13.強襲
14歳の冬。
学園入学を翌年に控えたある日、僕は妹のセナと共に、領地の視察から馬車で戻る途中だった。
護衛の騎士が数名。御者台にはセバスがいる。
「にーに。これ、あげる」
馬車の中で、セナが綺麗な石ころを僕の手のひらに乗せた。
「ありがとう。綺麗な石だね」
「うん! お守りだよ。にーに、もうすぐ行っちゃうから……」
セナが寂しそうに目を伏せた、その時だった。
音が、消えた。
爆発音も、衝撃もない。
ただ、走っていたはずの馬車が、物理法則を無視して唐突に停止したのだ。
慣性の法則すら働かない。まるで、空間そのものが固定されたかのように。
「……な、なんだ!?」
「腕が……動かない!?」
外から、護衛の騎士たちの悲鳴に近い声が聞こえる
僕はセナを抱き寄せ、窓の隙間から外を覗いた。
街道の真ん中に、『それ』はいた。
全身を純白のローブで包み、のっぺりとした仮面をつけた人型の異形。
ただ立っているだけで、周囲の風景が歪んで見える
「……欲しい」
仮面の奥から、擦れた声が響いた。
「その馬車の中にある『魂』……我らが主に相応しい
よって、ここにある全ての権利を……我らが徴収する」
ゾワリと、肌が粟立った。
金品目当ての盗賊ではない。もっと根源的で、おぞましい執着。
騎士たちが剣を抜こうとするが、指一本動かせずにいる。
「動く権利」そのものを奪われているのだ。
「……セバス!」
僕が呼ぶと同時に、御者台からセバスが飛び出した
だが、白衣の眷属が指先を向けると、空中のセバスがピタリと静止した。
「執事。貴様の『攻撃権』は剥奪した」
セバスが苦悶の表情で空中に縫い留められる。
強い。
物理的な拘束ではない。概念への干渉だ。
「さあ、渡せ。……その娘は、我らがコレクションに加える」
眷属が馬車へと近づいてくる。
一歩進むごとに、周囲の草花が色を失い、枯れ果てていく。生命力すら奪っているのか。
「……セナ。目を閉じて、10秒数えてて」
「え……? にーに?」
「いいから。……絶対に目を開けちゃ駄目だよ」
僕は震えるセナの目を手で覆い、動かなくなった馬車の扉を蹴り開けた。
「……おや? 抵抗権は放棄したはずだが?」
眷属が首を傾げる。
僕は無言で地面に降り立った。
相手は未知のバケモノ。概念使い。
だが、僕がやることは変わらない。
「俺の妹は、モノじゃない」
僕は低く呟いた。
「ほう。貴様ごときが、我らが『強欲』の理に逆らうか。ならば貴様の心臓の『鼓動権』も――」
眷属が指を向けた、その瞬間。
(……摩擦係数、ゼロ)
僕は地面を蹴る右足の裏に、古代魔法をかけた。
概念干渉? 権利の剥奪?
知ったことか。
僕が書き換えるのは、この足元の物理現象だけだ。
『滑走』
――シュパンッ!!
認識の外へ。
眷属が能力を発動するコンマ数秒の間に、僕は音速に近い速度で懐へ潜り込んだ。
「……な!?」
仮面が驚愕に揺れる。
速すぎる。思考が追いついていない。
「返してもらうぞ」
僕は右手に魔力を集中させる。
奴が纏っている不気味な「概念防壁」の波長を感じ取り、そこに逆位相の物理衝撃を叩き込む。
『共振』
パァァァンッ!!
見えない壁が、ガラスのように砕け散る音がした。
「バ、カな……!! 理を、物理で……!?」
眷属の言葉は、そこで途切れた。
防壁を失ったその胴体に、僕の掌底が深々と突き刺さったからだ。
ドゴォッ!!
内臓、骨格、そして核となる魔石。全てを衝撃が貫通し、粉砕する。
眷属は声もなく吹き飛び、森の奥へと消えていった
「……8、9、10……」
馬車の中から、セナの震える声が聞こえる。
世界に色が戻る。
停止していた騎士たちが「うわっ!?」と体勢を崩し、セバスが空中で身を翻して着地した。
僕は服の埃を払い、呼吸を整えてから、扉を開けた
「……もう大丈夫だよ、セナ」
セナが恐る恐る目を開ける。
そこには、いつもの笑顔の僕が立っていた。
森の奥には、もう眷属の気配はない。一撃で完全に消滅させた。
「にーに! 変な人たちは?」
「逃げていったよ。……ちょっと不気味だったけど、大したことなかった」
「よかったぁ……。やっぱり、にーにがいれば安心だね!」
セナは僕の首に抱きついた。
僕はその小さな背中を撫でながら、セバスと視線を合わせた。
セバスの表情は険しい。
「……アロイス様。今のは……」
「ああ。ただの野盗じゃない」
僕は森の暗闇を睨みつけた。
(…あの能力。文献にあった『大罪』の眷属に近い)
もしそうなら、ただの野盗騒ぎじゃない。
伝説上の怪物が、現代に蘇ろうとしているのか?
セバスと視線が合う。彼も同様の懸念を抱いているようだったが、何も言わずに頷いた。
(……行かなきゃ)
学園へ。
もっと力をつけなければ。
今のままじゃこれからの敵からは守りきれないかもしれない。
妹を守るため。
アロイス・イニティウムの決意は、この襲撃で確固たるものになった。
戦闘シーンがなんとも。
自分の語彙の少なさと表現力のなさが嘆かわしい限りです。
誤字脱字、改善点などあれば教えていただけると嬉しいです。




