表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二計画  作者: 喰ったねこ
第六章:神聖国編
100/110

第81話 科学の夜明け

ロキヌス帝国軍による、ゲメリア神聖国への逆侵攻作戦。 その幕開けは、剣戟の音でも、魔法の爆発音でもなく、一人の老参謀の困惑から始まった。


国境付近に展開した帝国軍本陣。 作戦テーブルを前に、白髪の老人が渋い顔で地図を睨んでいた。 帝国軍参謀総長、モルトケ。 長年、対ゲメリア戦線の指揮を執り、魔法戦術の教本のごとき「常識的な軍略」を極めた男だ。


「……陛下。申し上げにくいのですが、この作戦計画は正気とは思えません」


モルトケは、私が提出した作戦書を指差して言った。 その背後には、黒衣の剣士――アノンが、彫像のように控えている。彼は公式な役職こそ「近衛隊長」だが、その実は私の「影」そのものだ。シオンが帝都で内政を担う今、前線において私が最も信頼する「武力」は彼だった。


「サン・テレサは、三層の魔法障壁に守られた難攻不落の要塞です。攻略には、まず周辺の魔力供給ラインを断ち、大魔導師団による障壁への波状攻撃を最低でも一ヶ月は継続し、敵の魔力が枯渇したところで……」


「長いわ、モルトケ」


私は、強化外骨格(ヴァルキリー)の調整を行いながら、彼の言葉を遮った。


「一ヶ月? 冗談じゃないわ。半日で落とす」


「は、半日!? 無茶苦茶です! 魔法障壁を物理的に突破するなど、いかな大軍を用いても……」


「障壁? あんなもの、ただのザルよ。『中』に入ってしまえば、何の意味もないわ」


私は不敵に笑い、夜空を指差した。 アノンが、呆れたように、しかし口元に微かな笑みを浮かべて呟く。


「また、えげつない『おもちゃ』を用意したようだな、破星」


「失礼ね。平和のための、効率的な道具よ」


私は、アノンと顔を見合わせ、宣言した。


「さあ、始めましょうか。……科学による、悪魔の行進を」



その夜。サン・テレサの上空に、奇妙な「雲」が流れ着いた。 和紙とコンニャク糊で作られた、巨大な風船爆弾。 魔力を持たないそれは、探知結界に引っかかることもなく、風に乗って都市の真上へと到達する。


そして、バスケットが切り離され、中から数千匹の「コウモリ」がばら撒かれた。


「敵襲!? ……いや、なんだこのコウモリは?」


見張り台の衛兵が首を傾げるのが、高倍率の暗視スコープ越しに見えた。コウモリたちは人を襲うこともなく、本能に従って、民家の屋根裏や兵舎の軒下へと潜り込んでいく。


「陛下、あのような小動物を放って、何の意味が……?」 後方の丘から戦況を見守るモルトケが、双眼鏡を覗きながら問う。


「見ていなさい。……ボッ、というわよ」


その直後。


ボッ、ボボッ……!!


都市の至る所から、同時多発的に火の手が上がった。 コウモリの腹に括り付けられた時限発火装置が作動し、ナパーム剤が燃え上がったのだ。 外壁や結界の外からではない。都市の「内側」、それも消火困難な建物の内部から、一斉に業火が噴き出した。


「な、なんだと!? 都市の内部から発火しただと!?」 モルトケが驚愕に目を見開く。 「障壁は!? 敵の侵入を許した形跡など……!」


「障壁は『外からの魔法攻撃』を防ぐもの。ただの動物が、ただの風に乗って入ってくるのを防ぐ機能はないわ」


都市はパニックに陥った。水魔法で消そうにも、油火災は簡単には消えない。 その混乱に乗じて、夜明けと共に、地上の進撃が開始された。


ドドドドド……!


地響きと共に現れたのは、無人の「ロケット台車スレッド」の大群。 火薬を満載し、ロケット花火で加速した木の車が、燃え盛る城門へと特攻をかける。


ドゴォォォォン!!


城門が粉々に吹き飛び、巨大な風穴が開く。 瓦礫の山と化した正門付近。そこに、迎撃のために聖堂騎士団が密集し、魔法障壁を展開して陣形を組んだ。


「まだだ! 城門が破られても、騎士団の防衛陣形は鉄壁! 狭い入口なら、数の利で押し返せます!」 モルトケが叫ぶ。それが、この世界の用兵の常識だ。


「そうね。だから……『アレ』を送るわ」


シュババババババッ!!


耳障りなロケットの噴射音と共に、硝煙の向こうから「それ」は現れた。 巨大な二つの車輪。車軸にはドラム缶ほどの爆薬。 車輪の縁には無数のロケット推進剤が取り付けられ、火花を撒き散らしながら高速回転している。


自走式回転爆雷――『パンジャンドラム』。


「な、なんですかな、あれは!? 車輪が……転がっておりますぞ!?」 モルトケの常識が、音を立てて崩れていく。


パンジャンドラムは、不規則に蛇行し、予測不能な軌道を描きながら、騎士団へ迫る。 魔法障壁などお構いなし。暴れ馬のように暴走する鋼鉄と火薬の塊は、騎士団の密集陣形に斜めから突っ込み、盛大に自爆した。


ズドォォォォォン!!


「陣形が……一撃で……」 呆然とするモルトケの横で、一人の巨漢が、狂喜の雄叫びを上げた。


「素晴らしい! 実に、素晴らしい光景ですな!!」


身の丈2メートルを超える巨躯に、歴戦の傷跡が刻まれた黒い甲冑。 ロキヌス帝国軍、スコルツェニー将軍。 彼は、燃え盛る敵都市を見下ろし、恍惚とした表情で髭を震わせていた。


「魔法に頼り切った軟弱な騎士どもが、陛下の『科学』の前に為す術もなく散っていく……! これぞ蹂躙! これぞ覇道! 力こそが正義であると、これほど雄弁に語る戦場がありましょうか!」


彼は前皇帝カイゼルに忠誠を誓っていたが、そのカイゼルを単身、しかも魔法を使わずにねじ伏せた私の「個としての圧倒的な強さ」に、誰よりも早く心酔した男だ。 彼にとって、皇帝とは最強の存在でなければならない。その意味で、私は彼の理想そのものだった。


「……うるさいわよ、スコルツェニー。耳元で叫ばないで」


強化外骨格(ヴァルキリー)を纏った私は、外部スピーカー越しにため息交じりに告げた。


「はっ! 申し訳ございません! しかし、我が血が沸き立つのを止められませぬ!」


「……まあ、いいわ。仕上げよ」


私はHUDの照準を合わせ、号令を発した。


「総員、突撃。……神の国を、更地にしなさい」


私の号令と共に、ガスマスクをつけた帝国歩兵師団が、雪崩のように進撃を開始した。 スコルツェニー将軍もまた、巨大な戦斧を振り上げ、先陣を切って駆け出した。 彼はこの世界の将軍の例に漏れず魔力を持つ魔法使いだが、その魔力の全てを自らの肉体を強化することのみに費やす「身体強化魔法」の達人だ。 魔法文明において遠距離から魔法を撃ち合うのが常識とされる中、魔力で鋼鉄のごとく硬化させた肉体で敵陣に突っ込み、戦斧でなぎ払う彼のスタイルは異端そのもの。だが、それ故に私の圧倒的な「個の武力」に誰よりも共鳴していた。


「全軍、陛下に続けぇぇぇ! 軟弱な魔法使いどもに、帝国の鋼の味を教えてやれぇ!!」


空にはハト誘導弾が舞い、音波攻撃で動きの鈍った天使を次々と撃ち落としていく。 私は、スラスターを噴射し、一足飛びに戦場の最前線へと降り立った。


ジャララララッ!!


右腕のガトリングガンが火を噴き、魔法障壁ごと騎士たちを薙ぎ払う。 その横では、スコルツェニー将軍が魔力で赤熱した戦斧を振るい、敵を鎧ごと両断していく。


そして、私の死角を埋めるように、アノンが疾走する。 銃弾の嵐をかい潜り、接近してきた数体の天使に対し、彼は音速の抜刀を見舞った。


「外流雷の型・瞬殺」


魔法障壁ごと敵を断ち切る不可視の斬撃。彼が通り過ぎた後には、静寂と、真っ二つになった天使の骸だけが残された。 彼は血糊を払うと、静かに私の横に並び立つ。


「破星、前方クリアだ」


「ええ。進みましょう」


「あ、ありえん……。攻城戦が、野戦のような速度で……いや、これはもはや虐殺だ」 後方の丘で、モルトケ参謀総長は震える手で眼鏡を直した。 彼の知る戦争は、今日、終わったのだ。


科学による蹂躙。 倫理なき侵略。 ロキヌス帝国軍は、たった半日で、難攻不落とされた国境都市を壊滅させた。 だが、これはまだ、神の国への入り口に過ぎない。

読んで頂きありがとうございます。

ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ