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二計画  作者: 喰ったねこ
第二章:メサリア攻防戦編
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第31話 戦いの終わり

夜が明け、朝日が東の空を染め始める頃、戦いは終わっていた。


城壁の上から見下ろす平原は、おびただしい数の死体によって埋め尽くされている。

メルギド軍の兵士たちの骸と、異形なる魔族たちの亡骸。

その二つの軍勢が、敵も味方もなく折り重なり、屍山血河の地獄絵図を完成させていた。


あれほど凄まじかった戦闘の熱気は嘘のように消え去り、冬の冷たい風だけが、死者たちの間を静かに吹き抜けていく。


「さて、シオン。あなたは、これからどうするの?」


私は、隣で同じ光景を無言で見つめていた青年に、静かに問いかけた。


「さあ、どうしましょうか。革命を夢見る私の思想を、貴族である貴女の前で派手に告白してしまいましたからね。公爵閣下にご注進くだされば、私の首は明日にも飛ぶでしょう。ええ、縛り首になる前に、さっさと身を引くのが賢明というものでしょう」


彼は、自らの末路を語りながらも、その口調には不思議なほど悲壮感がなかった。


「私が黙っていれば、あなたの首は繋がったままよ。それに、こんな面白いシナリオを書ける有能な人材を、手放す気はないわ。私の科学研究所には、あなたのような人間が必要なの」


「……味方にはならないが、仲間にはなれ、と。貴女という御方は、本当に……」


「私は貴族だし、貴族打倒の試みには手を貸せない。でも、私の仕事を手伝ってくれる限り、その人が何を信じ、何を考えていようと自由。それが私の流儀よ」


「敵に回れば、即座に殺されそうですね。それに……不思議なものです。あれほど固執していた貴族の打倒という理想が、魔族すら駒として利用する貴女の混沌を前にしては、ひどくどうでもよく、些細なことのように思えてきました。革命軍の掲げる秩序ある理想よりも、貴女がもたらす予測不能な混沌の方が、遥かに魅力的だ」


「じゃあ、私のオファーを承諾するということで、いいわね」


シオンは、苦笑とも自嘲ともつかない笑みを浮かべると、すっと私の手を取った。


「あれほど憎んだ貴族に、こうして仕えることになるとは。人生とは分からないものです。参りましょうか、貴族のお嬢様。そして、混沌の聖女よ」


「ええ、行きましょう、シオン副所長。それと、私のことは聖女でもお嬢様でもなく、『所長』と呼びなさい」



私たちが城壁を降りると、死体が転がる平原を、アノンとラナが馬に乗ってこちらへやってくるのが見えた。

戦闘が完全に終結してから街に入る。作戦通りだ。


「リオ! あなた、一体どうやったのですか!? それとも、これは、本当にただの偶然の一致だとでも言うのですか!?」


馬から飛び降りるなり、ラナが血相を変えて私に詰め寄る。

彼女の顔には、安堵よりも、理解を超えた現象を前にした畏怖の色が濃かった。


破星はせいに任せて、状況がこの程度で済んだのだ。僥倖だったと思うべきだな」


アノンが、馬上から静かに言う。


「あなたたちも、無事だったようね」


私は、二人を出迎えて声をかけた。


「お前のことだ、必ず何か策があるとは思っていたが……。それにしても、どうやったんだ。まあ、この光景を見れば、我々三人だけで、拠点防衛などという土台無理な話を、何かとんでもない方法でひっくり返したってことだけは、よく分かる」


「同じ事が二度起これば、さすがに法則性も見えてくるものよ。とはいっても、仮説が間違っていて失敗した場合でも、街から逃げ出すくらいの自信はあったわ」


「リオ、もう一度お聞きします! これは偶然なのですね!? それとも、貴女が仰る『科学』とやらなのですか!?」


ラナが、なおも食い下がる。


「観測から仮説を立て、実験によって検証する。再現性を重視する帰納的アプローチは、科学の基本よ」


「……意味が、分かりませんわ」


「つまりね」と私は続けた。「原理も分からず、ただ漠然と祈って奇跡を待つだけの魔法とは、根本的に違うということ」


ラナはそれ以上、聞き返してはこなかった。

疑問が消えたわけではないだろう。

ただ、彼女の常識の中には、私の言葉を理解するための語彙が存在しないのだ。



メルギド伯爵によって引き起こされたメサリア侵略戦争は、メサリア側の、あり得ない形での「完勝」に終わった。


偶然にも魔族が来襲し、たまたまメルギド軍と鉢合わせになり、都合よく共倒れになった――。

その、あまりにも不可解な戦闘の推移については、数日後には公式な見解が発表されることになった。


|メサリア科学研究所副所長と公爵秘書を兼任することになったシオンによって、「全ては聖女リオの、神懸かり的な軍略によって成された奇跡である」と、領地安全保障会議をはじめとする、あらゆる場面で証言されたのだ。

シオンは、実に嬉々として、その「奇跡」に尾ひれをつけ、貴族たちの間に吹聴して回っている。


あの男が、何をしたいのかは理解できる。

私という存在を神格化し、絶対的な権威を持たせることで、今後のメサリア科学研究所の活動を円滑に進め、ひいては、私自身を革命の駒として祭り上げようとしているのだ。


だが、そんなことをすれば、これから私は一体どうなるのか。


普通の、平穏な生活。

その目標から、ますます遠ざかっていくことだけは、間違いなかった。


私は、戦いの終わった静かな街を見下ろしながら、新たな、そしてより一層厄介な戦いの始まりを予感し、深く、静かにため息をついた。

読んで頂きありがとうございます。

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