リオのひとりごと②
えーっと……。
自分の体なのに、やっぱり後部座席から窓の外を眺めているだけの、私こと、元・村娘のリオです。
最近、本当に色々なことがありすぎて、もう何から考えればいいのか……。
まず、私の身分について。
この私、ホパ村の魔無し女リオが、なんと、お貴族様になりました!
ついでに、むら聖女から、王都にも認められた「正式な聖女」にまでクラスチェンジしてしまいました!
……って、そんな超出世あり得ます!?
辺境の村でイモばっかり食べていた女の子が、ですよ? シンデレラストーリーにも、ほどがあります!
まあ、全部、私の運転席に座っている、有能すぎる「貴女」のおかげなんですけどね。
貴女、本当にすごい。すごすぎます。
……でも!
言わせてください。貴女のやり方、いろいろとおかしいですから!
まず、あの治療対決!
「治す」っていうから、私もお祈りでもするのかと思っていたら……何ですか、あの地獄絵図は! 患者さんの悲鳴が、今も耳に残ってますよ!
「痛みは治癒過程における、避けられぬ副作用に過ぎない」じゃありません! 普通、聖女様は患者さんから「ありがとう」って涙を流されるものです!「悪鬼!」「やぶ医者!」って、石を投げられんばかりに睨まれるものじゃありません! 私の聖女イメージが、初日から大暴落です!
そして、公爵様との交渉!
「騎士1000人分のお給金をお願いしますね」って、にっこり笑って言いましたよね!?
私だったら、あの場で「ごめんなさい、調子に乗りました!」って土下座してますよ! 相手は、この国の偉い公爵様の一人ですよ!? それを脅迫まがいの交渉で言いくるめて、本当にお金と研究所の約束を取り付けちゃうんですから!
貴女、前世はどこの大企業のCEOでしたか!?
あと、研究所って何ですか!
せっかく綺麗で大きなお屋敷をもらったのに、その地下あたりを改造して、怪しげな薬品をフラスコでぐつぐつ煮込むつもりでしょう! 絶対にそうです! 夜中に謎の爆発とか起こさないでくださいね! ご近所付き合いが悪くなりますから!
ああ、もう!
魔族は爆殺するし、焼き殺すし、人質も村人も平気で見捨てようとするし!
貴女は、目的のためなら手段を選ばない、冷酷で、悲しいくらいに合理的な人。
時々、貴女の記憶の断片が見えるんです。血と硝煙にまみれた、壮絶な光景が。きっと、私とは全く違う、過酷な生き方をしてきたんでしょうね。
……だからこそ、私が、貴女の「歯止め」にならないと。
そう、これは神様が私に与えた使命なんです! この、ちょっと(かなり)危ない人を、常識の範囲内に押しとどめる、大切な役目なんです!
……たぶん。
そういえば、人質にされていた、あの柔らかそうで綺麗な女性。
ラナ様、でしたっけ。本物のお貴族様で、本物の聖女様。
生まれも育ちも確かな、正真正銘のご令嬢。
……あの方、ひょっとして、アノン様に気があるんじゃ……?
うん、まあ、分かります。すごく分かります。
だって、絶体絶命のピンチに、あの強くて格好いいアノン様が、颯爽と現れて助けてくれるんですよ? 惚れない方がおかしいです。私の時と、全く同じパターンですもん。
……でも!
そこは、はっきりとさせておかなければなりません。
アノン様は、「私」の護衛です!
いいですか? あの人は、私の危機を感知して、棺の中からわざわざ出てきてくれたんです。私のために、最後の回復薬だって使ってくれました。それに、「破星」っていう、特別な名前で私のことを呼ぶんです。記憶喪失の二人が、謎の固有名詞で繋がっている……これ、どう考えても、ラナ様より私の方が物語的な結びつきが強いですよね!?
ラナ様との出会いは、ただの偶然。私との出会いは、運命なんです!
……と。
以上、体を乗っ取られ暇を持て余した、新米男爵聖女リオの、とりとめもない妄想でした。
それにしても、私の人生、どうなっちゃうんでしょう。
ちょっと前まで、王子様との出会いを夢見ていただけの、ただの村娘だったはずなのに。
なんだか、毎日が大変なことになりそうです。
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