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二計画  作者: 喰ったねこ
第五章:魔法学園の謎編
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第70話:舞台の決壊

会場は、壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返す生徒たちの声で埋め尽くされていた。

狂気。その中心で、私は二人の王子と対峙している。


「「貴様は……罪人……排除……」」


エイデン殿下とセラス殿下が、剣を構えて迫る。

無表情だが、彼らの体は私への殺意を持って動いている。

その姿に、内面のリオが驚き、私の中にも悲しみの感情が湧き上がってくる。


感情の奔流。


私への真実の愛を語っていた王子達が、今度は、手のひらを返したようにいきなり殺しに来るこの状況。

彼女は絶句し、深く揺さぶられ傷ついていた。

それが普通の精神なのだろう。でも、私ならば耐えられる。

彼女の感情を、私が無理やりに押し殺す。


それにしても、あまりにも悪趣味な操り人形劇だ。


「……アノン」


「了解した」


私の呼びかけと同時だった。

黒い疾風が、二人の王子の背後を駆け抜ける。


ドン、ドン。

鈍い音が二つ。

アノンが、手刀で二人の延髄を正確に打ち抜いた音だ。


「が……っ」

「う……」


二人の王子は、糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。

殺してはいない。脳への血流を一瞬遮断し、強制的に意識をシャットダウンさせただけだ。


続いて、断罪をしようとしたまま固まっているセレニティにも容赦なく手刀を叩き込む。

さすがアノン。私以外はたとえ美しい女性でも、ろくに手加減なしだ。

いや、もしかすると、真剣で切らなかっただけ、彼としては手を抜いているのかもしれない。


「……随分と手際がいいわね」


「貴人相手だ。一応手加減はしたつもりだ」


アノンは無表情でそう言うと、倒れた三人を私の足元に転がした。

まるで、仕留めた獲物を並べるかのように。


「さて……」


私は、周囲を見渡した。

主役級のキャスト(王子たち)が退場したことで、舞台の進行が停止している。

生徒たちは「断罪……断罪……」とブツブツ呟きながら立ち尽くすのみ。

完全なバグ状態だ。


「う……うう……ッ!」


その時、私の足元で呻き声がした。

エイデン殿下だ。

アノンの手刀を受けて、数秒と経たずに意識を取り戻したのか。彼の戦士としての評価を改めねばならないだろう。


「……殿下?」


私は彼の上体を抱き起こす。

彼は、激しく咳き込みながら、焦点の定まらない目で私を見た。


「リ、オ……?僕は、一体……」


「気がつきましたか。貴方は先程まで、私を殺そうとしていたのですよ」


「な……ッ!?」


彼は愕然として自分の手を見る。そこには、抜き身の剣が握られたままだ。


「馬鹿な……!そんなこと、僕がするはずがない!僕は君を……!」


「ええ、知っています。貴方の意思ではなかった。……何を感じましたか?」


私の問いに、エイデンは脂汗を流しながら、記憶を手繰り寄せるように頭を押さえた。


「……声だ。頭の中に、直接響くような……『彼女を憎め』『彼女は敵だ』という命令が、思考を塗りつぶしていった。抗おうとしたが、体が言うことを聞かなくて……」


彼は、恐怖に震えている。

それは、自分の心が他者に乗っ取られるという、根源的な恐怖。


精神感応魔法テレパシー……それも、この会場全体を支配するほどの大規模な術式か」


アノンが、冷ややかに分析する。


「そうね。ここは元々魔法学園。適合率の高いセラス殿下や他の生徒たちは、抵抗すらできずに飲み込まれた。でも、エイデン殿下。貴方は魔法への適合度が低い……つまり、術式への『受信感度』が悪かったおかげで、完全に支配されず、こうしてすぐに正気に戻れた」


皮肉な話だ。

彼がコンプレックスとしていた「魔法の才能のなさ」が、この精神汚染下においては、最強の防壁(ファイアウォール)として機能したのだから。


「僕の無能が、役に立ったというのか……」


エイデンは自嘲気味に笑うと、鋭い視線で会場を見回した。


「だが、一体誰がこんな事を……」


「わからない。けれど、これだけ大規模な魔法を行使したのだから、かなりの適合度を誇る敵でしょうね。そして、目的は私を篭絡したいのかしら……あの時、本当にエイデン様達と、ここで楽しい学園生活を送れたらと思えたわ。私には魔法は効かないけれど、ああいう感じで迫られたら心は揺れる。でもそれが失敗した途端、私を断罪し、違う形で私の心を更に揺さぶろうとしたのか、それとも、シナリオが破綻して術式がおかしくなったのか」


そう、王子達に愛をささやかれたりしたら、私の中のリオがのぼせ上がるし、そして、愛しているかもしれない相手に断罪されれば、彼女の感情はもっと波立つ。それは、私の思考を塗りつぶす力すら持つのだ。


「でもなぜ、僕らを洗脳してまで、君を篭絡する必要がある」

エイデンが尋ねる。

「わからないけど、私が大人しくヒロインをやっていたほうが都合がいい誰かが居るって事になるわね」

「やはり、お前の無力化を意図した、洗脳兵器か」


(アノンが言うように、この乙女ゲームの記憶そのものが私を篭絡するためのトラップ? そして、その記憶の持ち主が、村娘だったはずのリオだとすると、リオは、元のこの体の持ち主は一体、誰? 私の判断に影響を与え、融合しつつある彼女は私の敵なのだろうか)


「ずっと近いところに敵はいるかもしれない。私を夢の世界へ誘おうとする何かが」


(村娘リオが敵だった場合、私は彼女を心から排除できるのか。でも、一体どうやって。私の思考は常に彼女の思考に影響を受けていると言うのに。そして、今回魔法がかけられたのは、私本人ではなく、エイデンなど周りの人間。これは、魔法無視(アンチ・マジック)を持つ私に対する攻略法としては正しい。でも、彼女(村娘リオ)だけは、魔法が利かないはずの私の中に居る……そして、彼女(村娘リオ)が夢の世界への水先案内人だとしても……)


「それでも、大規模な精神感応魔法を発動して、実際にこの乙女ゲーム的な状況を作った奴がいるはずよ。真偽はそいつから聞き出すのが手っ取り早いはず」


「これだけ大規模な精神感応魔法が使える人間は限られている筈です。高位の聖女や聖者レベルでしょう」

エイデンが口を開いた。


「そういえば、セレニティの近くに居たあの男は何処へ行った?」

アノンが指摘する。

読んで頂きありがとうございます。

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