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二計画  作者: 喰ったねこ
序章:ホパ村編
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第6話 みんなから引かれる

目の前の男は、私の護衛を自称しながら、自身の記憶は失っているという。

あまりにも矛盾した状況に、私は矢継ぎ早に質問を重ねた。


「聞くだけ無駄かもしれないけど、一体誰なの? なぜ棺桶の中に?」


「覚えていない」


「その近代装備はどこで手に入れたの? この世界には存在しないはず」


「……記憶にない」


「最重要護衛対象とはどういう意味? なぜそれが私だと分かるの?」


「任務の目的は思い出せん。だが、理屈じゃない。感覚でお前が護衛対象だと分かる」


やはり、まともな答えは返ってこない。

彼も私と同じ、記憶に障害を抱えているようだ。

ただ、人格が分裂している私とは少し症例が違うらしい。


「何か肝心な事を思い出したら、教えて。私も、貴方の事を思い出したら教えるから」


「了解した」


「ところで、貴方の名前は?」


「名前……? 俺は……誰だ?」


「つまり、名前も思い出せないわけね。名無し(アノニマス)だから、アノン、というのはどう?」


「アノンか。コードネームとして不都合はない」


男は「アノン」と呼ぶことにした。


「私のことはリオと呼んで」


「リオ……? お前の名は、破星はせいではなかったか」


「この世界ではリオなの。昔の名をわざわざ名乗るのは危険かもしれない」


用心するに越したことはない。

私を銃殺した敵が、この世界にいないとも限らないのだから。


私たちは、次に洞窟内の棺を調べた。

アノンが言うには、彼がいた棺には治癒機能があるらしい。


「緊急用だから、少年を治療したらもう動かないだろうがな」


「じゃあ、閉じているものを開ける方法は?」


「ロックされていなければ、ここのボタンで開く」


アノンが指差した場所には、巧妙に隠されたボタンがあった。

だが、開いていない棺のボタンを全て押しても、何の反応もない。


「あなたが入っていた棺の鍵は、私が瀕死になることだったみたいだけど」


「俺はお前の護衛だ。条件としては正しい」


「いやいや、護衛対象が死にかける前に助けるのが普通でしょ」


「他の棺の鍵は、お前がもっと瀕死になることかもしれんぞ?」


あれ以上瀕死になったら、私は確実に死ぬ。

この棺の中身には興味があるが、命には代えられない。

私は棺を開けるのを諦め、アノンにバーンの治療を任せ、洞窟の外へ出た。


そこに広がっていたのは、死んだ村だった。

瓦礫の山、焼け落ちた家々、黒焦げの死体。

魔族の襲撃が、ホパ村の全てを奪い去っていた。

食料倉庫も例外なく破壊され、わずかに残っていた穀物も灰と化している。

生き残ったのは、洞窟に逃げ込んだ子供たちだけ。


今日、この村は難民キャンプになった。

そして、冬を越す食料は、ない。


(……思考しろ。生き残るための、次の一手を)


私は踵を返し、洞窟内に戻った。

目的は一つ。アノンが解体した、上級魔族の死体だ。


敵を知ることは、生存に必要不可欠。

そして、この肉がもし食べられるのなら、当面の食料問題は解決する。

私は村人に指示して死体の一部を運ばせると、ナイフで手際よく分解を始めた。


「聖女さま……」


子供たちが、遠巻きに私を恐怖の目で見ている。

当然だろう。魔族の死体を平然と解剖する少女など、聖女とは程遠い。


基本的な体の構造は、下級魔族と大差ない。心臓、肺、そして赤い血。

魔法の発生器官らしきものは、やはり見当たらなかった。


問題は、この肉だ。

焼いてみると、何とも言えない獣臭さが鼻をつく。


有毒か、無毒か。


「ねえ、ちょっとこれを食べてみてくれない?」


近くにいた女の子に、焼いた肉片を差し出す。

だが、彼女は泣きながら首を横に振った。


「聖女様、やめてください!」


同時に、リオの意識が『子供にそんなことをしてはダメだ』と、私の思考にブレーキをかける。


(合理的判断だ。なぜ邪魔をする)


私は舌打ちし、いつの間にか戻ってきていたアノンに肉を向けた。


「アノン、毒見して。私の護衛でしょ? 今、私が生存するために必要なんだよ」


「……いや、これは、遠慮する」


アノンも、あからさまに嫌そうな顔をして拒絶した。


使えない。

他人などどうでもいい、自分が生き残ることが最優先事項。

そう、「生存技術」では習ったはずなのに。


思考が、またあの忌まわしい訓練に戻っている。


「聖女様!」


その時、洞窟の奥から、傷一つない姿のバーンが駆け寄ってきた。

アノンがいた棺の治癒能力は、本物らしい。

死の淵から救われた彼は、すっかり私を聖女だと信じ込んでいる。


「だから、聖女じゃないって」


破星はせいが聖女? 世も末だな。こいつはもっと恐ろしい存在だったはずだが……」


アノンが、また気になることを呟く。


「何か用? バーン」


「はい! 村の食糧が、もう完全に底をつきます。このままでは、皆餓死してしまいます!」


やはり、問題はそこに行き着く。


「だから、領主様のいる街へ行って、援助をお願いするしかありません! 僕なら、街までの道が分かります!」


バーンの言葉は、唯一の希望だった。


「外には魔族がいますが、聖女様と……その、勇者様がいれば!」


バーンがアノンを見て言う。


私とアノンがいれば、道中の魔族くらいなら対処できるだろう。

食糧問題の解決、そしてこの異世界に関する情報収集。目的は一致している。


「……行くしかないわね」


私は、血に汚れたナイフを鞘に収め、灰色の空を見上げた。

こうして、私たちの異世界での旅は、滅びた村から始まることになった。

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