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二計画  作者: 喰ったねこ
第四章:帝国編
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第59話 世界を改造する最初の勅命

魔法。


それは、この世界における万能の杖であり、同時に人類の進化を止めた呪いでもある。

火を起こすのにマッチは要らない。水を得るのにポンプは必須ではない。

「必要は発明の母」というが、魔法という過保護な母親がいるせいで、この世界の科学という子供は、産声を上げる前に窒息してしまったのだ。


だが、私は違う。

私は知っている。魔法というブラックボックスに頼らない、積み上げられたことわりの強さを。


ロキヌス帝国の全権を掌握した私が最初に着手したのは、この世界の「常識」を根底から覆す、世界改造リノベーションだった。


帝都ガラド、皇帝執務室。

机の上に積み上げられた書類の山を前に、新宰相シオンは、感嘆と困惑が入り混じった表情を浮かべていた。


「……見事な手腕です、陛下。帝国の行政機構をここまで短期間に掌握されるとは。……ですが」


彼は、私が渡した羊皮紙の束を、恐る恐る指差した。


「この『勅令』の数々……。私の理解を超えているものが多々あります」


「なにか説明が必要かしら?」


「はい。特に前半の、鉱物資源の調査、実力主義の『科学院』設立、そして最新鋭『高炉』の建設……これらは理解できます。富国強兵の礎として、国を巨大な工場に変える構想ですね」


シオンは頷いた。だが、彼の指は、次のページで止まっていた。

そこには、国家事業の規模で語られるにはあまりにも奇妙で、シュールな命令が並んでいたからだ。


「ですが……これらは、一体?」


シオンの声が震える。

そこには、『鳩の大量捕獲』『コウモリの監視』『廃油と岩塩の収集』といった、まるで魔女の鍋の材料のようなリストが記されていた。


「……鳩、でございますか?伝書鳩の通信網を強化する、ということですか?」


「いいえ。彼らは通信用じゃない。……彼らには徹底した訓練を施すことになるわ」


「……はい?鳩に訓練ですか?」


シオンが、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。


「徹底した反復訓練。彼らはある意味優秀なのよ……」


私は淡々と説明したが、シオンの理解は追いついていないようだ。無理もない。

だが、私は畳み掛けるように、他の「ガラクタ」についても説明をした。


「銅線、コウモリ、廃油に岩塩……。まるで廃品回収に見えるかしら? でもね、シオン。『科学』というのは、一見無関係なものを組み合わせることで、魔法をも凌ぐ『鉄槌』を生み出す技術なのよ」


私は、空気を掴むような仕草をして見せた。


「……ッ!?」


シオンの顔から血の気が引く。

ただの塩やゴミが、この世界を統べているといっていい魔法を凌駕する。その悪魔的な思考の飛躍に、彼は戦慄したのだ。


「そして、これらは私の自動拳銃(CZ75)を大きくしたようなものだわ」


私は、最後の羊皮紙を指差した。

そこには、『黒色火薬の増産』と、それを詰めるための『鉄の筒』や『鉄球』、そして高炉で作られた鋼鉄による『大砲』の量産計画が記されていた。


「火薬と鉄の筒……。まさか、あの皇帝近衛騎士団を葬った爆弾を、量産すると?」

戦いの後、シオンも聖域であの凄惨な光景をみているから、それがどういう意味を持つか、理解したようだ。


「ええ。鋼鉄の『大砲』があれば、魔法使いの射程外から、一方的に死の雨を降らせることができる。そして……」


私は、窓の外に広がる夜景を見据えた。


「数学者と測量技師を総動員して作る『精密な地図』があれば、敵が見えなくても殺せるわ。近代戦において、情報は火力と同等の価値を持つのよ」


さらに、私は付け加えた。


「腹が減っては戦はできぬ、というわね。……『二毛作』による食料増産と、保存食の備蓄も忘れないで。帝国の簒奪なんていう、これだけ目立ったことをした以上、これから先、何が起こるかわからないわ。魔族が攻めてくるかもしれない。とにかく備えが必要なのよ」


シオンは、しばし言葉を失っていた。

彼が手にした羊皮紙の束。

それは一見すると、鳩やコウモリ、塩や油といった、脈絡のないガラクタのリストだ。

だが、それらが私の頭脳という回路を通った時、「恐ろしいシステム」へと変貌する。


彼は、震える手でそのリストを握りしめ、そして、深く、深く頭を下げた。


「……御意。陛下の深遠なるお考え、そしてその慈悲なきご決断……このシオンには計り知れませんが、必ずや完遂いたします」


その声には、恐怖と共に、確信めいた狂熱が宿っていた。

私になら、世界を壊して作り直せるかもしれない、という予感があったのかもしれない。


「頼んだわよ」


私は、詳細な設計図と運用計画が記された分厚いファイルを、彼に手渡した。

狂気の沙汰とも言えるこの計画書こそが、来るべき大戦の勝敗を決する鍵となる。


皇帝として、最初に行うべきこと。

それは、過去への探求と、未来への布石。

その両輪が、今、同時に回り始めた。


私は、執務室の椅子に深く腰掛け、天井を仰いだ。

帝国という巨大な機械の操縦は、当面、シオンに任せればいい。彼なら、私が戻るまでに、この国を「最高の科学兵器工場」に仕立て上げているだろう。


ならば、私が、次にやるべきことは、一つ。


(……王宮と、魔法学園。あの、奇妙な既視感の正体を、今度こそ確かめないと)


私には、まだ魔法学園で「学生」としてやり残したことがある。

休学は終わりだ。

読んで頂きありがとうございます。

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