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二計画  作者: 喰ったねこ
第六章:神聖国編
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第79話 皇帝陛下の優雅な(?)休日

ロキヌス帝国の帝都ガラド、皇宮。 大陸全土を揺るがす大戦争を直前に控え、皇帝である私は、執務室で最大の敵と戦っていた。


「……シオン。あと何枚あるの?」


「あと三百枚ほどです、陛下。占領予定地域の戦後統治計画書、軍事物資の徴用令、それからハトの餌代の予算承認印を」


「手が痛い。腱鞘炎で死ぬわ」


私は、羽ペンを投げ出した。 皇帝になれば、好きなだけ研究に没頭できると思っていた。 だが現実は、決裁、決裁、また決裁だ。独裁者というのは、全ての責任を一人で負う究極のブラック企業経営者らしい。


「少し休憩しましょう。……メアリー、お茶を」


「はい、お嬢様! お待ちしておりました!」


控えていたメアリーが、待ってましたとばかりにワゴンを押してくる。 だが、そのワゴンには、ティーセットと共に、山のような布地が積まれていた。


「……それは何?」


「新作のドレスの生地見本でございます! 戦争が終われば、凱旋パレードや戦勝祝賀会がございますでしょう? 今度こそ、今度こそ、完璧なドレスを……!」


彼女の目は血走っていた。 舞踏会での「ドレス引き裂き事件」が、よほどトラウマになっているらしい。


「メアリー。気持ちは嬉しいけれど、戦場にドレスは着ていけないわ」


「また軍服ですか!? あのような無骨な……!」


「いいえ。今回は、もっと凄い『ドレス』を用意したのよ」


私はニヤリと笑い、アノンに目配せした。 アノンが壁の隠し扉を開く。 そこには、先日完成したばかりの強化外骨格パワードスーツ『ヴァルキリー』が鎮座していた。 鈍い鋼鉄の輝き。むき出しの油圧シリンダー。そして、背中に背負ったガトリングガン。


「じゃーん。どう? この機能美」


私は誇らしげに紹介した。 だが、メアリーは口をパクパクさせたまま、硬直している。


「……お、お嬢様。それは……ゴーレム、では?」


「いいえ、着るものよ。ほら、ここが開いて、中に乗れるの。防御力はドレスの比じゃないし、空も飛べるし、毎分三千発の挨拶もできるわ」


「可愛くありません!!!」


メアリーの悲鳴が執務室に響いた。


「フリルは!? レースは!? どこにもありませんわ! ただの鉄の塊です!」


「鉄はいいわよ。燃えないし、汚れても磨けば光るもの」


「ああっ、もう! わたくしが、その鉄の上にカバーを作ります! 可愛いカバーを!」


メアリーはメジャーを取り出し、ヴァルキリーの採寸を始めた。 パワードスーツにフリルのカバー……。想像するとシュールだが、彼女の気が済むなら好きにさせよう。


「……アノン。テストを兼ねて、少し外の空気を吸いましょうか」


私は書類の山から逃げるように、ヴァルキリーに乗り込んだ。 ウィィィン……という駆動音と共に、視線が高くなる。


皇宮の中庭。 鋼鉄の巨人となった私は、ベンチに腰掛けようとして――バキッ、という音と共にベンチを粉砕した。


「……出力調整が難しいわね」


「破星。その格好でくつろごうというのが間違いだ」


アノンが呆れたように言う。 彼は、いつものように私の隣に立っていた。 生身の彼と、鋼鉄の私。 傍から見れば異様な光景だろうが、不思議と落ち着く。


「明日には、進軍を開始するわ」


「ああ」


「たくさんの人が死ぬわね。敵も、味方も」


私は、鋼鉄の手のひらを見つめた。 この手で、トリガーを引く。 数万の命を奪う決断を、私はもう下している。


「怖いか?」


「……いいえ。怖くはないわ。ただ、少し……重いだけ」


私は、HUDのモニター越しに空を見上げた。 青い空。その向こうには、私の生存を阻もうとする何かがいる。


「アノン。貴方は、私が間違っていると思う?」


「お前は、生き残るために最善を尽くしている。それが間違っているかどうかは、歴史家が決めることだ」


彼は、私の鋼鉄の膝に、ポンと手を置いた。


「俺は、お前の剣であり盾だ。お前が地獄へ行くと言うなら、先導するまでだ」


「……ふふ。頼もしいわね」


その時、中庭の入り口から、シオンが血相を変えて走ってきた。


「へ、陛下! ここにおられましたか! 緊急の決裁案件が……って、なんですかその姿はぁぁぁ!?」


ロボット兵器化した私を見て、シオンが腰を抜かす。


「……休憩終了ね」


私は、ため息をついた。 つかの間の休日は、騒がしく、そして愛おしい者たちとの時間で終わった。


明日からは、地獄だ。 だからこそ、今だけは。 メアリーが淹れてくれた(そして私が鉄の指でカップを粉砕してしまった)紅茶の香りを、胸に刻んでおこうと思った。

読んで頂きありがとうございます。

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