表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二計画  作者: 喰ったねこ
第六章:神聖国編
102/110

第83話 鉄の胃袋と補給線

ロキヌス帝国軍の最前線。

そこは、ゲメリア神聖国の領内深く、聖都ルミナスを遠くに望む荒野だった。

瓦礫と化した敵陣地の真ん中で、鋼鉄の巨人――パワードスーツ『ヴァルキリー』が、プシューという排気音と共に膝をついた。


「……遅い」


私は、内部で、苛立ちと共にHUDの残弾計を睨んでいた。

ガトリングガンの弾薬、残り5%。

ミサイル、残り一斉射分。

そして何より深刻なのが――私の胃袋、空腹率120%。


先頭に立って敵を蹴散らしてきた代償として、私の機体(と肉体)はガス欠寸前だった。

近代兵器は強力だが、その分、消費も激しい。

特に、このパワードスーツは魔石を電力に変換して駆動するが、搭乗者の動きをアシストするものだから、戦うと、とにかく腹が減る。


「陛下! 後続の補給部隊より伝令!」


随伴する親衛隊の兵士が、馬を飛ばして駆け寄ってきた。


「『敵の遊撃部隊に包囲された。現在、防戦中なるも、被害甚大。救援を求む』とのこと!」


「……なんですって?私のメシが」


私の目が、獲物を狙う猛禽類のように細められた。

補給線ライフラインへの攻撃。

それは、兵法上の定石ではあるが、今の私にとっては最も許しがたい「営業妨害」だ。


「前線の維持は、スコルツェニー将軍とモルトケ参謀総長、そしてアノンに一任するわ。私は……『お代わり』を取りに行ってくる!」


私はスラスターを全開にし、来た道を猛スピードで逆走し始めた。

轟音と共に空へ舞い上がる鉄の塊を、アノンは静かに見送っていた。



一方、その頃。

後方の街道では、帝国軍の「自動車化輸送部隊モータープール」が、絶体絶命の危機に瀕していた。


焼き払われた荒野を、黒い煙を吐きながら進む長大な車列。

蒸気トラックには、帝都で量産された「缶詰」と「弾薬」、そしてろ過された「水」が満載されている。

だが今、その車列は、空からの天使と、地からの魔族の波状攻撃に晒され、足止めを食らっていた。


「逃げるな! トラックを盾にしろ! 荷物を守るんだ!」


先頭のトラックから身を乗り出し、声を張り上げているのは、新任の輸送隊長、ギャレット少尉だ。

丸眼鏡をかけた神経質そうな風貌だが、その目は血走っている。

彼は元々、帝都の倉庫番をしていた地味な事務官だったが、その几帳面さと数字への執着をシオンに見出され、この最重要任務に抜擢されたのだ。


「この荷物は、リオ陛下と前線の兵士たちの命綱なんだ! 一つたりとも渡すな! 缶詰一缶の損失は、万死に値すると思え!」


ギャレットが叫び、手にしたマスケット銃を撃ち放つ。

ドォン! と重い発砲音が響き、硝煙が舞う。

帝国兵たちも、配備されたばかりのマスケット銃を構え、トラックをバリケードにして必死の防戦を行っていた。


「魔法班、障壁展開! 銃撃隊、斉射!」


ドォン! ドォン!


兵士たちは、魔法で防ぎ、銃で撃つ。

互いの欠点を補い合うハイブリッド戦術で、なんとか持ち堪えてはいる。

だが、敵の数は多い。ゲメリア軍も、ここが帝国の急所だと理解しているのだ。


「愚かな……! 神の加護なき鉄屑どもが!」


上空から、天使が光の矢を放つ。

トラックの一台が炎上し、積まれていた弾薬箱に引火した。


ドカンッ!


爆発と共に、貴重な物資が吹き飛ぶ。


「あああ勿体ない! 特選ビーフシチューの缶詰300個と、9mmパラベラム弾5000発がぁぁぁ!」


ギャレットが血の涙を流す勢いで頭を抱え、絶叫する。

彼にとって、物資の損失は、自分の身を切り刻まれるよりも辛い苦痛だった。

帳簿上の数字が減る。それは、彼の正義に反するのだ。


「終わりだ! 焼き尽くせ!」


天使たちが一斉に杖を構え、極大魔法の詠唱を始める。

トラックごと部隊を消し飛ばす気だ。

万事休すかと思われた、その時。


ズドォォォォォン!!


彼方の空から、一筋の「流星」が飛来し、天使の編隊の中央に突っ込んだ。

衝撃波で数体の天使が吹き飛び、詠唱が霧散する。


土煙の中から立ち上がったのは、鈍い鋼鉄の輝きを放つ巨人。

強化外骨格『ヴァルキリー』を纏った、激怒する皇帝だった。



「……よくも、私の『ご飯』を粗末にしてくれたわね」


外部スピーカーから響く声は、地獄の底のように低い。


「へ、陛下!?」


ギャレットが腰を抜かしそうになる。


「少尉、頭を下げていなさい。……掃除の時間よ!」


私はスラスターを噴かし、一気に上空へ跳躍した。

右腕のガトリングガンが唸りを上げる。


ジャララララッ!!


毎分3000発の暴風雨。

魔法障壁ごと、天使の体がチーズのように穴だらけになり、千切れ飛ぶ。

魔力を込めた弾丸ではない。純粋な運動エネルギーの暴力。

だが、その動力源は、彼らが信仰する「神の力(魔石)」そのものだ。


「皮肉でしょう? 貴方たちの神様の力で、貴方たちを挽肉にしているのよ」


私は空中で姿勢制御を行い、地上へと急降下する。

着地の衝撃波で、トラックに群がっていた下級魔族を吹き飛ばす。

左腕のマニピュレーターで、襲いかかってきた魔族の頭を鷲掴みにし、そのまま握りつぶす。


パワードスーツの出力は、魔石の魔力を電力に変換することで、理論上の限界を超えたパワーを発揮していた。

魔法が使えない私でも、魔法を「燃料」として使えば、魔族以上の怪力を得られる。


「ひ、ひぃぃ! 引け! この悪魔は手に負えん!」


生存本能が恐怖に打ち勝ったのか、魔族たちが逃げ出す。

だが、逃がさない。

背中のコンテナから、残しておいた無数の小型ミサイル(ハト誘導弾・改)が一斉に射出される。


「逃げても無駄よ。彼らは、とてもお腹が空いているの」


鳩たちの食欲が、逃げる敵を正確に追尾し、爆炎の花を咲かせる。


静寂が戻った戦場で、私はガトリングの砲身を空転させた。

周囲では、守り抜いた兵士たちが勝どきを上げている。


「……ふう。間に合った」


私は、HUDの残弾数を見た。

ここまでの戦闘で、ほぼ使い果たしたようだ。

だが、目の前には宝の山がある。


鋼鉄の巨人が、へたり込んでいる眼鏡の将校の前に立つ。


「貴方が責任者ね。報告を」


「は、はい! 輸送隊長ギャレット少尉であります! 積荷の損耗率15%、ですが、主要な食料と弾薬は死守いたしました!」


ギャレットは震えながらも、完璧な敬礼を返した。

15%の損失で済んだのは、彼らの奮闘のおかげだ。


「上出来よ、少尉。……補給を頼むわ。ガトリングの弾薬。それと……」


私は、無事だったトラックの荷台を指差した。


「特選ビーフシチューの缶詰を、今すぐ開けて。お腹が空いて、目が回りそうなの」


「……は、はい! 直ちに! 最高級品をご用意いたします!」


ギャレットが、安堵の涙を浮かべて叫んだ。


鉄の胃袋で焦土を食らい尽くし、魔法の心臓で鋼鉄の手足を動かす。

補給を終えた私は、ギャレットたち輸送部隊を護衛しながら、再び最前線へと進軍を開始した。


「遅れを取り戻すわよ。全軍、前進!」


数時間後。

私の帰還と、満載された物資の到着に、最前線で膠着状態にあった帝国軍本隊は、沸き立つような歓声に包まれた。


「陛下がお戻りになられたぞ!」

「弾薬だ! 食料だ! これでまだ戦える!」


飢えと弾薬不足に苦しんでいた兵士たちの目に、再び戦意の炎が宿る。

そんな中、巨躯を揺らしてスコルツェニー将軍が駆け寄ってきた。


「おお! 陛下! お待ちしておりましたぞ! 前線の維持、このスコルツェニー、完璧に成し遂げました!」


その横には、腕を組んだアノンも控えている。

彼が睨みを利かせていたおかげで、私が不在の間も戦線が崩壊することはなかったのだろう。


「ご苦労。……モルトケ参謀総長は?」


「はっ。後方の丘で、物資の配分指揮を執っておられます。陛下の帰還と大量の補給物資に、安堵のあまり腰を抜かしておられましたがな! ガハハ!」


私はヴァルキリーの拡声器を使い、全軍に告げた。


「お待たせ。腹ごしらえは済んだかしら? ならば、仕事の続きよ」


士気を取り戻した帝国軍の陣頭に立ち、私はその視線を前方へと向けた。

地平線の彼方、聖都への道を塞ぐように、絶望的なまでに巨大な黒い影が聳え立っていた。


「陛下、伝令より報告!」


前方に放っていた斥候が、息を切らして駆け戻ってくる。


「前方に、要塞を確認! 敵影多数! ……間違いありません。あれが、最後の難所です!」


聖門要塞グラード。


神聖国の兵站の要であり、十万の狂信者と数千の天使が立て籠もるとされる、難攻不落の城塞都市。

聖都ルミナスに辿り着くためには、必ず落とさねばならない「絶対防御壁」。


「……上等じゃない」


私は、回収した新たな魔石を装填し、ヴァルキリーの出力を上げた。


「ここから先は、本当の泥沼よ。……覚悟はいいわね?」


鋼鉄の巨人は、死の匂いが漂う要塞都市へと、その足を踏み出した。

読んで頂きありがとうございます。

ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ