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朝起きて学院に行くために着替えているとドアがノックされユラが入ってくる。


「ほんとにもう行かれるのですか?もう一日くらい休んだ方がいいのでは?」


「もう十分すぎるくらい休んだから大丈夫よ、それにこれ以上休んでいては実家に呼び戻されてしまうわ。今日だってもうお昼すぎなんだから」


休んでいる間どこから聞き付けたのか分からないがお父様から一度手紙がきており、内容は体調管理を気をつけろというお叱りのものだった。

それにしても、その手紙を私が読み終わったあとユラが破いてゴミ箱に捨ててしまった時はびっくりしてしたわね。

まぁ、どうせ捨てるのは同じなのでまあいいかと気にしないことにした。一応、返事は書いて届けてもらったので問題は無いはずだ。


「不調を感じたら途中で帰ってくるから」


「是非そうしてください、病み上がりなんですから遅くならないようにして下さいね」


「遅くなったのはこの前だけじゃない、心配しなくてもちゃんと帰ってくるわよ。」


どうもこの前遅くなった日に体調を崩してしまったせいで悪い印象を与えてしまったようだ。

だいたい私としてもあの学院に無理に留まるよりこの部屋で過ごしていた方が心地いいのでわざわざ居残りをしようとは思っていない


「それじゃあ行ってくるわね」


「はい、お気をつけて。」


五日ぶりに外に出ると記憶にあるより気温が高く感じる。傘をさして日差しを避けながら空を見上げれば清涼感のある色が拡がっている。


「あっという間に夏になりそうね」


幼少の頃、家庭教師により品がないからという理由で肌を晒すような半袖の服は禁じられ、それ以来長袖を着用しているのだが、今でこそ暑さにも慣れたものだが当時は夏が嫌いだった。

父の仕事の都合で歳の近い子供と合えば夏に長袖を着てることをからかわれたりしたのも今となっては懐かしい思い出ね。

そんな昔のことを思い出していると涼しい風に少し背中を押された気がして、再び歩みを進めた。




登校すると学院の生徒は皆昼休憩中のようで食堂にたくさんの生徒の姿が見えた。

昼食は既に部屋で食べてきているので私はそのまま自分の教室に向かう。


いつもの席が空いているといいけど……


そんなことを考えながら教室に入ると、教室内にいた生徒からの視線が集まる。

ほとんどが食堂に行っているのか数は多くないのだが一斉に見られるとさすがに意識してしまう。

いつもの席は誰も座っておらず荷物も特になさそうなので座ると、教室内の全員が遠くから私の方を見る中一人勢いよく走ってくる姿が見えた。


「オリヴィアさん!熱で倒れたって聞きましたけどもう大丈夫なんですか??」


予想外な人物の予想外な声量にくらりとする。

その人物はアメリアなのだが、はて?

私はアメリアにこんな心配の声をかけられたり休み明け早々に話す様な仲だっただろうか?


「私、あの提案がオリヴィアさんにとって負担だったんじゃないかって……」


予想外の事態に思考を飛ばしている間もアメリアは喋り続けており、教室内の人も驚いている。

これ以上下手に注目される前にアメリアを止めなくてわ…!


「ごきげんよう、ミス・アメリア。心配をかけたのは申し訳ないですが人と接するならまずは挨拶からはいるのが礼儀なのではありませんか?」


「あ、すいません。えっと……ごきげんようオリヴィア様」


「それと、淑女たるものが先程のように走るのは少々はしたないですよ」


「はい……」


私の言葉に見るからにしゅんと意気消沈し頭を下げるアメリアの姿にため息が零れる。


「はぁ、ここではなんですしサロンに行きましょう。今後の話もしておきたいですし」


「は、はい!」


この学院にはいくつかのサロンという応接室がある。部屋の質によって使える人物が限られたり予約制などあるが、誰でも空いてれば使える所も複数ある。

もしかしたらどこも空いてないかもしれないがその時はまた後日話せばいい。

誰だってわざわざあんな注目の的となっている空間で話したくは無い。


運良く空いている部屋はすぐ見つかり扉の外側に使用中の札をかけて中に入る。

中は簡素なもの、とはいえこの国の貴族が主に通う学院のためそれでも十分整えられた部屋で楕円形のテーブルを挟んで二人がけのソファが二つ置いてある。

部屋の隅には給湯器や茶葉、カップ等お茶会を楽しむためのものも置いてある。

アリシアは始めて来たようでサロン内をキョロキョロと見回している。


「とりあえずお座り下さい、飲み物は紅茶でよろしいですか?」


「え!?いや、じ、自分で入れます!」


「別にお茶を入れるくらいいいです。それに、貴方に紅茶を上手く扱える技術があるのですか?」


「いえ……じゃあお願いします」


自分でも冷たい言い方になったとは思うが実際アメリアに美味しい紅茶を入れる能力があるようには見えないし、それなら下手に淹れてもらって茶葉と時間を無駄にするより自分でやってしまった方がいい。

部屋では基本的にはユラが入れてくれるが、昔に飲み物ひとつで使用人を呼ぶのに気が引けたのでせっかくなら覚えようと練習したことがある。

慣れれば難しいものでもないのでササッと作りカップに注ぐ。


「どうぞ、たいした腕前ではございませんが」


「あ、ありがとうございます」


お互い向かい合うようにソファに座りお茶を飲んでいると先にアメリアの口が開く。


「あの、体調は大丈夫なんですか?」


紅茶の入ったカップを両手で持ちながら上目遣いで聞いてくる様は小動物のようで可愛らしく、このような仕草が男性の求める女性らしさなんだろうなと思いながらカップを置く。


「ご心配には及びません、それより私の方からも聞きたいことがあるのですが」


「な、なんですか?」


私から何か聞かれるとは思っていなかったのかアメリアは少し身構える。


「私が学院を休み初めて以降ルーカス様や他の生徒会員の方々と今後の方針は決められましたか?」


「今後の方針、ですか?」


そう、今後の方針。私とルーカス様が軸となりアメリアを卒業までに王族を名乗って遜色ないレベルまで育て上げなければいけない。それには役割分担や何に重きを置くかも重要なことだろう。

本当はルーカス様もこの場に読んで話した方が効率がいいのだろうが今は会うのがとても気まずい。


「えぇ、正直あなたには教養もマナーも何もかもが足りていないので分担は必要不可欠。それに全てを完璧にというのは無理がありますので取捨選択もしませんといけませんし。」


「取捨選択……」


「まさか、すべて上手くやるつもりでいましたか?」


アメリアが私の言葉をボソリと反芻する、流石に今から二年で平民として生きていた少女を誰もが認める淑女にするなんて不可能だ。どうせ私は来年にはいなくなるだろうから関係ないと言えばそうなのだが、請け負った仕事を中途半端に終わらせるのは自分の性に合っていない。

なのでやれるだけはやろうと思っている。それにその方がきっとルーカス様のためにもなる。


「その、生徒会の皆さんはいきなりは大変だろうから少しずつやっていこうって話になりまして……」


想像していた通りのやり取りに呆れて言葉が出ない。

卒業まで二年、その間、付きっきりで教えるわけでもないのに少しずつなんて考えが甘いのではないか?

しかし、それが生徒会、ひいては王家の方針だと言うなら私が口出しできることでは無いのだけど…だけどそれなら……


「そうですか……それでは、私とは合わないかもしれませんわね」


「…………え?」


「はっきり言わせて貰えば最初から全力でやる気のない者に時間を使うほど私は暇ではありませんの」


オリヴィアのあまりにも冷たく鋭い視線にアメリアは耐えきれずつい俯いてしまった。

しかしその姿にオリヴィアの目つきがさらに鋭くなる。


「顔をあげなさいミス・アメリア。あなたの話している相手は床にはいないでしょう」


その言葉にアメリアは顔を上げる。


「今はいいかもしれません、できないことが多くても周りの方が支えてくれるでしょう。しかしそれに甘えていてはいつか向かうべき道、目指したい所が出来た時、一人で歩いていくことが出来なくなりますよ」


「…………」


「とはいえこれは私個人の意見。大人でも周りと支え合っていく、という意見もございますのでどちらが正解というものでもないのですから……

自分に合った生き方を選べばいいと思いますので」


支え合う相手もいないどころか、将来も無い私には選べない道だがアメリアはきっとこのままでも色んな人が手助けしてくれるだろう。

しかしだからといってそれでいいと思っているような人物に私からできる助言は持ち合わせてないので、その場合はリーヴェル様やルーカス様からの頼みとあっても断らせてもらおうと思ってる。

印象は悪くなるだろうけどそれでも死に時も死に方も選べないのだから生き様位は私の意思で決めたい。


終始黙っているアメリアを見るとまた下を向いているが先程とは違い拳を膝の上で強く握り何かを考え込んでいるようだ。

私の言葉が不快に感じただろうか?

だとしても私もこれ以上は譲れない。貴方にはもう私にとって一番大切なものを譲っているのだから……


このまま面と向かい合っていても話は進まなさそうなので、立ち上がり空になったカップを持つ。


(わたくし)今日は病み上がりなので早く帰らないと行けませんの」


「え、あ……はい。」


オリヴィアからのあまりにも突然な私の言葉にアメリアは困惑の声を漏らす。


「完治はしているのですが従者に余計な心配もかけたくないので少しの間は授業が終わり次第帰ろうと思ってますの」


「はい……?」


「なので一週間後までに貴方の答えを聞かせて頂こうと思います」


途中までは話の流れがわかっていなさそうだったが、言いたいことが伝わったようでアメリアの瞳が私をしっかりと写す。


「答え……」


「このまま私から教わるのか別の方をあてがって貰うか、方針の違いですので遠慮なく好きな方をお選びください。もし私に直接言いずらいようでしたら生徒会のどなたかに伝えてもらっても大丈夫なので」


もしアメリアへの教育係を降りることになったら生徒会も辞退させてもらわないとね。

アメリアが優しい世界で楽しい学校生活を送りたいと言って私がそれを許して、なお彼女の隣にいても他の生徒会のメンバーとは馴染めないでしょうし、どちらにせよ私の居場所なんてハナからないのだし。

まぁ、向こうからそれなら必要ないと降ろされるかもしれないけど。


座ったままのアメリアを前に私は立ち上がり壁側まで歩いてカップを使用済みの物を入れる箱の中に置く。


「飲み終わったらカップはこの箱の中に入れて置いてください、それでは」


そのままアメリアをおいて部屋を出ると、食堂から教室に戻る生徒達なのか人通りが多い。

当然こちらをみているような人物はいないのでその人の流れに乗って自分の教室に帰ると先程の出来事のなどもう忘れたのか興味をなくし私の方を見る生徒はいなかった。

しばらくするとアメリアも教室に入ってくる。

チラチラとこちらを見ているのが何となくわかるが目が合ってまたなにか話しかけられても困るので手元に広げた教本に目線を移す。

それが工を成したのか授業が始まるまでの間話しかけてくることは無かった。


午後の部の授業が全て終わるといつものようにクラスの人たちはそれぞれの仲のいい人同士で集まって話したりしている。

どうやらアメリアもここ数日で友人を作れたようでアメリアの周りに男女それぞれ何人かが立って話している。

彼女の立場などは置いておいても性格を考えれば友人が直ぐにできるのも納得だ。まぁ、全員が全員打算がないという訳では無いだろうけど。

そんな事を考えながら荷物をまとめて教室を出ようとした時後ろから突如名前を呼ばれる。


「オリヴィア様!良ければ一緒に帰りませんか?」


「はい?」


当然、私に話しかけてきたのはアメリアだった。何が当然なのかといえばこの教室で私に話しかけるのは彼女くらいしかいからだ。

彼女の周りにいた友人と思しき人たちもクラスの人たちも驚いたようにこちらに注目している。


はぁ、なんで昼間からこうも注目されるような話のかけ方をしてくるのかしら……


荒手の嫌がらせかとも思ったが彼女がそんなことするはずもないので言葉の通りなのだろうけど、一緒に帰るってどういうこと?


「どうしてですか?」


「え……その、帰る場所は同じですし一人で帰られるなら一緒に帰った方がいいんじゃ、って……その病み上がりでもありますし……」


どうしてか聞かれるとは思っていなかったようでしどろもどろになりながら話し出す。

この構図を傍から見ればまるで私がいじめてるようだなと思いつつその提案は断らせていただく。


「ご友人方が困られてますよ、病み上がりと言っても不調がある訳でもありませんし心配はご無用です。」


それでは、と頭を下げて教室を出ると複数人の足音が扉に近づいてくる。

大方クラスメイトがアメリアに話しかけに行ったんだろう。

その後はいつも通り一人で早々に帰宅した私にユラは安心した表情をして紅茶を入れてくれた。

他の人から見たら無表情に見えるだろうユラの表情もいつの間にかだいぶ見極められるようになったものだ。


紅茶を飲みながら放課後の出来事を考える。それにしても、どうしてアメリアは私を一緒に帰ろうと誘ったのだろうか?

昼にした会話は決して関係の良好なものとは言えないものだった。実際彼女はサロンにいた時間のほとんど黙っていたのだから……


アメリアは一体何を考えているのか、彼女の考えてることがさっぱり分からない……

そこでハタと気づく。

違うわ、彼女に限らず自分以外の誰かの考えてることがわかったことなんてなかったわね……

手元を見ればいつの間にか空になったカップがある。

おかわり頼もうかしら……

もう一杯だけ紅茶が飲みたくてユラに頼もうとした時、ユラが紅茶の入ったポットを持ってオリヴィアの前に歩いてくる。


「オリヴィア様、おかわりお入れしますね」


そして、私の思考を読んだかのように、ユラが横から私の手にあるカップとソーサーを取り紅茶を入れる。

そういえばユラは昔から私の考えてることがわかっているのではないかと思うことが多々ある。


「ユラはどうしてたまに私の考えてることがわかるの?」


「考えてることですか?」


「今だって何も言ってないのに紅茶を入れてくれたり、嫌なことがあった日はお菓子をくれたりするでしょう?」


ユラは私に何かあると何かと気を使いすぎるので最近は気を使わせないように振舞っているのだが、嫌なことがある日は決まってお菓子を出してくれる。

ほかの女子が好むような甘いお菓子ではなくほんのりと甘いスコーンを焼いてくれたりする。

その優しい甘さに救われた日は少なくない。


「あぁ、なるほど。そうですね……昔は今より表情でわかったんですけどね、残念ながら今はそこまでわかってないんですよ」


ユラは考えながら話し始める。


「ただ、私は毎日お嬢様のことを考えてます。きっとお嬢様が気づいていないような所までケアしてます。お嬢様は私が気づいて優しくしてくれると言いましたがそれは間違いですね。」


「それじゃあ今までのはたまたまだって言うの?そんな訳ないわ、それに間違いってどういうこと?」


そんなわけは無い、それにしては偶然が重なりすぎている。


「それも違いますよ、気づいたのはお嬢様なんですよ」


私?意味がわからない。ユラが気づいて私を支えてくれている、そういう話のはずだ。


「話が見えないわ、一体どういう意味なの?」


「簡単な話ですよ、お嬢様がきつく苦しい時に私からの些細な支えに気づいたということですよ。いつもであれば気にならないような気遣い、それが苦しい時には大きな助けに見える。たったそれだけの話です。」


その話を聞いてようやく彼女の言いたかったことがわかった。

ユラだって人の考えてる事は分からない、ただ分からないなりにできることはある。

彼女にとってのそれは毎日尽くすことだった。

気づかなかった愛情、なんとなく自分の味方などこの世界にはいないじゃないかと無意識に考えるようになっていたオリヴィアの心に温もりが灯る。


「そっか……そうなのね。

…………ふふ、いつもありがとうね」


「何か悩みが晴れたようなら良かったです。それに私の仕事ぶりのアピールも出来ましたしね」


「ユラの仕事ぶりはそんな事しなくても元々素晴らしいと思ってたわよ」


「まだまだ足りませんね、素晴らしいんではなく完璧なんです」


先程まで何に悩んでいたかなんて記憶の彼方に飛ばしオリヴィアはその日、楽しいお茶の時間をユラと共に過ごしたのだった。

今回も読んで頂きありがとうございます。

どんな評価、感想でも励みになりますので良ければお願いします。気に入って頂けたらブックマークもよろしくお願いします(*_ _)♡


次回も是非よろしくお願いします( ´ ▽ ` )

次も水曜くらいに出来たらいいなぁと思ってます

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