は、魔法史、魔導幾何学、現代魔法理論……。

 ペンを走らせる。知識なら、セバスと共に王国の学者レベルまで詰め込んである。

 だが、最後の大問で手が止まった。


『問10:火属性魔法と風属性魔法を合成する際の、マナ干渉率の最適解を求めよ』


 問題文には、前提となる魔法式が記載されている。

 ……この式、間違っている。

 これは3年前に発表された古い論文の引用だが、その後の研究で「大気中の湿度による減衰」が考慮されていないことが証明されているはずだ。


(……意地悪だな)


 僕は手を挙げようとして、やめた。ここで指摘しても騒ぎになるだけだ。

 僕は淡々と回答欄に記述した。


『出題の前提式には、湿度係数αが欠落している。よって、出題者の意図する解はXだが、真の最適解は以下の通りYとなる』


 修正式も含めて、完璧な論理で記述する。

 開始30分。僕はペンを置いた。

 教官が怪訝な顔で回収に来て、僕の答案を見た瞬間ギョッとして二度見した。


(筆記は満点だ。……さあ、次は「道化」を演じに行こうか)


 筆記試験が終わり、会場はさらにヒートアップしていた。次なる魔力測定こそが、彼らの本領だからだ。


「次! ルバリオン公爵家、ノア・ルバリオン!」


 名前が呼ばれると同時に、燃えるような赤髪の少年が祭壇へ上がった。

 彼が水晶に触れた瞬間――。

 ドオオオォォッ!!

 水晶が赤熱し、天井を焦がすほどの火柱が上がった


「そ、測定不能……いや、数値出ました! 魔力量22,000! 歴代新入生でトップクラスです!」


 会場がどよめく。ノアは「チッ、調子悪ぃな」と悪態をついて壇上を降りた。

 その後も、怪物たちの独壇場だった。

 ユリウス・サピエンティア。

 彼は雷魔法による精密な魔力操作を見せつけ、測定器に美しい幾何学模様を描いた。


「魔力量5,000!さらに制御精度はSランク……! まさに『知』の申し子!」


 エリス・リーウェス。

 黄金の髪をなびかせる令嬢は、優雅に風を操り、会場全体を柔らかな気流で包み込んだ。


「魔力量18,000! 素晴らしい才能です!」


 Sクラス確定の天才たち。彼らの輝きに、他の受験生たちは萎縮していた。

 そして、試験官が次の名前を呼ぶ。


「次! イニティウム公爵家、アロイス!」


 会場が一瞬で静まり返り、すぐにクスクスという忍び笑いが漏れた。


「出たぞ、『蒼の瞳』の落ちこぼれだ」


「5歳の時にゼロだったんだろ? よく恥ずかしげもなく来れたな」


 アロイスは雑音を無視して前に進んだ。

 Sクラス席のノアが欠伸をし、ユリウスが興味なさげに本を開く。誰も期待していない。

 アロイスは水晶に手を置いた。


(……古代魔法『共振(レゾナンス)』を使えば、この水晶ごと粉砕できるけど)


 今はまだ、牙を見せる時じゃない。

 シーン……。

 水晶は、ただの石塊のように沈黙したままだった。


「……反応なし。魔力量、ゼロ」


 ドッ、と会場が爆笑に包まれた。


「ギャハハ! やっぱりだ!」


「帰れ帰れ!」


 アロイスは平然と一礼し、列に戻った。背中に浴びる嘲笑。


(笑え。その油断が、君たちの命取りになる)


 彼は拳を握りしめた。

 魔力がない? それがどうした。

 次の実技試験で、その常識ごと叩き斬ってやる。


 続く実技試験の課題は「対・岩石ゴーレム戦」。


 魔法防御が高く、物理的にも鉄のように硬い難敵だ

 ノアたちは派手な極大魔法でゴーレムを粉砕し、歓声を浴びていた。

 そして、アロイスの番が来た。


「次、アロイス・イニティウム!」


 フィールドに出ると、高さ3メートルの岩石ゴーレムが召喚された。

 アロイスは『黒刀』の柄に手をかけ、深く腰を落とした。


「おいおい、剣しか持ってないぞ」


「自殺志願者か?」


 外野の声は聞こえない。

 アロイスの脳裏にあるのは、ガザ師匠の教えだけだ


『型などいらん。ただ、誰よりも速く、重く』


 使うのは、毎日何千回と繰り返した「基本」のみ。

 そして、己が編み出した古代魔法の粋。


「始め!」


 合図と同時、ゴーレムが巨大な拳を振り上げた。

 アロイスは、地面を蹴った。

(摩擦係数、消失――『滑走(スライド)』)


 ドォンッ!!


 爆発音。

 魔法ではない。鍛え上げられた脚力が、床を蹴る反作用のみで爆音を轟かせたのだ。

 次の瞬間、アロイスは消えた。


「は……?」


 観客が姿を見失うほどの加速。

 一足飛びでゴーレムの懐へ。

 アロイスの瞳が鋭く光る。


(古代魔法の負荷に耐えるために作った筋肉だ)


(岩なんて、豆腐みたいに柔らかく見える)


 黒刀に、魔力を注ぐ。

 対象にかかる重力加速度を、瞬間的に100倍へ。


(質量変換――『偏重(ウェイト)』)


 抜刀。

 ただ、最短距離を、最速で振り抜く。

 単純極まりない「素振り」。

 ズギャァァンッ!!

 空気が裂けるような轟音が響いた。

 スイングスピードによる衝撃波と、異常質量と化した黒刀の運動エネルギーが、空間そのものを歪ませる

 アロイスはそのまま駆け抜け、納刀した。


 カチン。


 静寂。

 ゴーレムは動きを止めている。

 一拍置いて。


 ズズ……ズズズ……。


 岩の巨体の胴体に、斜めに一本の亀裂が走った。

 次の瞬間、上半身が滑り落ち、ドゴォォンと地響きを立てて崩れ落ちた。

 切断面は、まるで鏡のように滑らかに研磨されていた。


「………………」


 会場中の時が止まった。

 魔法の光も、スキルの輝きもなかった。

 ただ走って、斬っただけ。

 そのあまりに原始的な、しかし圧倒的な「暴力」の前に、嘲笑は凍りついていた。

 アロイスは振り返りもせず、呆然としている試験官に声をかけた。


「……次の方、どうぞ」


 試験官が記録用紙を取り落とす。 


「ご、ご……合格ッ!!」


 どよめきすら起きない。ただの恐怖と驚愕。

 観客席の上段で、ノアが身を乗り出し、ユリウスが口を開けたまま固まっているのが気配でわかった。


(技なんていらない)


(圧倒的なフィジカルと、それを支える『理』があれば、ただの素振りが必殺技になる)


 これが、魔力ゼロの僕が出した、最初の「答え」だった。

気合い入れていきます。



誤字脱字、改善点などあれば教えていただけると嬉しいです。

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