タイトル未定2025/03/05 15:56
2-1.第9号作戦
平和35年12月1日、極楽グループに第9号作戦が発令。
その日、それほど広くない円卓に一人、啓だけが座っていた。
日本時間の9時00分が来た。
啓の向こう側に、日本、南北アメトリウム、ヨーロッパ、アジア、アフリカの最高責任者が3D画像で現れた。皆20代半ばで驚くほど若かった、極楽学園の出身であった。
「皆、元気そうだな。第9号作戦が発令されたのは、皆承知しているものと思う。」
「ハイ」
皆、一同に返事した。
「この作戦は、いずれ来る戦いの準備であり、その後の世界を救う活動である。
この作戦において、君らは拘束されたりする可能性がある。家族は全員直ちに極楽市に戻せ。
この作戦の参加に異議なき者は、挙手しろ」
「ハイ!」
全員が挙手した。
「全員の作戦への参加を確認した。それでは、もう一名参加者を加える。静雄を呼び出せ」神武 静雄の3D画像が現れた。静雄が軽く会釈した。静雄は、まだ12歳になったばかりだった。
「バード。第9号作戦 第2章と第3章のアクセス権限を全員に付与しろ」
全員の前に、3Dの作戦文書が表示された。自動的に第2章が捲られ表示された。
「詳細は、ここに書いてある。海外の全ての金融資産を、スイスおよび香港、日本等へ口座移動しろ。
総額2,000億ドルの、戦略物資調達、穀物等食料調達、資源調達の実施。
一部の欧米資産の早急な売却、借りれる限りの貨物船をチャーターし前払で契約しろ、それに穀物や鉱物資源、先端半導体を詰めるだけ詰め込め出航しろ」
ここまで話した時、さすがの極楽商事の幹部たちも驚きの声を上げた。約20兆円の物資購入だった。
「これらのほとんどを、これからの6ヶ月で行う。残りを入れてもさらに1ヶ月しか余裕はない。本日より、資源調達を直ちに実施しろ。お父様にお答えし、世界を救う戦いは、諸君らの奮闘にかかっている。死を覚悟し戦ってもらいたい」
「ハイ」
皆、一同に返事した。全員、極楽学園の学園生の時の目をしていた。
啓は、皆の顔をじっくり見て行った。
「私には、新しい任務があります。今後商事の仕事から離れる。極楽市に極楽グループの再構築指令本部を設置し、再構築作業の調整と指令を行う。責任者を任命する。
静雄、お前にこの作戦の全権を与える。」
「ハイ」
静雄が起立した。緊張した表情の中にも、目が輝いていた。
静雄は、まだわずか12歳。あまりにも若い。若すぎる。誰もがそう思った。不安がよぎった。
しかも、静雄は公の場に出てきたのは、今回が初めてだった。
その才能は、未知数だった。たとえあったとしてもどれほどのものなんだ。
経験なんか無いに決まっている。
「バード。第1章のアクセス権限を静雄に付与しろ」
啓が命令した。バードは量子コンピュータの直結のAIだ。
バードにアクセス出来る者は、サンと啓とゲンしかいない。
静雄の目の前の作戦文書が捲られ第1章が表示された。
「諸君は、静雄共々、死してお父様の期待にお応えしろ。直ちに作戦を実施。以上で終了」
啓の前の3D映像が消え会議は終了した。
啓は、独り言のように喋った。
「兄さん、作戦の発令は終わりました。皆が無事であればいいのですが」
「啓」
声だけが聞こえた。
「皆の奮闘を期待する。かなりの確率で皆とは無事に会えると思う」
「兄さん、やはり事態はこのまま進んでいくのですよね」
サンと啓とゲンが何度も何度も検討した事を、啓は尋ねた。
「そうだな、この事態は止まらないし、止められないだろうな。これからお前には、今度の戦いと未来の始まりの大仕事をやってもらわないとな」
「私は、大丈夫です。やることは多いですが、必ずやり遂げます。それより、予想される犠牲者を考えると胸が痛みます。」
「それは、私も同じだ」
サンの声は、しだいに消えていった。
その日のうちに、海外の極楽商事をはじめとする極楽グループの学園出身者に第9号作戦が発令された。もちろん文書には自分の権限もあるところしか閲覧できなかった。
各会社の担当者は、資産の売却と物資の購入や船舶の購入・借入に奔走した。
極楽スーパーUSAの社長に就任していた杉山 航は、28歳になっていた。
もう極楽スーパーに入社して10年になる。極楽スーパー本社の取締役にも就任していた。
極楽スーパーの経営、運営、流通システム、顧客の行動、全てに渡って知り尽くしていた。
杉山は、極楽スーパーUSAの各店舗に、あらゆる種類の商品の購入の大量購入を指示し、地下の自動倉庫への備蓄を命じた。
さらに、大量の水も蓄積した。さらに、手術の器具や薬剤も備蓄し、直ぐに病院が開ける程の状態にした。
杉山は、カリフォルニアの極楽スーパーの店長を呼び出した。
そこは、5年程前まで勤務していた店だった。
「太田君、商品の購入状況は、どうだ」
「杉山社長、全力で商品購入を開始しました。もう1年分の手配が完了しました」
「自動倉庫には、まだ入るだろう。あと2年分くらいは追加しろ」
「後2年分くらいのスペースの余裕はあります。野菜や肉、魚の冷凍も大量に手配しましたよ」
「よし、その調子だ。備蓄した後の方が大変だ。これから引き締めてやってくれ」
「わかりました。がんばります」
2-2.極楽ロボット
平和35年12月3日、極楽学園の道場に極楽ロボットの芦尾道山、三池淡交、極楽ソフトの岡田光、合気道指南の塩山剛二、土々呂、橘蘭。そしてサン、ゲン、啓、シュン、マコト、ハジメ、杉山航も参加していた。皆イスに座っている。
道場の中央には1体の人型ロボットが立っていた。高さは約190cm、身体全体はスリムだった。
柔道着を着ていた。
顔は、青年の顔をしている。髪の毛があり、色はブラウンだった。
両方の耳の後ろには後方を見る為の小さな目がついていた。
芦尾道山が立ち上がり話を始めた。
「エー本日は、皆さま誠に忙しい中、創立者を始め、各部門の方々のご参加を頂き、新型ロボットの発表を行わさせていただきます。私は、極楽ロボットの芦尾道山です」
ここで盛大な拍手があった。
「この新型ロボットは、大きく三つの機能をもっております。それは警備用の機能と、営業用と作業用の機能です。今回は警備用の機能をご説明いたします。大きな特徴は、合気道や逮捕術の機能を個別のAI機能として装備またはダウンロードすることにより、適時に状況に応じた最適の技能を発揮できるようになっております。
AIの開発は、極楽ソフトの岡田光さんを中心に行われ、合気道の塩山剛二先生、忍術の土々呂先生、総合格闘技の橘蘭さんのご指導・実技指導を受け、機能が強化されました。
それでは、橘蘭さんと警備用ロボットの実技をご覧ください」
橘蘭が木の棒を持って、警備用ロボットに近づいて行った。
警備用ロボットは橘蘭を注視した。お互いに礼をした。
蘭は棒をロボットの正面に向けて進んだ。警備用ロボットはサッと体を開き、左手で蘭の手首を持ち畳に投げようとした、蘭は投げられながら回転して立ち上がった。そのまま蘭が素早くロボットの足を払うと、ロボットは畳に倒れてしまった。ロボットは素早く立ち上がろうとしたが、欄が背後から羽交い絞めした。
「ストップ。終了」
芦尾道山が慌てて終了させた。
「す、すいません。まだまだ問題が残っておりますな。相手が熟練者だとなかなか対抗するのは難しいようですな。さらに極楽ソフトと極楽ロボットで打ち合わせし性能を上げていきます」
芦尾道山が真っ赤な顔で言った。
サンが立ち上がった。
「芦尾さん、ご苦労様でした。橘蘭さんが相手だと今は歯が立たないかもしれませんが、さらに塩山剛二先生、土々呂先生、蘭さんのご指導を受け、改善に努力してください。
赤ん坊でも歩けるまで何カ月もかかります。
極楽ソフトには岡田君みたいな素晴らしいソフトウェア技術者が多数おります。
また極楽ロボットには三池淡交さんや芦尾道山さん等の優れたロボット研究者がいますので、やがて立派な統合型AIの警備用ロボットになると思います」
こうしてほろ苦い警備用ロボットのお披露目となったが、芦尾道山や岡田の奮闘でロボットは見る間に成長していった。
2-3.異変
平和36年1月
為替市場で、円安が始まりだした。
ドル円相場は、毎日50銭ほどずつ円安になり、月末には、1ドル109円台になった。
ユーロ円相場も、月末には、1ユーロ110円台になった。
それに同期するように、4万円台であった株価が、ついに3万円の大台を割った。
金の値段も上がりはじめた。
風向きが変わり始めたようであった。
今までの追い風が、無風となり、そして向かい風に変わり始めた。
異変は、商取引でも始まりだした。
極楽グループからの外国製品の購入の勢いがなくなり始めた。
発注のキャンセルも増えだした。
一部では逆に電子部品の注文が急激に増えていた。
モンゴルのエリアG1とサウジアラビアのエリアG2で、新しい自動農業工場と自動ロボット工場が急激に建設されていた。
同時に、自動農業工場より少ないが自動水産工場も急激に建設されていた。