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二計画  作者: 喰ったねこ
第五章:学園編
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第61話 再会

ナブラ王国王立魔法学園、校長室。


重厚な執務机を挟み、学園長は、まだ夢でも見ているかのような顔で、私の差し出した羊皮紙と、私の顔を交互に見ていた。


「……こ、皇帝陛下が……Fランクに、ふ、復学……。前代未聞、でありますな……」


「ええ。ですが、書類に不備はございませんでしょう? そして、わたくしは、休学をした、この学園の生徒ですから、ちゃんと学園の制服も着ていますわ」


私が、静かに問いかけると、彼は慌てて数度頷いた。

こうして、私の復学は、公式に受理された。


(私は皇帝となって舞い戻ってきた。まずは、私の既視感の正体を確かめなければならない)


思考を巡らせながら、私は席を立ち、校長室の扉を少しだけ開けた瞬間。


廊下には、遠巻きにこちらを窺う生徒たちで、ごった返しているのが見えた。そして、その人垣の向こうから、悲鳴のような制止の声が響く。


『おやめください! 外交問題になります!』


すぐに、近衛騎士たちが私の前で密集体形(ファランクス)で壁となり、私を鉄壁で守る陣形をとる。

それは、間違いなくロキヌスのロイヤルガードの動きだった。


なにか、騒ぎがあったようだ。

私は今やこの国の敵国であるロキヌスの皇帝。知らぬ恨みを買っているのかもしれない。


周りの近衛騎士たちが、突然のアクシデントを止めようと、一斉にかけて行く。


『皇帝陛下をお守りしろ!』


「どけ! 貴様たちに要はない」

荒々しい男の声が響く。


近衛騎士と相対しても、その男はこちらに向かってきているようだった。なかなかの手練れだといえるだろう。


「ロキヌス皇帝……っ! 貴様に聞きたいことがある!」


男の声は、怒りと、そして、すがりつくような必死さが入り混じった、悲痛な響きをしていた。


「リオは……この学園にいた、リオという少女は、どこだ! 貴様が、彼女をどうかしたのか!」


この人は……


私を探していたのか。


近衛騎士たちを、私は、静かに手で制した。そして、密集体形(ファランクス)を解くように命令する。


学園の制服を着た私の姿が、廊下の魔光石の、柔らかな光の下に、晒される。


「……え……?」


男の動きが止まった。


「エイデン殿下」


私の呼びかけに、燃え盛っていた彼の怒りの炎が、一瞬でかき消え、ただ、ガラス玉のように脆い、純粋な驚愕だけに支配されているように見えた。


彼の瞳が、私の顔の、一つ一つを、確かめるように、なぞっていく。


「リオ……なぜ、君が、今、ここに」


か細く、震える声で、私の名を呼ぶ。

それは、問いかけではなかった。

信じられない奇跡を前にして、ただただ、驚いているようだった。


次の瞬間、彼の瞳から、堰を切ったように、大粒の涙が、一筋、また一筋と、溢れ出す。

張り詰めていた、全ての糸が、切れたのだろう。

彼は、その場に、崩れ落ちるように、膝をついた。


「あ……ああ……っ!」


もはや、言葉にならない、嗚咽。

王子としての威厳も、立場も、何もかもを投げ捨てて、彼は、ただ、子供のように泣きじゃくった。


「生きて、いたのか……っ! 君が無事でよかった……! 本当に!」


衆人環視の中、涙にくれる王子と、静かに彼を見つめる、Fランククラスに復学したばかりの私。


遠くで、セラス王子が信じられないものを見るかのように絶句し、セレニティ・ナイジェルが、嫉妬と混乱に表情を歪ませているのが、視界の端に映った。


廊下は、水を打ったように静まり返り、ただ、彼の嗚咽だけが響いていた。


私は、そっと一歩前に進むと、彼の前に、静かに膝をついた。そして、懐から一枚のハンカチを取り出し、そっと、彼に差し出した。


「……エイデン殿下」


私の声に、彼は、涙に濡れた顔を上げる。


「……みっともない、ところを……見せたな……」


「いいえ。……お顔を、お拭きになって」


彼は、子供のように、素直にハンカチを受け取った。その手が、まだ微かに震えている。

やがて、彼の嗚咽が、少しずつ、穏やかな呼吸へと変わっていく。

それを見計らったように、我に返った学園長が、慌てて駆け寄ってきた。


「で、殿下、皇帝陛下! こ、このような場所では……! どうか、こちらへ!」


エイデン殿下は、私の手を借りて、おぼつかない様子で立ち上がった。

その瞳は、まだ赤く潤んでいたが、もう絶望の色はなく、ただ、真っ直ぐに、私だけを見つめていた。


泣き腫らした目を気まずそうに逸らしながら、それでも、私の無事を何度も確かめるように、熱心に質問を重ねる彼。


私は、ロキヌスで何があったのかという問いに対しては、「解決すべき問題があった」とだけ、曖昧に答えるに留めた。彼も、それ以上は深く追及せず、ただ、私が生きているという事実を、何度も噛み締めているようだった。

読んで頂きありがとうございます。

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