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二計画  作者: 喰ったねこ
第三章:王都編
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第34話 公爵家の養女

ある日の令嬢講座の後。


「さてと、所長。本日のマナー練習はこのくらいにして、いよいよ本題に入らせていただきます」


ダンスのレッスンで疲れ果て、ぐったりとソファに沈み込む私に、シオンは紅茶を差し出しながら、穏やかな、しかし有無を言わせぬ口調で切り出した。


「サンジェルマン公爵閣下は、所長を正式に養女として迎えることを決定いたしました。しかも、『実の娘』という触れ込みで」


「……は?」


思わず、素っ頓狂な声が出た。


「どうして、そんな話になるの? 公爵には、ラナという立派な跡取り娘がいるでしょう。男子ならともかく、今更、私のような娘を養子に迎える必要はないはずよ」


「はい。端的に申し上げますと、貴女を『大聖女』に就任させるための、地ならしです」


シオンは、こともなげに言った。


「いかに街を救った英雄とはいえ、出自不明の元村娘を、この国の最高位である大聖女に据えるのは、現実的ではありません」


「はぁ……」


「ですが、有力貴族であるサンジェルマン公爵家の令嬢となれば、話は全く別。そこで、公爵が若い頃に、とある女性との間に設けたものの、事情があって長年正体を隠していた『隠し子』という筋書きで、貴女を貴族社会に披露する運びとなりました」


「隠し子ですって!? あのタヌキ公爵までグルになって、本気で私を大聖女にするつもりなの!?」


つまり、この連日の過酷なマナー教育は、全てそのための布石だったというわけか。


「サンジェルマン公爵は、貴族の中では傑出して頭の切れる現実主義者です。貴女という規格外の駒を中央政界に送り込み、ご自身の権力をさらに盤石なものにしようと目論んでおられるのです。元々はその役目をラナ様に、とお考えだったのでしょうが……大聖女候補には、あまりにも強力なライバルがおりますので」


「ライバル?」


「はい。サンジェルマン家と勢力を二分する、ナイジェル公爵家のご令嬢、セレニティ様です。彼女の聖女としての魔力と資質は、正直なところ、ラナ様を遥かに凌駕しております」


「そのライバルへの対抗馬として、私が担ぎ出されたというわけね。公爵の意図は理解したわ。でも、よくどこの馬の骨とも分からない元村娘を、いきなり養女にする気になったものね」


「実は、ホパ村へ食料援助隊を送った際、公爵は所長の身元調査を命じておりました。しかしながら、魔族の襲撃で村の大人たちは全て死亡。貴女の詳細を知る者は、残念ながら、誰一人として生存しておりませんでした」


「……つまり、私の過去は、何も分からない、と」


公爵が、その権力をもって組織的に調べても、何も出てこない。

私が目覚める前の「リオ」の素性すら、謎に包まれたまま。

つくづく、私は過去不明の都合のいい、謎多き女らしい。


「貴女の素性よりも、その圧倒的な『実力』こそが重要なのです。所長の科学技術や、常識外れの軍略の有用性に、他の目ざとい貴族たちが気づき始めていないはずがありません。王都へ行けば、貴女を是が非でも自陣営に引き込もうとする勢力が、必ずや現れるでしょう。これは、それを防ぐための予防線でもあるのです。今や、科研と黒科学騎士団は、サンジェルマン領の安全保障の要なのですから」


私の知らないところで、私という存在を巡って、貴族社会の様々な思惑が動き始めているらしい。

まあ、あれだけ派手に立ち回れば、当然の結果か。



その数日後。

私は、公爵家の礼拝堂で、ごく内密に、しかし正式な手続きを経て、サンジェルマン公爵の娘となった。


そして、リオ・ヴィ・サンジェルマンという、大層な名前を、勝手に与えられた。


「ところで、シオン。この『ヴィ』というのは、何?」


「貴族のミドルネームは、母方の姓を継ぐのが慣例です。ヴィ家は、今は没落しておりますが、歴史は古く、由緒正しい名門ですので、箔付けには最適かと」


すでに、そちらとも話がついているのだろう。

私の知らないところで、私の「母親」まで作り上げられている。


その日から、私の生活は一変した。

騎士団本部でも、科研の工事現場でもなく、私はサンジェルマン公爵の屋敷に、完全に軟禁されることになった。

いや、娘になったのだから、ここが私の家、ということになるのか。


シオンだけでなく、大勢のメイドや、各分野の専門家である家庭教師が総動員され、私を「公爵令嬢」に仕立て上げるための、徹底的な貴族教育が始まった。


科研のことは、シオンとアノンに任せきりになる。

もどかしい思いはあるが、王都行きが目前に迫っている今、こちらの「偽装工作」を優先する必要があった。


相変わらず、シオンには毎日のように絞られているが、彼曰く、私の立ち居振る舞いは、以前に比べれば、少しは様になってきたそうだ。


そうこうしているうちに、あっという間に時間は過ぎ、王都へ出発する日が、目前に迫っていた。

読んで頂きありがとうございます。

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