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二計画  作者: 喰ったねこ
第六章:神聖国編
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第90話:堕ちた使徒と星の歌

鋼鉄の殺戮兵器(ヴァルキリー)堕ちた生物兵器(四使徒)

共に科学と魔法の融合という同じ設計思想で生まれた怪物。

ゲーレンと私。考える事は同じみたいだ。

要塞グラードの頂上、高さ百メートルの尖塔は、今や二つの怪物がぶつかり合う天空の闘技場と化していた。


「キェェェェェッ!!」


異形と化したユリウスが、怪鳥のような叫びと共に空から急降下する。

鋼鉄をも切り裂く鋭利な爪が、私の首を狙って振り下ろされた。

私は一歩も退かず、強化外骨格ヴァルキリーの左腕を掲げてそれを受け止める。


ガギィィィン!!


凄まじい火花が散り、衝撃で足元の石畳が蜘蛛の巣状に砕け散る。

魔力で強化された肉体による物理攻撃。

これだけは、私の「魔法無視」でも透過できない。

だが、前世の対戦車装甲技術で作られたこの鎧を貫くには、出力が足りない。


「硬い……! なぜだ、神の力ぞ!?」


「硬度、靭性、耐熱性。全てにおいて計算し尽くされた素材よ。……信仰心だけで割れると思わないで!」


私は左腕を振り抜き、ユリウスを弾き飛ばす。

体勢を崩した彼に向けて、右腕のガトリングガンが火を噴いた。


ジャララララララッ!!


至近距離からの徹甲弾の豪雨。

ユリウスは翼を盾にして防ごうとするが、鋼鉄の弾丸は黒い鱗を容易く貫通し、肉を抉り飛ばしていく。


「ぐ、アァァァァ!!」


ユリウスが悲鳴を上げて後退する。

だが、彼の傷口からは黒い煙が立ち上り、見る間に肉が再生していく。

魔力による過剰回復。


「無駄だ! 私は不滅! 神に選ばれし完全体なのだ!」


彼は両手から、どす黒い魔力の球体を生成した。

圧縮された重力魔法。

それを、私ではなく、私の足元の「塔」に向けて放つ。


ズドォォォォン!!


爆音と共に、尖塔の上部が粉々に吹き飛んだ。

足場を失った私は、瓦礫と共に空中へと投げ出される。


「地へ堕ちろ、鉄屑!」


空中に逃れたユリウスが、勝ち誇ったように笑う。

だが、私は慌てない。

背中のスラスターを全開にし、空中で姿勢を制御する。


「……飛べるって言ったでしょう?」


ゴオオオオオッ!!


青白いジェット噴射が、落下のベクトルを推進力へと変える。

私は瓦礫を蹴り、砲弾のような速度でユリウスへと突っ込んだ。


「なっ!?」


反応する間も与えない。

私は鋼鉄の拳を、彼の鳩尾に深々と叩き込んだ。


ドォォォォン!!


衝撃波が空気を震わせる。

ユリウスの体がくの字に折れ、背中の翼が千切れ飛んだ。

彼は錐揉み回転しながら、崩れ落ちる尖塔の残骸へと叩きつけられる。


ガシャーン! バキバキバキッ!


塔が、耐えきれずに崩壊を始める。

巨大な石塊が雪崩のように崩れ落ちる中、私はスラスターを吹かして、瓦礫に埋もれたユリウスの元へと着地した。


もう、そこには「テラス」の面影はない。

半壊した塔の断面、むき出しの鉄骨と石材の上で、ユリウスは血反吐を吐きながら這いつくばっていた。

体の再生が追いついていない。裂けた胸部からは、むき出しの臓器と共に、赤く明滅する大きな魔石が鎮座していた。


「……ば、かな……。何故、完全体の私に、魔石(こんなもの)が埋め込まれているのだ」


ユリウスが、自らの胸を見て愕然とする。

彼は知らなかったのだ。自分が「完全な適合者」などではなく、魔石という外部装置によって無理やり動かされている人形に過ぎないことを。


私は、ガトリングガンの銃身を、彼の頭に向けた。

まだ赤熱している銃口が、雪を蒸発させて湯気を上げている。


「貴方も、ただの自爆要員だったみたいね」


「……っ」


ユリウスが、恐怖と絶望に顔を引きつらせて後ずさる。

傲慢だった使徒の顔は消え、死に怯える矮小な人間の顔がそこにあった。

信じていたゲーレンに、最初から裏切られていたという事実が、彼の精神を崩壊させていく。


「ま、待て……! 殺すな! 私は知っているのだ! 世界の真実を! ゲーレン様の目的を!」


「……そう?」


私は銃口を少しだけ下げた。


「話なさい。内容によっては、苦しまずに殺してあげる」


「せ、聖都の……中心……。天より降り注ぎし、星の神殿……」


ユリウスは、譫言のように呟き始めた。


「そこにあるのは、我らの神……。黒き岩肌、脈打つ光……。あれこそが、神の座……いや、神そのもの……」


「神そのもの?」


「そうだ……。天より降りて、この地に根を下ろした、絶対なる存在……。我ら四使徒も、ゲーレン様も、そこで『声』を聞いたのだ……」


(……天より降りて、根を下ろした?)


その言葉を聞いた瞬間、私の脳裏に、ある記憶がフラッシュバックした。

それは、この世界に来て間もない頃、メサリアの神殿で聞いた、あの説法だ。


『唯一なる神は邪悪なる悪魔を滅し、このファンテェーンの地に降臨された』


あの時は、ただの宗教的なお題目だと思って聞き流していた。

だが、もしそれが、比喩でも何でもなく、物理的な事実を述べていたとしたら?

空から何かが落ちてきて、そこに突き刺さっているのだとしたら。


ユリウスの瞳が、恍惚と恐怖がない交ぜになった色を帯びる。


「貴女には……聞こえないのか? あの、星の歌声が……。世界を管理し、修正し、あるべき姿へと導く、絶対なる意志が……」


(……星の、歌?)


その言葉に、私は言いようのない寒気を覚えた。

宗教的な妄言と切り捨てるには、あまりにも具体的で、そして不気味だ。

脳裏に、ノイズのような記憶の断片が走る。

だが、それは形を結ばず、霧散した。


「……行けば、分かるのね」


「行け……。だが、貴女は絶望するだろう。神の真の姿を見れば……人の心など、耐えきれぬ……」


ユリウスは、最期に嘲るような笑みを浮かべた。

その時、彼の胸の奥で、魔石が限界を超えて赤く明滅した。


「……え?」


カッ!


彼の意思とは無関係に、体内に埋め込まれていた魔石が発光する。

自爆か、それとも口封じか。


「……ゲーレン様、貴方にとって私は、ただの……!」


「チッ!」


私は咄嗟にバックステップで距離を取る。


ドォン!!


小さな、しかし濃密な爆発が、ユリウスの体を内側から食い破った。

埋め込まれていた大きな魔石だけを残し、肉片すら残さず、彼は黒い灰となって風に舞った。


四使徒アポストルの一角、消滅。


その時、崩れかけた階段を駆け上がってきた足音が聞こえた。

アノンだ。


「はぁ、はぁ……! 破星!」


彼は瓦礫の山を乗り越え、私の元へとたどり着く。

その顔には、珍しく焦りの色が浮かんでいた。


「無事か!? 塔が崩れたぞ!」


「ええ。……少し、埃っぽくなったけどね」


私は、舞い上がる灰を払った。

アノンは、ユリウスがいたはずの場所――黒い染みだけが残る床を見て、顔をしかめた。


「……奴は?」


「喋りすぎたみたい。口封じされたわ。……でも、置き土産は残していった」


私は、ユリウスが消滅した場所に転がっている、拳大の赤黒い結晶を拾い上げた。

まだ熱を帯びているそれを、強化外骨格の無骨な指でつまむ。


「……これが、奴を動かしていた動力源」


凄まじい高密度の魔力が内包されているのに違いない。

人間一人を「怪物」に変え、再生させ続けるほどのエネルギー。

それは、通常の魔石とは質が異なっていた。もっと禍々しく、そして恐るべきエネルギーを感じさせる。


「破星、それは……?」


「戦利品よ。……あるいは、手向けかもしれないわね」


私は、その魔石をコンテナに収めた。

ゲーレンが「口封じ」のためにユリウスを爆殺したのなら、この魔石が残ったのは計算外だったのか、それとも……あえて残したのか。

どちらにせよ、貴重なサンプルだ。


「陛下ーッ!!!」


アノンの後を追うように、瓦礫の山を越えて、野太い声が響いてきた。

熊のような巨躯を揺らして現れたのは、帝国が誇る猛将、スコルツェニー将軍だ。

彼は瓦礫に埋もれたユリウスの痕跡を一瞥すると、獰猛な笑みを浮かべ、バンバンと自身の胸甲を叩いた。


「ガハハ! やりましたな陛下! あの化け物を単独で叩き落とすとは! 科学だ何だと言いますが、結局のところ陛下の拳こそが最強の兵器なのではありませんか! いやはや、痛快です!」


彼は豪快に笑う。ヴァルキリーの性能を知っていようとも、それを操り、敵将を物理的に粉砕した私の「個の強さ」こそが、武人である彼の琴線に触れるらしい。


その後ろから、冷静な声が続く。

眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせ、周囲の惨状を油断なく観察しながら登ってきたのは、モルトケ参謀総長だ。

彼は私の姿を見ても軍礼を崩さなかったが、その表情はいつになく硬い。


「ご無事で何よりです、陛下。……状況は?」


「敵将ユリウスは排除したわ。要塞の制圧は?」


「完了しております。生存者は武装解除し、抵抗の意思を示した者は排除しました」


モルトケは手元の資料に目を落とし、一つ息を吐いた。


「……見事な手際でございます。ガスによる窒息、逃げ場を失った敵の混乱……。これほど一方的な殲滅戦は、私の長い軍歴でも記憶にありません。……陛下の手にかかれば、難攻不落の要塞もただの石棺に過ぎないということですな」


勝利への安堵よりも、眼下に広がる「毒ガスによる静かな虐殺」への戦慄が勝っているようだ。彼は眼鏡の位置を直し、現実的な問題へと話題を移した。


「それで、陛下、捕虜の処遇ですが」


「捕虜の数は?」


「約二千。要塞内の大半はガスで絶命しましたが、強風の吹く城壁最上部や、塔の上層階にいた者たちだけが生き残りました。……いかがなされますか? この極寒の地でこれだけの数を養う食料はありません」


モルトケが、事務的に報告する。

横でスコルツェニーが「生き残りは運のいい連中です。いっそ、その運を試す意味でも、最前線の斥候にでも使い潰しますか!」と物騒な提案をする。

……この二人は、方向性は違うがどちらも合理的で冷酷だ。


私は少し考え、首を横に振った。


「いいえ。殺すのは簡単だけど、死体は働かないわ。……彼らには、要塞の修復と、拡張工事を手伝ってもらう」


「拡張、ですか?」


「ええ。ここは聖都への最前線基地になる。冬の間、快適に過ごすための暖房設備の設置、それに……春の決戦に向けた『城壁』の修復や『建物』の整備が必要よ」


捕虜を労働力として使い潰す。合理的かつ無駄のない判断だ。

モルトケは納得したように頷いた。


「なるほど。捕虜を労働力へ転換し、次なる作戦の準備に充てる……。承知いたしました。直ちに手配いたします」


「ガハハ! 陛下も人が悪い! だが、奴らにとっては死ぬよりマシでしょうな! 雪かきでも石運びでも、存分にこき使ってやりましょう!」


スコルツェニーも納得したように豪快に笑う。

私はアノンと顔を見合わせた。彼は「やれやれ」といった様子で肩をすくめている。


その夜。

要塞の司令室で、私は鹵獲ろかくした地図と、ユリウスから得た情報を突き合わせていた。


「『天より降り注ぎし、星の神殿』……か」


地図上の聖都ルミナスの中心には、巨大な大聖堂が描かれている。

だが、ユリウスの言葉が正しければ、その地下か、あるいは神殿そのものに、この世界の常識を超えた「何か」がある。そう、あのゲーレンをも従わせるような。


「ねえ、モルトケ。貴方、神話には詳しい?」


私はふと、気になっていたことを尋ねた。


「よく講話で聞くじゃない。『唯一なる神は邪悪なる悪魔を滅し、このファンテェーンの地に降臨された』……ってやつ。あれの続きというか、もっと古い伝承を知らない?例えば、『星が落ちてきた』とか」


私が問うと、モルトケは顎髭を撫で、記憶を辿るように天井を仰いだ。


「……ほう。よくご存知で。確かに、一般に流布しているのは美しい降臨神話ですが、古い文献や禁書に近い資料には、少々毛色の違う記述もございます」


彼は声を潜め、まるで忌むべき歴史を語るように続けた。


「『昔々、天より降り注ぎし大いなる星、大地を穿ちて地獄の門を開かんとす。……だが、その星のむくろより溢れ出し光は、やがて万物に宿りて奇跡の力となりぬ』」


「奇跡の力……魔法のこと?」


「恐らく。つまり、こうとも解釈できるのです。落ちてきた『星』こそが、我々の崇める『魔法の神』そのものである、と。星の落下によって世界に魔力が満ち、人が魔法を使えるようになった……とすれば、我々は星の残骸の上で、その恩恵を啜って生きていることになりますな」


「星が、魔法の神」


もし、「神様」というのが、その「星」そのものだとしたら?


「教皇……ゲーレンは、その『星』と接触し、力を得た」


彼が星と接触したのは、偶然だったのかしら。それとも必然?

その彼の行動は、きっと私にも繋がっているはずだ。


「そして、私を使って何かをしようとしている」


私の呟きに、モルトケが静かに進言する。


「陛下。敵の正体が何であれ、我々の優位は変わりません。この要塞を拠点とし、補給線を確保した上で、春を待って進軍すれば、聖都攻略は確実です」


「ガハハ! どんな化け物が出てこようと、陛下の鋼鉄の拳と、俺の筋肉で粉砕してやるだけですな!」


スコルツェニーが胸を叩いて同意する。

彼らの頼もしさに、私は少しだけ笑みを浮かべた。


謎がどれほど深くても、私のやることは変わらない。

圧倒的な火力で、理不尽を叩き潰す。

それが、私がこの世界で生き残るための流儀だ。


窓の外では、本格的な冬の到来を告げる猛吹雪が吹き荒れている。

この雪が溶ける頃、世界は変わるだろう。

私が滅ぼすか、あるいは……。


「……春が楽しみね」


ロキヌス帝国軍は、要塞グラードにて冬営に入る。

来るべき春、聖都ルミナスを地獄の業火で包むために。

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