リオのひとりごと①
えーっと……。
体を乗っ取られて、意識の片隅に追いやられてしまった、本来の私ことリオです。
普通の村娘のほうの。
どうやら私は、自分の体の運転席から助手席に移されたみたい。いえ、後部座席かな? 今はただ、窓の外の景色――つまり、もう一人の「私」が私の体を使ってやる事なす事――を、ぼーっと眺めていることしかできません。
……暇です。
とっても、暇。
なので、この際じっくり考えてみることにしました。
まず、この状況について。
村一番の役立たずと蔑まれ、石を投げつけられていた、この「魔無し」の私が、なんと「聖女様」と呼ばれるようになりました!
(村限定の、むら聖女だけど)
洞窟で生き残った人たちが、みんな私にひれ伏してる! あのゲルムの子分だった子たちまで!
正直に言います。
……最高に、快感です!
ふふん。どうだ、見たか! これが私の真の姿よ! ……なんてね。
もちろん、全部、私の力じゃありません。私の意識の運転席に、いつの間にか居座っている、この有能すぎる「貴女」のおかげです。
でも、本当に、貴女はいったい誰なんです?
なんだか、私の意識と貴女の記憶が、隕石の衝突みたいにぶつかって、ぐちゃぐちゃに混ざり合って……心がグリャグリャで、よく分かりません。ただ一つ確かなのは、貴女が、とんでもない人物だということ。
だって、まず、魔法がダメなのは私と同じみたいだけど、あの魔族たちを「銃」とかいう鉄の塊で、眉間を正確に撃ち抜いて倒しちゃうんですよ? 村の自警団の訓練に、そんな項目はありませんでしたけど!? あの冷静沈着な動き、絶対に素人じゃないですよね?
前世は殺し屋か何かでした?
そして、一番引いたのが、あの「毒見」の一件。
魔族の肉が食べられるか調べるのは、まあ、百歩譲って分かります。生きるためですもんね。でも、それを確かめるために、焼いた肉片を何の躊躇もなく、震えている小さな女の子に「はい、食べてみて」って……。
ダメダメダメ! 絶対にダメだって!
貴女の「生存技術」とやらの教科書には、「非常食の毒見は、年少者に優先的に行わせること」とか書いてあるんですか!? それ、生存技術じゃなくて、悪の組織の幹部養成マニュアルですよ!
あの時は、私の意識が全力で『やめなさい!』って叫びました。届いてよかった……。
あと、ゲルムのこと。
あいつは本当に、最低最悪の男でした。私も大っ嫌いでしたよ。奴隷として売られる前に、一発くらい殴ってやりたいって、ずっと思ってました。
でも、貴女の復讐はレベルが違います。
魔族に嬲られている彼を、助けるどころか、まず自分から銃で殴りつけます? どんだけ憎んでるんですか!
そして、彼が死んでいくのを、氷みたいに冷たい目で見下ろして……。私だったら、あそこまで非情にはなれません。貴女の冷酷さ、ちょっと、いえ、かなり怖いです。
極めつけは、検死。というか、解剖。
もう思い出したくもない! あのナイフで魔族やゲルムの体を切り裂いた時の、手に残る感触! うぅ……気持ち悪い……。
普通の14歳の女の子が、血まみれになりながら「人体の急所は私が知る構造と差異はない」とか、冷静に分析しないでください!
……ああ、そうか。
よくよく考えたら、その「危ない貴女」は、今の「私」自身でもあるわけで。
つまり、村のみんなから見たら、「リオちゃんは、魔族や人間を躊躇なく解体する、ちょっと(かなり)ヤバい聖女様」ってこと……?
ううっ……私の穏やかでやさしい健気な村娘という評判が……!(元々なかったけど!)
まあ、そんな風にドン引きすることばっかりの貴女ですけど、一つだけ、感謝してることがあります。
それは、アノンを呼んでくれたこと。
私たちを助けてくれた、貴女の護衛、アノン。
棺から現れた、謎のイケメン。
絶体絶命のピンチに、お姫様抱っこで助け出してくれるなんて!
しかも、「俺の任務は、破星の護衛だからな」とか、「お前の死は絶対に認められない」とか!
これって……これって、もしかして、私がずっと夢見てた、素敵な出会いってやつじゃないでしょうか!?
白馬の王子様、とはちょっと違うけど。黒い服で、銃と刀を持ってて、記憶喪失で、ちょっとぶっきらぼうだけど、でも、私を守るのが最優先任務だなんて……!
きゃーっ!
設定が盛り沢山すぎます!
そう思うと、今までずっと側にいてくれたバーンは……うん、まあ、いい子ですけど、やっぱり子供かな。今の彼は、すっかり私の(というか貴女の)信者ですし。
やっぱり、大人の男性は違いますよね……!
……と。
以上、私の体を乗っ取られ暇を持て余した、ただの村娘リオの、とりとめもない妄想でした。
これから、この危ない人と、素敵な護衛さんと、私の人生はどうなっちゃうんでしょうか。
ちょっと怖いけど、ほんの少しだけ、ワクワクしているのも、本当の気持ちです。
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