表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二計画  作者: 喰ったねこ
第三章:王都編
51/109

第44話 師

「ふむ、発動寸前で僅かに軌道を逸らされたか。器用なことをする」


仮面の男は、大技を小細工で防がれたにも関わらず、まるで動じていなかった。


「ならば今度は、全てを破壊する我が最大の魔法を、止めてみるが良い」


その言葉と同時に、彼の全身から、先程とは比較にならないほどの膨大な魔力が溢れ出す。


「――極至冥黒絶光オメガ・アビサル・アニヒレーション!!」


形成された激光が、目が眩むほどの明るさで夜の王都を照らし出した。

凄まじいエネルギーの奔流が、彼の周囲に強力な魔力障壁を形成し、その余波だけで王城の窓ガラスが次々と砕け散っていく。

魔法適性のある人間ならば、近づいただけでその魂ごと焼き尽くされるであろう、絶対的な破壊の気配。


「な……! なんという力だ! これほどの魔力を、人間が放てるというのか……!」


エイデン王子が、引きつった顔で呻く。

この魔法が一旦解き放たれれば、この王城も、王都すらも、跡形もなく消滅するだろう。

シオンが企てた国家転覆など、子供の遊びに等しい。


だが、魔法への適合率がマイナスの私にとって、敵を包むその魔力障壁など、存在しないも同然。

私は、凄まじい光量に身を隠しながら、仮面の男へと無音で接近する。

そして、彼の足元に滑り込むと、不意打ちでその足を払い、魔法の射角を強引に上へと向けさせた。


夜空を貫き、天蓋に第二の月が生まれたかのような光が迸る。


「……また逸らされたか。極大魔法というやつは、発動までに時間がかかりすぎる。ならば――迫雷撃テスラ


体勢を立て直した仮面の男は、即座に連射可能な魔法を詠唱する。

だが、その指先から、雷が放たれることはなかった。


仮面の男の動きが、一瞬、不自然に止まる。

彼はこめかみを押さえ、小さく呻いた。


「……妙に頭がスッキリしたと思ったら、魔力切れ、か」


彼は、まるで他人事のように、軽く首を振ってそう呟いた。


「大技の連発で魔力切れとは無様だな! これでも喰らえ、雷震エル・クエイク!!」


好機と見たエイデン王子が、残った魔力を剣に込め、渾身の一撃を叩き込む。


ガキンッ!


だが、その魔法剣は、仮面の男が無造作に翳した腕によって、甲高い音を立てて弾かれた。

彼の腕には、傷一つついていない。

戦術皮膚ナノスーツ。その絶対的な防御力を、エイデンの魔法剣では貫けない。


「これから、我が本質を見せてやろう。所詮、魔法など、役立たずの飾りに過ぎんということをな」


仮面の男は、そのままエイデンに対し、流れるような動作で前蹴りを放った。

王子は咄嗟に剣で防御するが、ゴキッ、という鈍い音と共に、剣はへし折れ、その奥にある彼の腕の骨までもが砕かれた。


戦術皮膚ナノスーツによる硬化。

そんなもので蹴られれば、この世界の未発達な冶金技術で造られた剣など、バターのように断ち切られる。


「格闘こそ、我が『生存技術』の本質。己の力量も知らず、我に挑んだのが間違いだったな」


「くっ……! 姫君、この男は、危険すぎる……! 僕が、食い止めているうちに、早く……逃げてくれ!」


片腕を砕かれながらも、エイデンは私を逃がすため、必死の形相で仮面の男の足元に縋り付いている。


「フン。この世界の人間は、あまりにも脆い。安楽な魔法に浸かりきっているからだ」


仮面の男は、王子をもてあそぶように、その砕かれた腕を容赦なく踏みつける。


「ぎゃぁあああああああ!」


エイデンの絶叫が、バルコニーに響き渡った。


(……逃げるべきだ)


私の生存技術が、激しく警鐘を鳴らしていた。

目の前の男は、只者ではない。魔法に依存しない、純粋な戦闘技術。

それは、アノンと同質、いや、それ以上。

私と同じ世界の理で動く、天敵。武器もない今、勝てる見込みは万に一つもない。


彼を、見捨てろ。それが、最も合理的な判断だ。

昔の私なら、傷ついた仲間さえ、躊躇なく切り捨てられたはずだ。

彼が死のうと、私さえ生き残れば、どうでもいい。そう、思えたはずなのに。


(……でも、彼は、私を守ろうとした)


エイデン王子の、あの真摯な瞳が脳裏をよぎる。

この世界に来て、私は、確実に弱くなった。甘くなった。

得体のしれない敵を前にして、逃げないなど、自殺行為だ。

だが……。


異世界で、ただ「普通」に生きるというのなら。

自分を信じ、好意を寄せてくれる人間を、見殺しにしてまで手に入れた「生存」に、一体何の意味がある?


「このぉぉおおおおお!」


私は、思考が結論を出すより早く、地を蹴っていた。

仮面の男に渾身の蹴りを放ち、エイデンから引き離す。


「フフ。そうか。ただの一個人のために、自らの命を危険に晒すか。破星はせい、お前がそれを行うのは、完全に『落第』の行動だ」


「うるさい! 私が間違っているというのなら、それでいい! エイデン王子、早く逃げて! こいつは化け物よ、特級魔族よりも、遥かに!」


「しかし、姫君を置いては……!」


「私のことはいい! こう見えて、死地には慣れている! 邪魔をしないで!」


私の絶叫に、エイデン王子が、悔しげに顔を歪ませながら後退していく。

彼が安全な距離まで離れたのを見届け、私は、ほっと息をついた。

……実力差を悟り、引くことができる。彼は、この世界の人間にしては、やはり優秀な戦士だ。


「なるほど。なかなかの打撃だ。だが、格闘戦ならば、我に一日の長があるぞ」


仮面の男はそう言うと、私に接近し、流れるような体術を繰り出す。

私も応戦するが、私の蹴りは、突きは、その全てが、まるで未来を予測しているかのように、完璧に防御され、あるいは受け流される。


(……動きが、全て読まれたいる?)


狙いは、開口部のある頭部。

だが、私の渾身の拳も、彼の腕に阻まれ、硬い感触だけを残した。


「やはり、君だったか。……それにしても、敵の力量も分からぬまま、利用価値もない王子を助けるとは。私を思い出したのか、それとも、『精神汚染』が、それほどまでに広がっているということか」


「ナノスーツを着た人間が、私に何の用?」


「後者、か。……君に魔法が効かないのならば、これならどうかな? そのドレスの下の不釣り合いなナノスーツも、頭までは防御できまい」


男は、懐から、鈍く光る鉄塊を取り出した。

それは、間違いなく、拳銃ハンドガンだった。

この男、やはり、完全に私の同類。


「あなた、一体何者なの!?」


舞踏会に、武器を置いてきてしまったことが、悔やまれる。

この距離で頭を狙われれば、回避は不可能に近い。

だが、彼は、撃たない。何か、別の目的がある。


「我が名は、ゲーレン。それにしても、『最終破壊者』たる君が、そんなドレスを着て、お姫様ごっこを演じているとはな。悪い冗談だ。君は、あの『計画』のために、どれだけの人間を殺したと思っている?」


ゲーレン。聞いたことがない名前。

だが、その声には、どこか聞き覚えがある。


計画? 殺した?


「……あなたは、いったい、私の何を知っているの?」


「全てだ。……いや、今の君のことは、何も知らん、と言うべきか。やはり、記憶を失っているのだな。『精神汚染』によって」


「精神汚染……?」


「そうだ。でなければ、君が、あのような感傷的な行動を取るはずがない」


「ただの刺客ではないようね」


「当たり前だ。……嘗て、私は、ある特務機関を率いていた。本来の君なら、説明などせずとも、私が誰か、分かるはずだがな」


「……分からないわ」


ゲーレンは、深く、失望したかのように、ため息をついた。


「……『いついかなる時も、確実に生き残れ。お前たちに、死の自由はない』」


「……!」


その言葉。私の脳裏に、深く刻み込まれた、呪い。


「この言葉に、何か感じるものはあるかね? そう言って、君たちを訓練したものさ。だが、我々は敗北した」


「まさか……私が、銃撃されて、失敗したから……」


「そうだ。その結果が、今の、この世界の惨状だ」


「どういう、意味?」


「我々が遂行した『計画』の、残骸だ」


「計画ですって?」


「我が魔力が戻ってきたか……今日は、ここまでの様だな」


彼は、早口に言葉を続けた。


「最後に一つだけ、和平は潰え、もはや戦いは避けられない。さぁ、破星はせいよ、ロキヌスに来るがいい。そこで、君の最終的な役割を判断するとしよう」


ゲーレンはそれだけ言うと、魔法を詠唱し、その体は、ふわりと宙に浮いた。


「では、いずれ、また会おうではないか。――最終破壊者、破星はせいよ」


彼は、そう言い残すと、夜空の闇へと、飛翔し、消え去っていった。


……飛んだ?


魔法で、人が、飛んだ。

魔族ですら地上を這いずり回っているというのに。


ゲーレン。彼の適合率は、一体。

そして、私を遥かに上回る、生存技術。

もし、彼が本気だったなら、私は、簡単に殺されていただろう。


魔法と科学、その両方を極めた、人外の者。

そして、恐らくは私の「師」。


私は、バルコニーに一人立ち尽くし、ただ、呆然と、彼が消えた夜空を見上げるしかなかった。

読んで頂きありがとうございます。

ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ