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二計画  作者: 喰ったねこ
第三章:王都編
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閑話 メアリーの嘆き

私の名前はメアリー。サンジェルマン公爵家にお仕えする、一介のメイドです。

メイドとして働く女の子なら、誰だって夢を見るはず。いつか、心からお仕えしたいと願える、本当に気高くて、美しいお嬢様に出会うこと。それが、私のささやかな夢でした。


その夢が、ある日、一番ドラマチックな形で叶っちゃうなんて、誰が想像できたでしょう。


リオ・ヴィ・サンジェルマン様。

私が、この生涯を捧げると誓った、たった一人のご主人様!


そのお名前を初めて聞いたのは、メサリアの街が魔族の軍勢に襲われて、もうダメかと思った、あの日のことです。突如として現れ、たった一人で特級魔族を倒しちゃったっていう、奇跡の聖女様。

正直、最初は「まさかそんな」って、ちょっと信じられませんでした。


でも、実際にお会いしたお嬢様は、噂なんて霞んじゃうくらい、衝撃的なお方でした!

キラキラ光る黄金の髪、澄み切った青い瞳。触れたら壊れてしまいそうな華奢な体つきに、雪みたいに真っ白なお肌。もう、まるでおとぎ話のお姫様!

なのに、その瞳の奥には、どんな騎士様も敵わないような、鋼の意志が宿っているんです。


「このお方だ!」って。私の魂が、そう叫んでいました。

この私、メアリーが、このお方を、世界で一番、誰よりも、きらきら輝くレディにしてみせる! それが私に与えられた天命なんだって!


……でも、その天命への道が、こんなにもイバラの道だなんて、あの頃の私には、知る由もありませんでした……。


私の最初の試練は、お嬢様の専属メイドになってすぐのこと。

腕によりをかけてお選びした、とっておきのシルクのドレス。完璧な着付けに、私自身うっとりしていたんです。なのに、お嬢様は、その上から、信じられないことに、機能性だけの無骨な白衣を羽織って、腰には物騒な銃とナイフまで着けるんですよ!?

「お嬢様!?」

「落ち着いて、メアリー」

落ち着いてなんかいられません! そのアンバランスすぎるお姿は、もはや前衛芸術の域でした!


お嬢様が街を救った功績で、晴れて聖女様になられるという、人生で一度きりの晴れ舞台! 公爵様から送られた高価な式典用のドレスがあったのに。

それなのに、お嬢様は、こともなげにこう仰ったのです。「動きにくいから、いつものでいいわ」と。

その「いつも」が何かと申しますと、なんと、私と同じメイド服に、あの無骨な白衣! 結局、お嬢様は、ご自身の叙任式に、そのままメイド服でご出席なされたのです! メイドは、私ですのに!


カルテラドスへの旅の際もそうでした。せっかくお仕立てした上品な旅装用のドレスが、到着したその夜の戦闘で、あっという間に盗賊の返り血で真っ赤に……。


王都に来てからは、さらなる試練の連続でした。

私は公爵様のご命令で、持てる技術のすべてを注ぎ込んで、お嬢様を完璧な貴族令嬢に磨き上げました。そして謁見の日、私の手による最高傑作が完成したんです。純白に金の刺繍が輝く、神々しい一点もののドレス。あれをお召しになったお嬢様は、本物の女神様みたいでした。


その、私の血と汗の結晶が、どうなったと思います?

スカートはビリビリに引き裂かれて、見るも無惨な姿に……。

「お、お嬢様! そのおいたわしいお姿は、一体全体!?」

「動きにくかったから」

動きにくかったから、ですって!? あのドレスが、どれだけ高価で、どれだけ繊細な一品か、ご存知ないのですか!?

私、その場で気が遠くなりそうでした。


でも、わたくしはくじけませんでした! その夜の舞踏会こそが、本当の勝負。しかも、お相手は、あのエイデン第一王子殿下! 王国の全ての令嬢が憧れる王子様が、お嬢様のパートナーなのです!

これはもう、お嬢様が王子様のハートを射止め、未来の王妃様になるための、最高の舞台ではありませんか!

私はとっておきの夜会服をご用意いたしました。私のメイド人生の全てを懸けて、お嬢様を誰よりも美しく輝く舞踏会の華として、送り出したのです。

そして帰ってきたお嬢様のお姿は……。

フリルは包帯代わりに引きちぎられ、あちこちが破れ、刺客の返り血で真っ赤に……。


「ドレスが……! ドレスが、完全に息絶えています……!」

私の悲痛な叫びに、お嬢様はきょとんとした顔でこう仰るんです。

「エイデン殿下の腕を固定するのに、ちょうど良かったから」

よくありません! 全然よくありませんわ! 王子様の腕と、このドレスのどっちが大事なんですか!


もう、毎回なんです!

私がどれだけ心を込めてお嬢様を着飾っても、お嬢様はそのドレスのまま戦場に飛び込んで、敵を殴り、蹴り飛ばし、時には爆殺なさる!そして、必ず、ボロボロになってお戻りになる!

もう! お嬢様は可愛いドレスに何か恨みでもあるんでしょうか!?


でも……最近、私は、少しだけ分かってきた気もするんです。

お嬢様は、好きで戦っているわけじゃない。

あの小さな背中に、私には想像もできないくらい、大きくて、重いものを、たった一人で背負っているんだって。

彼女がドレスを汚す時、それは、誰かを、何かを、その身を挺して守った証。

ボロボ-ロになったドレスは、彼女の戦いの激しさを物語る、「勲章」なのかもしれないって。


……ええ、頭では、理解しています。していますとも。

ですが! それと! これとは! 話が別なんです!

たとえ世界を救うためでも、乙女のドレスを粗末にしちゃダメなんです!


だから、私は誓ったんです。

たとえ、お嬢様が、これから何度、ドレスを血と泥で汚したとしても。

たとえ、お嬢様が、私の芸術品を、包帯代わりに引きちぎったとしても。

この私、メアリーは決してくじけません!

何度でも、何度でも! お嬢様を、世界で一番美しくて、華やかなレディに着飾ってみせます!


それが、リオ様にお仕えする、この私メアリーのメイドとしての誇りであり、生涯を懸けた「戦い」なんですから!

読んで頂きありがとうございます。

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