リオのひとりごと④
えーっと……。
自分の体の後部座席で、最近の展開の速さに、若干、いえ、かなり振り落とされそうな、私こと、元・村娘のリオです。
ちょっと、貴女! 運転席の「私」! 少しスピードを落としてくれませんか!?
まず、王立魔法学園への入学、おめでとうございます。
そして、入学式当日に、高価なアーティファクトを物理的に破壊し、最低ランクのFクラスに配属され、ライバル(?)の貴族令嬢に喧嘩を売られた腹いせ(?)に、隣国への戦争を宣言し、その日のうちに休学するって……。
貴女、もしかして、「平穏な学園生活」という言葉に、何か恨みでもあるんですか!?
普通の女の子は、入学初日に、退学ならぬ「休学」届けを叩きつけたりしません!
それに、エイデン王子様のこと!
舞踏会での求婚も、まだお返事していないのに、今度は「戦争に一緒に行く」「僕が君を守る」ですって!
嬉しい……いえ、嬉しいはずなんですけど! かつての私なら、白馬の王子様が迎えに来てくれたって、天にも昇る気持ちだったはずなのに……。
今の私は、まず先に「足手まといだ」「生存確率が下がる」なんて、貴女みたいなことを考えてしまうんです。
おかしいですよね。いつから私は、こんなに可愛げのない、合理的な思考をするようになってしまったんでしょう。
最近、本当に、貴女と私の境目が曖昧になってきている気がします。
そして、何よりも、一番奇妙だったこと。
王宮と、あの魔法学園。
貴女は言いましたよね。その場所を知っているって。
そして、村娘である私が、そんな場所のことを知っているはずがないって。
でも、違うんです。
私は、あの場所を知っていた。そう思えるんです。
これは、私と貴女の精神が融合しつつあるせいなの?
王宮のゲストルームの壁紙にあった、蝶の模様。
庭園の薔薇。
そして、魔法学園の講堂に差し込む、ステンドグラスの光の色。
それらを全て、私は知っている。
……おかしいですよね。
私は、ホパ村の、ただの村娘のはず。
王族や貴族しか入れない、あんなきらびやかな場所を、知っているはずがない。
だから、この感覚も、貴女の記憶が私に流れ込んできているだけなんだって、そう思おうとしました。
でも、どうしても、拭えないんです。
あれは、「貴女」の記憶ではなく、「私」自身の、失われた記憶なのではないかって。
たしか、サンジェルマン公爵の調査では、私、村娘のリオは、その時から1年くらい前、どこからか村長が連れてきた。じゃあ、その前は一体。
こんな世界だから、人買いやら人攫いだってあるでしょう。
私は、ホパ村に来る前……一体、誰だったんでしょう。
前の記憶が無いのは「貴女」との出会いのせいだと思っていました。
でも、本当にそうなんでしょうか?
……貴女は、一体、誰ですか?
そして、私は、一体、誰なんでしょうか?
なんだか、貴女も私も、この世界で、自分の過去を探すという、面倒な宿題を背負わされてしまったみたいですね。
……と。
以上、体を乗っ取られ、ついでに自分の素性まで分からなくなってきた、公爵令嬢リオの、とりわけ混乱した妄想でした。
これから始まる戦争も、大変ですけど、自分の謎を解き明かす方が、もっと、大変なことになりそうです。
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