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最弱の騎士

ーーー城門が落ちた。


遠くで城の門が破られるのが見える。黒い波のように敵兵がなだれ込み、市街地が血の海と化し、煙が上がる。俺はその光景に目を離せなかった。


「地獄だ。」


気づけば僕はそう呟き、自分の拳を握りしめる。


そもそも騎士になんてなりたくなかった。王女様を護衛するため、王都から馬で20日はかかる場所に来たくもなかった…


ただ、ただ僕は父様に認められたかったんだ。あの冷たい目で見下されるたび、こんな僕じゃダメだと自分を責めてきた。


何度も何度も休まず剣を振った。けれど結局、父様が向ける眼差しは変わらなかった。


なんたって僕は剣の才がない、「最弱な騎士」グレイスハイネスなのだから。


周囲の騎士が慌ただしく動き回る。


「王女テレジア様を守れ!!」


「敵に囲まれている!!」


「地下水路を経由して…」


あぁ…僕も動かまきゃ…


ーーーそういえば「最弱な騎士」…そう呼ばれるようになったのはいつ頃だろうか。



* * *



僕は名家ハイネスの生まれだ。父様は王族直属にして最強の騎士団、エーデンの守護者の団長として名を馳せた男で、その剣技と威厳は王国中に知れ渡っていた。


だからこそ、周りは当然のように俺にも同じ資質があると期待した。父様の息子であれば、騎士団にふさわしいだろうと。


「お前はハイネス家の名を背負うんだ。」


父様はそう言い、無理やり僕を騎士団に押し込んだ。僕が断れば父様のメンツを潰すことになる。それだけは絶対に避けなくてはならない。いや、それ以上に


「お前はやればできる。お前は俺の息子だからな。」


そう父様に言って欲しかったんだ。だから、今の僕じゃダメだった…ダメだダメだ…変わらなくちゃ…。


僕は必死だった。入団してからも訓練場で剣を振るたび、汗と一緒に父様の冷たい失望の眼差しが脳裏にちらつく。


当然孤立した。


けれど、認められたい。その一心で夜遅くまで剣を持つ。手が震えても、やめられない。父様はこんな俺じゃ認めてくれない。


まだまだ全然なってない。あぁクソ…クソクソ…


ーーー半年が経とうとしていた。その日も夜遅くまで一人訓練場で剣を振る。けれど僕の剣は未だに重くて動きは鈍い。振り下ろした刃は空を切り、思った通りにはいかない。


技も単調で到底、実践向きじゃない。筋力も魔力もセンスも僕にはなかった。父様みたいにはなれない…そればかりかこれじゃまるでただの訓練…


「訓練兵みたいだな…お前の親父さんと同じでとんだ凄いのが来ると思ってたんでけどな、蓋をあけてみりゃこんな雑魚か。」


「貧弱な体で、お前ほんとにあの方の息子か?ハイネス家も地に落ちたもんだ。」


「最弱の騎士が」


後ろを振り向くと数名の騎士がいた。僕は何にも言い返せなかった。


そう言いたくなる気持ちもわかる。彼らは僕と違って実力で入ってきており、普段の太刀筋を見れば僕との違いなんて一目瞭然だ。


それでも僕は、彼らが去った後も剣を握った。


…きっと父様も彼らのようであれば認めてくれたのかな。そうだとしても、父様に認められたい。その一念が僕を縛って突き動かす。


ーーーあぁ思えばこの頃からだろうな、周りから「最弱の騎士」そう言われるようになったのは。



* * *



そして今、僕はエーデンの守護者ーーー30人とともに、城の地下水路に進んでいる。ここは普段はあまり人が立ち寄らないが、有事の際には城を脱出するために用いられる。


王女テレジアを王都へ退避させる必要があるため我々はここに来た。遠くで城塞の門が崩れる音が響き、敵の喊声が石壁に反響する。


僕の手は剣を握り、震えが止まらない。エーデンの守護者は最強と詠われる精鋭ぞろいだが、僕は最弱でいつ死んでもおかしくない。でもこの任務をやり遂げればきっと父様に認められる。


地下水路は湿った空気に満ちていた。騎士団は隊列を組み、数人の騎士が手をかざして淡い光を生み出し、水路を照らす。


僕は分隊長ライオスの命で王女様の隣に配列された。分隊長も王女の隣につき、近くにきた敵を退ける。隣にいるので良くわかるが、美しい王女様の顔は青ざめており小さな体は小刻みに震えていた。


「ねぇ、あなた、グレイスハイネスね?ハイネス家の。」


王女様は小声でそう囁く。金髪の髪が光に映え、白いドレスが水で濡れている。そして僕は頷いた。


分隊長ライオスが横目でこちらを見ている。


「どうしてそれを知っているのかって顔しているわね。騎士団の顔は全員覚えることにしているの。それに私はあなたのお父様をよく知っているし、あなたの凛々しく美しい顔とそっくりよ。特にその深緑の鋭い瞳。」


僕は嬉しかった。初めて話すこんな僕に「お父様に似ている」そう言ってくれて。


そして王女様は僕の剣を一瞥した。


「なによりその剣…


王女様が話すのをやめた。前方から水音と金属のすれる音が近づいてくる音が聞こえてくる。


「敵だ構えろ!」


分隊長が叫ぶ。隊列に緊張が走りすぐに騎士達が光を剣に宿す。


敵国の兵が現れた


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