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二計画  作者: 喰ったねこ
第五章:学園編
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第66話 私が乙女ゲームを本当にしてたと思う?

建国記念舞踏会の当日。


私の私室は、甘い花の香りと、メアリーの尋常ならざる熱気に包まれていた。


「リオお嬢様! ご覧くださいませ! このメアリーの、生涯の最高傑作が、今ここに……!」


メアリーが、まるで聖骸布でも掲げるかのように、恭しく披露したのは、一着のドレスだった。

夜空の闇を溶かし込んだかのような、深く、艶やかな藍色のシルク。光の加減で、星屑のようにきらめく銀糸の刺繍。華やかでありながら、どこか漆黒の夜を思わせる、気品と力強さを両立させた、完璧なデザイン。


「すごいね……」


私の感嘆の声は、おそらく、メアリーの期待の十分の一ほどしか、なかっただろう。

だが、彼女には、それで十分だった。


「ええ、ええ! そうでしょうとも! 生地には、わたくしが科研に頼んで開発しました、耐衝撃・防汚加工を施してございます! これで、少々の刺客やワインでは、びくともいたしません!」


彼女は、誇らしげに胸を張る。その執念には、もはや感服するしかない。


ひとしきり、彼女のドレスへの情熱的な演説を聞いた後、私は人気の少ないテラスへと向かった。

ゲームの一大イベントともいえる舞踏会の前に、この乙女ゲームという奇妙な状況を、ぜひ彼に相談しておきたかったのだ。



午後の陽光が差し込む、学園のテラス。

その人気のない一角で、私は、影のように控える護衛に、声をかけた。


「アノン、いる?」

「ここだ」


音もなく、背後に現れた彼に、私は、向き直る。

これから私が口にすることは、この世界で、唯一、彼にしか話せない類の話だ。


「……私は、自分が、おかしいのかもしれない」

切り出した言葉は、自分でも驚くほど、弱々しく響いた。


「私の記憶は、この世界に来てからというもの、ずっと混濁している」

アノンの鋭い目が、ただ静かに、私の言葉の続きを待っている。


「問題は、この学園や王宮を訪れたときに、妙な既視感を感じるようになってしまったこと。王宮に滞在し、この場所を初めて訪れた頃から。それで、わざわざロキヌスから、この学園に引き返したというわけ」


「どうりで……お前が魔法学校に興味があるなんて、変だと思ったんだ。別にあの王子に興味があったというわけではなかったんだな。それにしても、一体どういうことだ。前世の事でも何か思い出したのか?」


「わからない。ただ、王子には興味がある……というか、重要な観測対象よ。ところで、アノンは、乙女ゲームというものを知っている?」


「聞いたことが無い。なんだそれは?」


「それが、攻略対象と呼ばれる王子達と、恋仲になることを目指すゲームなんだけど……」


私は、アノンに乙女ゲームの概要を真面目に説明する。


「ふん。よくわからんが、下らんな。そんなもの。お前には、まるで似合わない」


「でも、私には……その乙女ゲームの、確かな記憶があるのよ。そして、この学園も、王子たちも、その記憶の中のゲームの筋書きと、奇妙に一致するの」


「ゲームとこの世界が似ているだって?」


「ね? 私の言っている事、十分、おかしいでしょ? 私は、その記憶の正体を突き止めるために、実験として、そのゲームの主人公、つまり『ヒロイン』を演じている最中なの。だけど……」


私は、自分の拳を、強く握りしめる。


「演じているうちに、分からなくなる。どちらが、本当の私なのか。王子たちと話している時の、胸の高鳴りは、本当に、私の感情なのか。それとも……」


「胸が高鳴るだと? それで、ヒロインとやらを演じて、何かしら思い出せることはあったのか?」


「いや、今のところ特に何もないわ。ただ、流れに身を任せると、私が私じゃなくなってしまうほど、恐ろしいほどの感情の奔流があって、それが怖いような、嬉しいような、不思議な気持ちになるのよ」


「なるほど。お前の話を聞く限り、オトメゲームとは、対象者に精神作用を引き起こす、何かの攻撃の類なのかもしれない。その場合、真っ先に洗脳兵器が疑われるな」


彼は、一歩、私に近づく。


「その、オトメゲームの記憶とやらが、お前の心を乱し、脅かすのならば、それは、護衛として排除すべき脅威だ。エイデン王子も、セラス王子も、お前に害をなすのであれば、全て俺が叩き斬る」


(王子様達を叩き切るって。そんな物騒な。たしか、アノンは私のためであれば、国家元首でも叩き切るとか昔いっていたような、いないような…)


「いや、あなたに聞きたいのは、前世の私が王子様と恋仲になるそんなゲーム、本当にしていたと思う? 或いは、前世の私が、そんなゲームをやっていたのを見たり聞いたりしたことがあるかってこと」


「それはない」即答された。彼も記憶が混濁しているはずなのに、こうも断定的に。


(そう。特殊な訓練を受け、銃撃を受けるような私の状況から考えれば、私である可能性は低い。じゃあ、やっぱりリオなのか? ホパ村で私が銃を拾ったように、彼女は携帯ゲーム機を拾ったとか。でも、だからといって今の状況がゲームに似ている理由にはならないか……)


この変な記憶は、私のものではないのかもしれない。しかし、例え村娘リオのものだとしても、この乙女ゲームの記憶の謎は深まるばかりだった。


そして、今夜は、乙女ゲームの一大イベントでもある、学園の舞踏会。


ヒロインを演じる私に、きっと何かが起こるのに違いない。

読んで頂きありがとうございます。

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