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二計画  作者: 喰ったねこ
第五章:学園編
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第60話 皇帝の凱旋

ロキヌス帝国の皇帝として即位してから、数ヶ月が過ぎていた。


帝都ガラドは、シオンの卓越した行政手腕と、革命軍を再編した帝国軍の力によって、帝位簒奪の混乱を乗り越えて驚異的な速度で秩序を取り戻していた。


私は、皇帝の執務室で、いつものように山と積まれた報告書に目を通す。


『――対象名「ゲーレン」、帝国諜報網を総動員するも、依然として足取り不明』

『――勅令に基づき、帝都近郊にて「高炉」の建設、順調に進捗中』


過去への探求と、未来への布石。

帝国という、この上なく強力な駒を手に入れたことで、私の生存権(レーベンスラウム)計画は、着実に、そして急速に進み始めていた。


いよいよ、休学を取り下げ学園に舞い戻る時が来たのだ。


「シオン」


「はっ、陛下」


「ナブラ王国へ、戻ります」


「……御心のままに。して、その目的は?」


「私の不確かな過去を、調べに」



その数週間後。


ナブラ王国王立魔法学園アルケイン・アカデミアの、穏やかな午後の風景は、突如として破られた。


学園の正門を通過した一台の壮麗な馬車が、生徒たちの驚きの視線の中、まっすぐに校舎の正面玄関へと乗り付けられたのだ。

黒曜石のように磨き上げられた車体に、金の装飾。

そして、その扉に掲げられた紋章――翼を持つ黒龍ブラックドラゴン――は、隣国、ロキヌス帝国の、それも皇帝だけが使用を許される、至高の紋章。


『ロキヌス帝国の皇帝が、学園に……!?』


『まさか、また戦争か!?』


噂は、瞬く間に、学園中を駆け巡った。

中庭にいた生徒たちも、衛兵によって遮られ、遠巻きにその異様な光景を取り囲む。その人垣の後方で、エイデン第一王子は、息をのんで馬車を凝視していた。彼の隣では、弟のセラスが腕を組んで鋭い視線を送り、少し離れた場所では、セレニティ・ナイジェルが扇の影から侮蔑的な眼差しを向けていた。


やがて、馬車の扉が、供回りの者によって、恭しく開け放たれる。

そして、その中から、一人の人物が、静かに姿を現した。


しかし、守護する屈強な近衛騎士団の一団に取り囲まれ、その姿を見る事は叶わない。

皇帝は騎士団の背後に隠れてしまっていて、背の高い人物ではなさそうだった。


その人物が地面に降り立った瞬間、騒ぎを聞きつけて現れた、血相を変えた学園長と、物々しい雰囲気の警備兵たちが、即座にその周囲を取り囲んだ。


「皇帝陛下! さあ、こちらへ!」


学園長の声は上ずっている。近衛騎士たちに囲まれた、その小柄な人物は校舎の中へと入っていった。


嵐のように現れ、そして、瞬く間に校舎の中へと消えていく、謎の皇帝。

学園には、ただ、不確かな憶測だけが、取り残された。


「ロキヌスの皇帝が、再度の和平交渉で王国を訪問したとは聞いていたが……何なんだ、一体。このような場所へ来るとは、何を企んでいる……」


セラスが、吐き捨てるように呟く。

だが、その声は、エイデンの耳には届いていなかった。


彼の心は、絶望的な疑念に焼かれていた。


ロキヌス帝国。

それは、あの日以来、リオの消息が途絶えた、因縁の国。

今現れた、あの皇帝は、リオの失踪に、そして、彼女の生死に、何らかの形で関わっているに違いない。もしかしたら、奴こそが……。


そこまで考えた時、彼の全身を、怒りと、そしてどうしようもない焦燥感が駆け巡った。


確かめなければならない。

彼女に何があったのか。

あの皇帝から、何としてでも、聞き出さなければ。


エイデンは、ざわめき続ける周囲に背を向け、固く、固く拳を握りしめた。

その瞳には、もはや普段の穏やかな光はなく、激しい光が宿っていた。

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