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蒼とゼロ  作者: 霧ぽ
第1章 欠たる器の反逆
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11.名も無き英雄

森の奥深く、ガザ師匠の「庭」と呼ばれる演習場。

 そこには、異様な緊張感が張り詰めていた。


「……目をつぶれ」


 ガザ師匠が低く告げた。

 僕は言われた通りに瞼を閉じ、木刀を正眼に構える視界が闇に閉ざされ、頼れるのは聴覚と肌の感覚だけ


「いいか。人間が動く前には、必ず『予備動作』がある。筋肉の収縮、重心の移動、呼吸の乱れ……それらが空気の振動となって伝わる」


 師匠の声が、森の静寂に溶けていく。

 どこだ? どこにいる?


「殺意は、もっと雄弁だ。……ほら、そこにあるぞ」


 ゾワリ。

 右斜め後ろ。うなじの毛が逆立つような悪寒。

 思考するより速く、僕は身体を左へ倒した。


 ヒュンッ!!


 鋭い風切り音。

 僕がさっきまで頭を置いていた空間を、師匠の樫の棒が薙ぎ払ったのだ。


「遅い。避けられたのは偶然だ」


 追撃が来る。

 見えない。でも、肌がチリチリと焼けるような感覚が、「次」の場所を教えてくれる。

 左脛、右肩、そして心臓。

 死の予兆が、まるで赤い線のように闇の中に浮かび上がってくる。


(……見える。殺気のラインが……!)


 僕は泥に足を沈め、最小限の動きで回避を続けた。

 古代魔法『掌握(グラスプ)』で鍛え上げた体幹が、無理な姿勢での制御を可能にする。

 そして、『共振(レゾナンス)』で培った振動への感受性が、空気のわずかな揺らぎを捉える。


「……ほう」


 十合、二十合。

 一方的に殴られるだけだった僕が、初めて師匠の連撃を凌ぎ切った。


「悪くねえ。…だが、守ってるだけじゃ勝てねえぞ」


 師匠の気配が膨れ上がる。

 来る。必殺の大技が。

 逃げるか? いや、逃げれば狩られる。

 なら――。


(前に出る!!)


 僕は恐怖をねじ伏せ、殺気の発生源へと踏み込んだ

 死地こそが活路。

 師匠の棒が振り下ろされる瞬間、その懐へと滑り込む。


「――もらったぁッ!」


 ガッ!

 僕の木刀が、師匠の脇腹を浅く捉えた。

 同時に、僕の額寸前で師匠の棒がピタリと止まる。

 凄まじい風圧が前髪を揺らした。


「……へっ」


 師匠は棒を下ろし、ニヤリと笑った。


「合格だ。……今の踏み込み、魔法使いならチビって腰抜かすぜ」


 僕はへなへなと地面に座り込んだ。

 全身汗まみれだったが、胸には確かな手応えがあった。

 「魔力ゼロ」の僕が、鬼神の一撃に届いた瞬間だった。




その翌日。


 僕は師匠に「街で実戦の空気を吸ってこい」と言われ、ボロボロの外套を羽織って城下町へ降りていた。

 公爵令息だとバレないよう、変装しての散策だ。

 裏路地を歩いていると、怒鳴り声が聞こえた。


「おい、邪魔だぞ貧乏人!」


「治療費代わりにその荷物置いてけよ!」


 下級貴族の子供たちが、一人の少女を取り囲んでいた。

 栗色の髪をした、同い年くらいの少女。彼女は大事そうに鞄を抱え、震えていた。


「や、やめてください……これは、お店の商品なんです……!」


「うるせえ!」


 リーダー格の少年が、掌に小さな火の玉を浮かべてニヤついている。

 魔法という暴力。抵抗できない弱者。


(……くだらない)


 僕は通り過ぎようとした。関われば面倒なことになる。

 でも、少女の涙を見た瞬間、足が勝手に動いていた


「―おい。寄ってたかって情けないマネはやめろよ」


 僕は路地裏に入り、少女の前に立った。


「あ? なんだお前」


 貴族たちが僕を睨む。汚い外套のせいで、僕がイニティウム家の人間だとは気づいていない。


「その子を放してやれ。……魔法は、弱い者いじめの道具じゃないはずだ」


「ハッ! 一般人が魔法使い様に説教か? 火傷じゃ済まねえぞ!」


 少年が手を振るう。火の玉が真っ直ぐ僕に飛んできた。

 遅い。

 森で味わったガザ師匠の殺気に比べれば、止まって見える。

 殺気も、予備動作も、魔力の練り方も、すべてが隙だらけだ。 


 パァン!


 僕は腰に差していた木刀を一閃させ、飛来する火の玉を叩き落とした。


「なっ…!?」


「魔法を……斬った!?」


 驚愕に固まる3人。

 その隙を見逃すはずがない。

 踏み込み。爆発的な脚力で距離を詰め、リーダー格の懐に入り込む。


「魔法使いの弱点は、慢心だ」


 ドンッ!

 木刀の柄で鳩尾を鋭く突く。


「ぐぇっ…!」


 少年は白目を剥いて泡を吹き、その場に崩れ落ちた


「ひ、ひぃッ! なんだコイツ!?」


「お、覚えとけよ!」


 残りの連中は、気絶した仲間を引きずって逃げていった。

 静寂が戻る。

 僕はふぅ、と息を吐き、木刀を腰に戻した。

 魔法を使わなくても、勝てた。師匠の教えは間違っていなかった。


「あ、あの……」


 背後から震える声がした。

 少女が、涙を溜めた瞳で僕を見上げていた。


「助けてくれて、ありがとうございました……! 私の名前はリリィ。あなたは……?」


 僕はフードを深く被り直し、少し迷ってから答えた


「……ただの、通りすがりだよ」


 名乗るわけにはいかない。

 彼女が目を向ける。その瞳には恐怖ではなく、憧れの光が宿っていた。


「……杖も持たず、魔法も使わずに……あんな怖い人たちを追い払っちゃうなんて」


彼女は深く頭を下げた。


「私、忘れません!魔法よりも強くて優しい人!」


 その言葉が、僕の胸にストンと落ちた。


『魔法よりも強い』


(……そうか。魔力がなくても、誰かのヒーローにはなれるんだ)

 その日、僕は初めて自分の「ゼロ」を少しだけ肯定できた気がした。


文字数増やしてみました...!!


これくらいがちょうど良いですかね。


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