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第1話:極楽グループへの欧米の反撃

極楽グループの売上は300兆円に迫ってきた。もはやGDP中位の国々に匹敵してきた。

先進国では、秘密裏に極楽グループと日本に対する対策を進めていた。

サンは、量子コンピュータのAIであるアウルと共に、来るべき危機への対策を進めていた。

それは極めて困難な道であったが、その先には人類の真の解放があった。

ビッグバン 第二部「世界と極楽」



『カーン、カーン、カーン』

木槌の音が、室内に鳴り響いた。

「We hold a meeting of the allied powers from now on.(これから、連合国の会議を行う)

 We argue about the Gokuraku group.(我々は、極楽グループについて議論する。)」




1-1.極秘会議


平和35年初頭。

その会合は、秘かに開催されていた。

アメトリウム国、ノヴァブリタン国、セリーヌ国、アイゼンライヒ国、シベリア帝国、シンチュー国、そしてネオジョセオン国の代表者が丸いテーブルを囲んでいた。

アメトリウム国代表の横には木槌ガベルが置いてあった。

アメトリウム国の代表が木槌ガベルで激しく叩いた。

『バン、バン、バン』

アメトリウム国の代表が切り出した。

「今日は、ざっくばらんにいこう。昨年うちのある機関が、アラブのテロリストをけし掛けて、極楽グループに対し実力行使をさせたが、失敗してしまった。

今では、極楽グループとアラブは蜜月関係になってしまった。まったく困ったことだ。

それとは別に連合国側の下部組織同士が、各国の組織と協調して奴らに史上最大のサイバー攻撃を仕掛けたらしいが、それも失敗したとの報告を受けている。

電力は、奴らに完全にやられた。スマートグリッドも吹き飛んだ。風力も太陽光発電もとん挫した。原子力も新しい建設は無い。シェールガスも危ない。石油業界も衰退した。まったく困ったことだ。

我が国は、国家安全保障上、極楽電力からの電力供給を抑圧する政策をとってきた。

にも関わらず、自動車がかなりの部分、奴らの電気自動車になってしまった。

かなりの自動車も工場も、奴らから電力供給してもらわないと動かなくなった。

飛行機までも、電気で動くものが出てきた。

国家安全保障の為、戦車や軍用車はまだまだ、ディーゼルやガソリンだが、議員の中には、電気に切り替えようとの暴言を吐くやつがいる。

穀物市場も同じだ。奴らは、我が国より安く小麦やコメを作れるようになってしまった。

奴らは、穀物の輸入から輸出するように変わってしまった。

奴らのせいで、ドルも1ドル100円を切るところまできた。我が国の覇権が危うい。これは、国家安全保障の問題だ」

続いてノヴァブリタン国の代表が発言した。

「我が国も同じだ。我が国の金融機関は、奴らにより混乱させられ膨大な損害を生じている。奴らから膨大な数の特許が毎年申請されている。奴らのコンピュータは、真の汎用型量子コンピュータだと我が国の特務機関から報告が来ている。

コンピュータの圧倒的な能力差で競争ができない。これは、不公平で不平等で不合理である」

シンチュー国も発言した。

「我が国は、この状態を黙認できない。既に電力をはじめ、国の基幹産業を奴らの手に握られ始めている。最近の我が国の経済成長の低下の原因は、奴らのせいだ。懲罰が必要だ」

再び、アメトリウム国代表が発言した。手には報告書があった。

「我々の調査によると、奴らの宇宙からの無線給電システムの普及率は、我がアメトリウム国で、家庭と工場で15%、自動車の電化率は20%以下だ。これは我々の必死の防御策が功を奏した結果だ。しかしこのままだと急速に普及していくだろう。そうなれば我が国の電力会社やその他のエネルギー企業は壊滅だ。

家庭と工場の無線給電システムの普及率は、ノヴァブリタン国が15%、アイゼンライヒ国が20%、セリーヌ国が20%、シベリア帝国が10%、シンチュー国が15%、ネオジョセオン国が20%だ。何かコメントがあるか」

シンチュー国が発言した。

「我が国も必死で防御している。しかし年内には25%近くに普及するだろう。奴らは、国の北部地域、西部地域、南部地域で重点的に普及を図っている。

その地域の普及率は、既に40%を超えている。

我々はそこに、なんらかの政治的な意図を感じている。

このまま行くと、我々は国内のエネルギー政策をコントロールできなくなる」

またもや、アメトリウム国代表が発言した。

「奴らの背後に、日本政府がいることは明確だ。奴らからの膨大な税収により、日本の財政状況は好転した。累積赤字も減少しつつある、日本政府は、奴らを放任し支持しサポートしている。

もし、極楽グループが電力供給を停止するようなことがあれば、世界は破滅だ。極楽グループが発展を続けても世界は破滅だ。

アメトリウム国いや世界の安全保障が、日本や奴らに握られているといっても過言ではない。

諜報機関からの報告では、日本の九州アイランドの山中に、ある時期巨大な重力異常が見られた。現在は検出できない。

極楽グループは否定しているが、かれらはブラックホールを所有しているに違いない。

奴らと日本は、世界の覇権を握ろうと画策しているのではないか。

だから日本政府は、奴らの行動を黙認しているのではないか。日本政府が、大澤首相に代わってからの行動をみると、もはや我が国の同盟国とは言い難い。奴らと日本は世界の秩序にとって極めて危険な存在になっている。」

アメトリウム国代表の発言が止まった。

「畜生!! 極楽の野郎!! もう力で打倒するしかない」

アメトリウム国代表が怒った。そして再び発言が止まった。

しばらくして、話出した。

「調整の為の行動が必要だ。

豚は十分に太らせてから、食うんだ!!

極楽グループの解体を、裏で何度も、日本政府に求めたが、ちゃんとした返事は無い。

今度は極楽グループの解体と、連合国による極楽市の直接管理を強力に要求しよう。そして奴らのブラックホールを手に入れるのだ。

我が国は、既に実力行使の決意を固めている。日本政府が動かない場合は、直接武力行動に出る用意がある。場合によっては日本を占領し、日本ごと解体するつもりだ」

シベリア帝国が発言を始めた。

「我が国も、武力行使の決意を持っている。北海道と九州を占拠したい」

九州=極楽国だ。シベリア帝国は、発電所を狙っていた。

「九州はだめだ、連合国管理だ」

アメトリウム国代表が、きっぱりと言った。

「しかたがない、北海道だけで良い」

シベリア帝国はしぶしぶ引き下がった。

「我が国は、日本征伐を行う。対馬と隠岐、佐渡、五島列島を頂きたい。その為には何でもする」

ネオジョセオン国代表が発言した。

「沖縄は、我が国固有の領土だ。それをもらう」

シンチュー国代表が発言した。

「沖縄本島はダメだ。我が国が取る。それ以外をやる」

アメトリウム国代表が、強く言った。

「仕方がない。それで結構だが、尖閣諸島と石垣島、奄美大島、屋久島、種子島をもらう」

しぶしぶ、シンチュー国が答えた。

「この計画に基本的には、賛成だが、まず日本政府による奴らの解体を突き付けよう」

セリーヌ国代表が発言した。

「我々も賛成だ」

アイゼンライヒ国代表も賛成した。

アメトリウム国代表が、話をまとめた。

「それでは、まず日本政府に奴らの解体を強力に要求しよう。もしそれがダメなら、日本を解体しよう。それを後押しする為に、例の計画を確実に進めよう」

「異議なし」

他の代表全員が答えた。彼らの本音は決まっていた。

「これにて終了」

『カーン、カーン、カーン』

木槌の音が、室内に鳴り響いた。

その計画は、粛々と実行された。



1-2.駐日米国大使が強い非難


平和35年10月10日、駐日アメトリウム国大使が再び強い非難声明を出した。まったく異例の事態だった。

その内容は政治家や高級官僚の度肝を抜くものだった。

「米国政府は、日本政府に対し以下の事を要求する。極楽グループを解体し、極楽グループの発電システムを国際管理の仕組みに移行させよ。米国政府は、世界のエネルギーが1つの企業グループにより独占されている状況をこれ以上看過しない。これが速やかに実施されない場合は、アメトリウム国政府は重大な決意をしなくてはならない」

マスコミの極楽グループへの強力な攻撃キャンペーンがさらに拡大した。

もはや極楽グループは、犯罪者集団の取り扱いだった。



1-3.「天国と極楽」閉店。母との対話


平和35年11月30日

『天国と極楽』が、ついに静かに閉店した。

贔屓の客には、丁寧な閉店の手紙が届いた。

閉店を知らない客は、店のドアに貼られた「閉店のお知らせ」を見て絶句した。


サンは夢を見ていた。

薄い桃色の着物を着た母が立っていた。母の背後からは幾筋の金色の光の筋が見えた。

サンが母と何やら喋っているのを、サンは夢の中で見ていた。

「お母さん、お母さん。敵が私たちを破滅させようとしています。

私たちが戦わないと、圧制にある人類とその苦しみを無くすのは不可能です。

私たちは断固戦います」

「敵は強力ですよ。将棋の戦いの様に神の一手が無ければ勝つことはできませんよ」

「お母さん」

サンの伸ばした右手を、母親が両手で握ってきた。

母親の手は暖かく、夢の中のサンの手を通じてその暖かさが、夢を見ているサンの身体に浸みこんできた。

「サン、貴方は正しい道を歩んでいます。何者にも負けず頑張って行きなさい。私はいつもいつも見守っていますよ」

母の姿がしだいに透明になり、その姿が消えていった。

「お母さん!! お母さん!!」

夢の中のサンとそれを見ているサンは必死で母を呼んだ。


その声で、サンは目覚めた。窓からは朝日の明るい光が入っていた。

「夢か?」

しかし、母の手の温かみは、まだサンの手に残っていた。

サンの心は確信に満ち平穏だった。



1-4.人事発表


<極楽学園会の会議>

平和35年11月3日、極楽学園の地下の大講堂で、慣例の極楽学園会が開催された。

今回いつもと違っていたのは、バーチャルでなく、実際に幹部達と出席者がいたことである。どうしても参加できない極楽学園会のメンバーには、映像が配信された。

壇上には、サン、幸、ゲン、啓と、複数の卒園生が座っていた。

会場には極楽学園の卒園生や在園生が座っていた。

サンは、上下ともに白い服を着ていた。男達は全員、上はスカイブルー、下は白いズボンをはいていた。

女性は、白いシャツに、オレンジ色のスカートを着、赤いスカーフを首に巻いていた。

極楽学園会の時の制服だった。

壇上の下の極楽学園会員は、ほとんどが20代だった。一部には10代もいた。

会場は静かで、声一つ聞こえなかった。

司会の声が、響いた。

「ゲン理事長からお話があります」

厳しい顔のゲンが演台に向った。

「極楽学園会の同志諸君。本年極楽学園から第11期の卒園生を迎え、極楽学園会は、1490名の体制となった。

諸君が、極楽グループの中核であり、先兵である。

本年、我がグループは、300兆円の売り上げを計上する予定であります。

お父様の卓越したご指導の下、全ての戦いに勝利してきました。

しかし! 皆さんは勝利の美酒に酔っているのではないか。

一部では気の緩み、無責任さがみられる。

これは、大いに問題です。

お父様にお答えしようとする決意が足りなーい! 極楽世界建設への使命感が足りなーい!

来年は、いよいよ勝負の年です。

来年は、君らが想像する以上の出来事が起きます。

その時に、驚き慌てて、自分を失ってはなりません。

何が起きようとも! 絶対の決意で、お父様に一命を奉げてまいろうではありませんか」

「はい」

会場の全員が答えた。


司会の声が、響いた。

「神武 啓 副会長から人事発表があります」

拍手が響き渡り、直ぐに静寂が来た。

啓が立ち上がり、人事の発表文書を読み始めた。

「人事発表を行います。

特務(政治)局、総括指令、源 大」

「はい」

ゲンが起立した。

「特務局、第一部担当、大木 俊」

「はい」

シュンが起立した。

「闘争局、総括指令、わたくし、神武 啓

闘争局、第一部担当、源 大 :北米、南米担当

闘争局、第二部担当、大木 俊:ヨーロッパ担当

闘争局、第三部担当、大杉 誠 :東アジア担当

闘争局、第四部担当、松浦 一 :ロシアと中央アジア担当

闘争局、第五部担当、島田 一郎:南アジア担当

闘争局、第六部担当、垣添 裕太:その他の地域および宇宙担当

闘争局、第七部担当、宮本 昇平:極楽市担当

闘争局、第八部担当、松成 圭太:行政担当

闘争局、第九部担当、高見沢 一郎:整備担当

闘争局、第十部担当、大木 亨:生産担当


行政局、総括指令、わたくし、神武 啓」

任命されたものが、次々に返事をし、起立した。

特務局と闘争局、行政局は、新しい部門だった。それについての説明はなかった。

詳細は不明だったが、メンバーの豪華さに、会員達は通常の人事と異なることを感じた。

会場にいた高見沢一郎の妻のひとみは、驚愕し耳を疑った。なぜ、夫の名前が輝かしいリーダー達と一緒に読み上げられたのだろう。しかも上司である極楽農園の松成部長の名前や部下の大木主任の名もある。

松成部長は、高見沢一郎の直属の上司だった。

「以上の者は、現担当企業の相談役に就任する」

いままで以上の驚きが会場の者で衝撃を与えた。

あの輝かしいリーダー達がまるで引退するかのようだった。

そして、『極楽グループは今後一体どうなるのだろうと』という不安が広がった。

「続いて、企業関係の人事を発表します。

極楽商事会長、宮北 大輝

極楽電池会長、宮平 明日香

極楽技研会長、佐藤 洋介

極楽ロボット会長、飯島 誠

極楽船舶会長、佐藤 洋介

極楽商事副社長兼極楽商事東京本社副社長兼世界戦略本部長、神武 静雄

神武 静雄については、4月1日より実施する」

この時、あまりの若返り人事に驚きの声が上がった。最年長の者でも、28歳だった。神武 静雄は、まだ小学校も卒業していない11歳11か月だ。

それに、長女の神武 美智の名前が出てこなかった。

しかも、出席すらしていなかった。



「詳細は、辞令書を閲覧してください。」


啓が、発表を締めくくった。

「皆さん、いよいよ新しい時代がやってきます。今までの戦いは、過去の夢です。

心機一転、決意も新たに戦って参りましょう」




司会の声が、響いた。

「お父様からお話があります」

万雷の拍手が響き渡った。

サンが演台に向った。

「極楽学園会の同志諸君。毎日の奮闘、御苦労さん。私は、皆さんの戦いを頼もしく見ております。

諸君は、極楽グループの中核であり、頭脳であり、先兵です。

ゲン理事長をはじめ先輩の諸君は、経済の第一戦から身を引き、新しい戦いに専任します。

ゲン理事長をはじめ先輩の諸君、誠にご苦労様でした」

万雷の拍手が会場に響き渡った。

「私たちの目的は何か、もう一度確認したい。私たちの目的は、この世に極楽世界を建設することです。

その為に、我々は身を投げ出して戦ってきました。しかし、今までの戦いは、極楽世界を建設する準備の第一段階でしかありません。本当の戦いは、来年から始まります。

来年は、激動の年となります。どんな事が起きても、驚いたり、疑問に思ってはなりません。私を信じてついてきなさい。

皆さん、本当の戦いは来年です。わかりましたか」

「はい」

会場の全員が答えた。

「世界には、この尊い極楽グループに危害を加えようとする、邪悪な勢力が存在します。

いよいよ極楽勢力と邪悪な勢力との最終決戦が始まります。

私たちは、断固としてこれらの勢力と戦って撃退しなければなりません。その準備は、整っています。

極楽の戦士は、自分の身が滅びようと、極楽世界建設にこの身を奉げなければなりません。

皆さん、共々に戦ってまいりましょう」

会場に万雷の拍手が鳴り渡った。



1-5.異変


平和36年1月

為替市場で、円安が始まりだした。

ドル円相場は、毎日50銭ほどずつ円安になり、月末には、1ドル109円台になった。

ユーロ円相場も、月末には、1ユーロ110円台になった。

それに同期するように、4万円台であった株価が、ついに3万円の大台を割った。

金の値段も上がりはじめ、1オンス3000ドルになった。

風向きが変わり始めたようであった。

今までの追い風が、無風となり、そして向かい風に変わり始めた。

異変は、商取引でも始まりだした。

極楽グループからの外国製品の購入の勢いが増加し始めた。

特に電子部品の注文が急激に増えていた。

モンゴルのエリアG1とサウジアラビアのエリアG2で、新しい自動農業工場と自動ロボット工場が急激に建設されていた。

同時に、自動水産工場も急激に建設されていた。




【解説】国名について

アメトリウム国 :GDP1位の国

ノヴァブリタン国:大きな時計塔の国

セリーヌ国   :ワインの国

アイゼンライヒ国:ビールの国

シベリア帝国  :寒い国

ネオジョセオン国:高麗人参の国

シンチュー国  :GDP2位の国

カナディアン国 :メープルシロップの国

オーストリッチ国:カンガールの国




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