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二計画  作者: 喰ったねこ
第六章:神聖国編
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第89話 神を崇める同業者?

要塞グラードの窪地を埋め尽くした「死の霧」は、その重量ゆえに低い場所からおりのように溜まり、徐々に位置を上げていく。

逃げ場を失ったゲメリア兵たちが目指したのは、ただ一箇所。

要塞の中央に墓標のように聳え立つ、高さ百メートルを超える司令塔だった。

グラードでも唯一ここだけは、強力な魔法障壁と頑強な建築により砲撃からも守られていた。


「開けろ! 入れてくれ!」

「下からガスが来ているんだ! 助けてくれぇ!」


塔の入り口や螺旋階段には、我先にと逃げようとする兵士たちが群がり、将棋倒しになっていた。

だが、その扉は内側から固く閉ざされている。


「うろたえるな……見苦しい」


塔の最上階、展望テラス。

ゲメリアの司祭ユリウスは、眼下に群がる味方の兵士たちを、汚物でも見るような目で見下ろしていた。

彼の周囲には、選ばれた少数の親衛隊と高位魔導師たちが控え、風の結界でガスの侵入を防いでいる。


「し、司祭様! 兵たちが階段を登ってきます! このままでは、重みに耐えきれずテラスまで……」


「定員オーバーです。……落としなさい」


ユリウスは、優雅にワイングラスを傾けながら、害虫を駆除するかのように命じた。

親衛隊が魔法を放つ。それは敵ではなく、助けを求めて登ってくる味方の兵士たちへと降り注いだ。


「なっ、味方だぞ!?」

「ぎゃあああああ!」


爆炎が階段を粉砕する。足場を失った兵士たちは悲鳴を上げながら、眼下の毒の海へと真っ逆さまに落ちていく。


「ああ、なんと嘆かわしい。信仰が足りないから、そのような無様な死に方をするのです」


ユリウスは嘲笑う。

自分が生き残れば、それでいい。兵士など、いくらでも代わりのきく消耗品だと思っているのだろう。


上空からその様子を解析していた私は、HUDを見ながら小さく嘆息した。


(……非効率な個体)


兵士とは、指揮官を守るための「盾」であり、敵を殺すための「矛」だ。

それを自らの手で減らすなど、自らの生存確率を下げる自殺行為に等しい。


恐怖に支配され、リソース管理すらできなくなった指揮官。

あんなものが「敵将」だというのなら、解析する価値すらない。


掃除クリーニングして排除するのみ」


私はスラスターの出力を絞り、急降下を開始した。


ズドォォォォン!!


着地の衝撃で、テラスの大理石が砕け散る。

余波で親衛隊たちが吹き飛ばされ、ユリウスの風の結界が悲鳴を上げて消滅した。

土煙の中から、私は強化外骨格ヴァルキリーの巨体を起こす。

鋼鉄の装甲。無機質なその異様な威容に、ユリウスが顔を引きつらせた。


「き、貴様……! ロキヌスの皇帝か!?」


「味方を突き落として飲むワインは美味しい? 司祭様」


私は、右腕の多銃身機関砲ガトリングガンを持ち上げた。

モーターが唸りを上げ、銃身が回転を始める。


「貴様……悪魔か! これだけの殺戮を行っておいて、まるで平然としているとは!」


ユリウスが叫ぶ。

どの口が言うのか。だが、彼の言葉もあながち間違いとも言えない。

いや、極めて正鵠を得ているといっていいだろう。


それを平然と出来てしまうのが私。生き残るためなら、毒ガスだろうが騙し討ちだろうが、使える手札は全て切る。心の中にいる村娘リオはダメだと言うけれど、私は、そこに全くの躊躇い(ブレ)はない。


やはり、私の心の深層には、罠ともいえる村娘のやさしさすらも覆す、決してぬぐい切れない人間への不信があるのかもしれなかった。

それを悪魔というなら、どうぞ勝手に呼べばいい、既に混沌とか色々呼ばれていて、とくに何も困らない。


それに、私の戦いは合理的だ。

この冬将軍の中、無駄な市街戦を避け、この密閉された空間で、地下に隠れている敵に最大限の打撃を与えるにはガスが最も効率が良いからだ。いちいち、地下で徹底的に白兵戦をやって、兵を消耗する必要はない。


だが、この無能な敵はどうだ。


「ええ、私は悪魔でも何でも構わないわ。……でも」


照準が、ユリウスの眉間に合う。


「自分の生存確率を上げるための盾を自分で壊すような、馬鹿な悪魔と一緒にしないで」


「おのれ、異教徒め! 撃て! 落とせ!」


ユリウスの号令で、生き残った親衛隊が一斉に魔法を放つ。

炎、氷、雷。数多の攻撃魔法がヴァルキリーに直撃する。

だが。


シュンッ!


魔法は装甲に触れることなく、透過して霧散した。

私の体質である「魔法無視アンチ・マジック」。

魔法の干渉を、私の体は受け付けない。つまり、私に対して魔法は「ただの光のショー」でしかない。


「き、効かない!? なぜだ! すり抜けたぞ!?」


「終わりよ」


トリガーを引く。


ジャララララララッ!!


毎分3000発の暴力。

7.62mm徹甲弾の嵐が、親衛隊たちを薙ぎ払う。

魔法障壁など、紙切れ同然だ。肉が弾け、鎧が砕け、彼らは断末魔を上げる暇もなく肉塊となって吹き飛んだ。魔法に対しては効果的な障壁も、剣や弓程度ならいざ知らず、一点に圧力がかかる徹甲弾を防げる道理はないのだ。


「くっ! 異教徒が」


瞬きする間に、テラスに立っているのは私とユリウスだけになった。

圧倒的な火力と防御力。理解不能な現象を前に、ユリウスの顔が歪む。


「……化け物め」


だが、その目にはまだ、諦めの色はない。

彼は法衣を脱ぎ捨て、その痩せた体を晒した。肌には、びっしりと血管のように脈打つ不気味な紋様が刻まれている。


「いいでしょう。貴女のその鉄屑がどこまで通用するか……神より賜りし、この『聖なる力』で試してあげましょう!」


ゴゴゴゴゴ……!


ユリウスの体が異常な音を立てて膨張する。 皮膚が裂け、中から黒曜石のような光沢を持つ金属質の鱗が現れる。背中からは皮膜の翼が生え、両手は鋭利な爪へと変わっていく。 人間を辞めた、異形の姿。


「私こそがゲーレン教皇猊下直属、『四使徒アポストル』が一角……策謀のユリウス。旧式の人類あなたたちとはスペックが違う……『完全なる生命体』なのですよ!」


瘴気を撒き散らしながら、怪物が嗤う。


その瞬間。 私の思考回路の奥底で、冷たい火花が散った。


「……ゲーレン?ですって」


どこに行ったかと帝国の諜報機関を駆使して探していたのに、こんな所でその名を聞くとは。


以前、私が唯一敗北を喫しそうになった、あの男。 私と同じ「生存技術」の使い手にして、私には使えない「魔法」をも完全に極めている底知れない強敵。恐らくは、私と同じ源泉をもち、私の過去をも知る男。


(まさか……。この世界の『教皇』の正体が、あの男だと言うの?)


戦慄と共に、妙な納得感が胸に落ちる。 なぜ、敵が私の戦術を知っているような動きをするのか。 なぜ、私がここへ来るように、まるでレールが敷かれているように感じるのか。 全ては、あの男の盤上だったということなのか。


「……ハッ。傑作ね」


私は、思わず乾いた笑いを漏らした。 恐怖ではない。この世界でもっとも私に近い同類が「神の使徒」とやらのトップをやっているなんて、配役がミスマッチすぎて笑わずにはいられないからだ。あの男が神など信仰するはずはない。そう、なぜだか私には強固な確信があった。


「な、何がおかしい!」


「笑わずにはいられないわよ。私の『同業者』が神を崇めているなんてね、敬虔だわ。本当かしら?」


私は、冷ややかな視線を怪物に向けた。 こいつは、自分たちが神に選ばれたと思っている。 だが違う。こいつは、あの男が自身の技術(科学)と魔法を融合させて作り上げた、ただの「作品」に違いない。 私がヴァルキリーを作ったように、あの男は人間を素材にして、この使徒を作った。


科学と魔法の合いの子という点では、ヴァルキリーと同じ設計思想だわ。

もっとも、あちらは生体ベース、こちらは機械式という違いはあるけど。


「……そう。貴方が人間でなくて、良かったわ」


私は、冷静に残弾カウンターを確認した。

相手が人間なら、降伏勧告くらいはしたかもしれない。

だが、相手は正体不明の生体兵器だ。

ならば、害虫駆除と同じ。徹底的にすり潰すのみ。


「怪物になってくれた方が、心置きなくミンチにできるもの」


私はスラスターを全開にした。

鋼鉄の塊が、砲弾となって怪物へ突っ込む。

尖塔の上、逃げ場のない空中で、殺し合いのゴングが鳴った。

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