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二計画  作者: 喰ったねこ
第三章:王都編
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閑話:村の少年バーンの奮闘

リオ様、アノン様、そしてラナ様が、メサリアへ向けて馬を駆って行ってしまったあの日から、僕とメアリーさんの、二人きりの戦いが始まった。

商業都市カルテラドス。活気を取り戻した港には、カモメの鳴き声と、潮の香りが満ちている。人々は笑顔で往来し、街はすっかり日常を取り戻していた。


だが、僕の心は、少しも晴れなかった。

僕は、また、置いていかれてしまった。


ホパ村が魔族に襲われた時、僕はリオ様を守れなかった。

メサリアでの戦いでも、僕はただ、彼女の圧倒的な力を見ていることしかできなかった。

そして今、彼女が王都で新たな戦いに身を投じているであろう時に、僕はこんな遠い港町で、途方に暮れている。


「……強く、ならなくちゃ」

拳を、強く握りしめる。リオ様は、いつも僕なんかより、ずっとずっと先へ行ってしまう。あの人の隣に立つには、今のままじゃダメなんだ。


「バーンさん、いつまで海を眺めて感傷に浸っているのですか」

背後から、呆れたような、それでいて芯の通った声がかけられた。リオ様の専属メイド、メアリーさんだ。

「僕たちには、リオ様から託された、最重要任務があるではありませんか」

「……はい! 分かっています!」


そうだ。僕は、ただ無為に時を過ごしているわけじゃない。

『この地に残り、私やアノンが使っている銃や弾、或いは、珍しい出物を探してください』

それが、リオ様が僕に与えてくれた、初めての、たった一つの「最重要任務」。

僕が、リオ様の役に立てる、唯一のチャンスなんだ。


それから僕たちの、手探りの捜索活動が始まった。

メアリーさんの助言通り、僕たちは表通りの綺麗な店ではなく、あらゆる胡散臭い物が流れ着くという裏通りの商人たちを、片っ端から当たっていった。

「変わった品かい? あるとも、あるとも。これは、遥か南の大陸から来た、呪いの仮面でね……」

「坊や、お目が高い。こいつは、古代遺跡から発掘された、魔法のランプさ」

どの店主も、口の上手いことだけは一流だった。だが、彼らが見せてくるのは、どこかで見聞きしたような、ありふれた骨董品ばかり。リオ様の銃のような、あの、無機質で、洗練された、異質な気配を持つものは、どこにもなかった。


来る日も来る日も、成果はゼロ。僕の心に、焦りの色が濃くなっていく。

そんなある日のことだった。

宿屋に、一人の使者が訪れた。シオン様からの、メアリーさんへの召喚命令だった。

「……リオお嬢様の身分に、大きな変化がございました。つきましては、専属メイドである貴女は、急ぎ王都へ戻られたし、とのことです」

メアリーさんは、一瞬、僕の方を心配そうに見たが、すぐに、きりりとしたメイドの顔に戻った。

「バーンさん。申し訳ありませんが、わたくしは戻らねばなりません。お嬢様の一大事ですもの」

「……はい。分かりました」

「残りの資金は、全て貴方にお預けします。……あとは、お願いしましたよ」

彼女はそう言うと、僕にずっしりと重い革袋を託し、足早に王都行きの馬車へと乗り込んでいった。


そして、僕は、本当に一人になった。

夜、宿屋の部屋で、机の上に置かれた金貨の山を前に、僕は呆然としていた。

僕一人で、本当に、この大役が務まるのだろうか。

メアリーさんのような交渉術も、裏社会の知識もない。あるのは、リオ様への忠誠心だけだ。

「……ダメだ。弱気になっちゃダメだ」

僕は、自分の頬を強く叩いた。

リオ様だって、たった一人で、あの恐ろしい魔族の群れに立ち向かったじゃないか。

それに比べれば、こんなこと。


僕は、やり方を変えた。

これまではメアリーさんに頼りきりだったが、今度は、自分の頭で考え、自分の足で動いた。

裏通りの情報屋に金を払い、異質な品物――「魔法の力が一切感じられないのに、精巧な作りをした武具や道具」の噂を集めた。

最初は、何度も騙された。ガラクタを掴まされ、有り金を持ち逃げされそうになったこともあった。

だが、その失敗の一つ一つが、僕を少しだけ、強くした。

人の嘘を見抜く目、危険な取引相手を見極める嗅覚。ホパ村の、ただの人のいい少年だった僕は、少しずつ、この混沌とした商業都市で生き抜くための術を、身につけていった。


それでも、リオ様が求める「お宝」には、たどり着けない。

時間だけが、無情に過ぎていく。


そんなある夜。いつものように、酒場の隅で、安酒を飲みながら情報を集めていると、一人の、屈強な傭兵が、僕に声をかけてきた。

「よう、坊主。お前が、例の『鉄の塊』を探してる、サンジェルマンのお嬢様の使いか?」

「……!」

「そんなに、がっつくなよ。面白い噂を、教えてやる」

彼は、ニヤリと笑った。

「サパー共和国から来た、密輸船団がある。奴らが、時々、とんでもない『掘り出し物』を、裏の市場に流すことがあるらしい。……まあ、命知らずしか、近づかねえ場所だがな」


僕は、傭兵に礼を言うと、夜の闇へと駆け出した。

まだ、何も見つかってはいない。明日もまた、徒労に終わるかもしれない。

でも、僕は、もう諦めない。

この街のどこかに眠る、リオ様が求める、ただ一つの希望を、この手で掴み取る、その日までは。

僕の戦いは、まだ、始まったばかりなのだから。

読んで頂きありがとうございます。

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