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「お嬢様、今日の夕飯でご希望のものはありますか?」


まだ太陽が顔を出しきっていない薄暗い時間、珍しくこんな早くからユラが部屋に来てそんなことを聞いてきた。

メニューの希望を聞かれることはたまにあったけどこんな朝早くにわざわざ来て聞かれるのは初めてだ。


「うーん、そんな急に聞かれても」


「夕飯のメニューを聞くための前フリってどんな会話ですか?」


「いや、こんな朝早くに夕飯で食べたいものなんて出てこないって話よ。」


会話の順序以前の話だ、ただでさえ朝は食欲がわかないので朝食には暖かいお茶とスコーンを一、二枚食べるだけなのに夜食べたいものなんて出てくる訳がない。


「それに、どうしてわざわざこんな朝早くに?」


「最近は特に食欲が無い様子だったのでなにか希望があるなら聞いておこうかと。」


声も表情も淡々と傍から見れば事務的に聞いているように見えるかもしれないが長年一緒にいた私には心配してくれているのがありありと伝わるので申し訳なくもなるが嬉しくも思ってしまう。


「そうね、美味しいスープが飲みたいかしら」


とはいえ、食べたいご飯は思いつかないので無難にそう言っておく。

出てこないものはどうしようもない。


「わかりました、美味しいものを作ってお待ちしてますね」


しかし、ユラはそれでも優しく微笑んでくれたので及第点は貰えたんだろう。

もしかしたら昨日、ユラが部屋に来る前に書き置きだけして学校に行ったからその心配もあったのかもしれない。

そういえば、朝食べずに行くことはたまにあったけどユラに何も言わずに出たのは初めてだったわね。



空はまだ太陽が登ったばかりで反対側の空はまだ少し薄暗い、ただ朝焼けが道端の草花に乗った露に反射してキラキラとしている。

昨日の帰り道で見た景色が綺麗だったので、周りを見ながらのんびり歩くのがちょっとしたマイブームになってしまった。


教室に着くと珍しく明かりが既についている。

珍しいとは思うものの自分より先に誰かがいることはある事なのでそこまで気にせずに教室に入った。


それが間違いだった。

ユラの気遣いに触れ、いい景色を見た事で気が緩んでいた。


椅子にもすわらずキョロキョロと教室の中を見ている金髪の少女が目に入り、思わず息が詰まってしまう。


先に来ていたのはアメリアだった。アメリアは教室内を見渡しながら入口で固まっている私を見つけると少し驚いた様子を見せる。


「あ、えっと、おはようございます」


アメリアもまさかもう他の生徒が来るとは思っていなかったのか戸惑いを含ませながら挨拶をしてくる。


「え、えぇ。おはようございます」


私も咄嗟に声が出ず少し吃ってしまった。

しかしこの状況はまずい、昨日関わらないと誓った矢先に二人きりになってしまった。

ど、どうすれば?

何故か彼女はじっとこちらを見て黙っているし。


…………はぁ、仕方ない


片方の手でスカートの端を少しつまみ上げもう片方の手は胸の前に添え歩く頭を下げ名前を名乗る。


「改めてはじめまして、(わたくし)カロリーヌ伯の娘オリヴィア・カロリーヌと申します。」


冷鉄な人形の仮面をかぶり私はアメリアと相対することを選び挨拶をする。

オリヴィアが実家で父に付けられた家庭教師に鞭打たれながら習得した作法に一切の乱れもなく見るものを魅了するが父や家庭教師に認められず誰からも褒められたことの無い彼女は当然そんなことは知らずにいる。


「……あ、私はアメリアです。えっとオリヴィアさん、よろしくお願いします。」


アメリアは数秒固まった後、深く頭を下げ名乗る。

アメリアがつい魅入ってしまったのは仕方の無いことなのだが、それを知らないオリヴィアはアメリアの態度と返答に引っかかってしまう。


「ミス・アメリア。貴方にいくつか教えて差し上げます。」


ここで黙っていればいいのに私の心がそれを否定する。


「まず一つ、あなたがどんな立場なのか存じ上げませんが姓を名乗らない以上、貴族しか所属していないこの教室での立場は私より下となります。それなら私の名前がわからずとも先に名乗るべきです。」


「は……ぇ」


「もう一つ、初対面の貴族を相手に名前を呼ぶのはマナー違反です。基本的には家名で対応するものです。」


「……」


「これで最後ですが、お辞儀の角度が深すぎます。それは謝罪の角度です。この学院では立場はほぼ平等に扱われるとはいえだからと言ってその校風に甘えてはなりません」


言いたいことを全て言い終わりそのと若干の後悔が伸し掛る。

これでは夢の中で見た状況とほぼ変わらない。

夢の中では私が全てを言い終わったあとルーカス様が現れ状況を聞き彼女を庇うのだがどうなるんだろうか。

今のところ廊下からルーカス様が現れる気配は無い。


アメリアは私からの急な苦言に驚いて目をぱちぱちとさせながら放心状態になっている。


「そろそろ他の方々も来られるので席に座ることを推奨致しますわ、では」


そろそろクラスメイトがチラホラ来る時間、他に話すこともなかったのでそのままアメリアの横を通り抜けいつもの後方の席に座る。アメリアもその後すぐに教室の前の方の席に座った。


私の言葉通りアメリアが座った後、クラスメイトが教室に入ってきた。まるで廊下でタイミングを測ってたような程だが態度からして聞かれた様子は無い。

クラスメイトがチラホラと教室に入って来ていつもの席に座り中にはアメリアに軽く挨拶をしている人もいる。

当然それは私が言った固いものではなくあくまで友達同士のもの、アメリアからすれば私の言葉は小煩い野犬に噛まれたような気分になるものだったのかもしれない。


ぼんやりと彼女の方を見ながら自分の行動を振り返る。先程のやり取りは確実に夢の内容に近づいたものだった、しかし自分でも驚くほど後悔の気持ちは少ない。

当然、全くないということは無いのだがあそこで何も言わず愛想良くよろしくと言うのは今までの私を否定する行いになる気がしてしまった。

鞭を打たれ、食事を抜かれ睡眠時間を削りたまに差しのべられた優しい人の手も払いのけ作り上げた貴族たるべき自分を、過去の全てを否定していしまう気が……


夢の中の私もそんな気持ちだったんだろうか……

だとしたらきっと夢の内容を変えることは出来ないかもしれない、それでも私は自分の行動に間違いがあるとは思えない。


それなら……

一体、私の何が間違いなんだろう……




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



長期休暇を開けてからはじめての朝から夕方までの授業に生徒全員少し顔に疲れが出ている。


「それじゃあ、また明日会いましょう」


講師のその言葉を合図に教室内の生徒が動き出す。帰る準備をするものや友人たちと喋り出すもの様々だ。


私も帰るために荷物をまとめていると名前を呼ばれ、呼ばれた方を見れば先程の講師がこちらに視線を送っているので講師の元に向かう。


「如何されましたか?」


「あぁ、すまない。もう一人呼んでるから少し待ってくれ」


もう一人?

講師のその発言に少し嫌な予感がする。


「すいません、なんですか?」


朝ぶりの声が聞こえ後ろに立っている人物にアタリがつく。


「って、オリヴィ……ミス・オリヴィアさんまで……」


また名前を呼んでいることと敬称が二つついていることも気になるがそれより今はまず私たちが呼ばれた理由を知らなければ。


アメリアに軽く会釈をした後もう一度講師の方を見る。


「それで、なぜ私達を呼んだのか聞かせていただいても?」


「あぁ、と言っても俺も伝達を頼まれただけなんだが二人ともこの後、荷物を持って生徒会室に行ってもらえるか?」


生徒会という単語に思わず肩が上がる。

生徒会と言えばルーカス様が副会長をしている所であり学院の代表が集まっているような場所だ。

なんでそんな所に卒業後王族に戻るアメリアはまだしも私まで……?

一瞬ルーカス様の婚約者だからという理由も思いついたが生憎この学院はそんな贔屓をしないし、それが理由なら去年から呼ばれているはず。


「生徒会……?」


アメリアは学院に来たばかりでいまいちピンときてないらしい。


「まぁ、詳しいことは俺も聞いてないからとりあえず行ってから要件は聞いてくれ」


それだけ言うと講師はヒラヒラと手を振りながらさっさと歩いていってしまった。


素直な気持ちとしてはアメリアと二人にされるのは勘弁して欲しいのだが、生徒会室の場所すらも知らなさそうなので私が案内するしかない。

仕方ないですね……


「ミス・アメリア生徒会室まで案内しますので荷物をまとめたら教室の入口で待っていて貰えますか?」


「あ、はい。分かりました!すぐ荷物を持ってきますね!」


アメリアは走って自分の座っていた席に戻り荷物をまとめ始める。


そこまで急がなくてもいいんだけど……


オリヴィアもすぐに自分の席に戻り荷物はまとめていたので荷物を持って教室の入口で待っているとすぐにアメリアも鞄を片手にやってきた。


「それじゃあ行きましょうか」


「はい、よろしくお願いします!」


…………


………………気まずい


生徒会室は3階の一番端にあり私たちがいたのは二階の反対側の端、実際の距離はそう遠くは無いのだが朝のこともあってか気まずさ相まって無言の時間が辛く感じる。

アメリアも黙って後ろを着いてきているので同様の気持ちだろう。


はぁ、それにしても生徒会が一体私になんの用があるんだろう?

今の生徒会に所属しているのは四人、一人は生徒会長をしていてルーカス様同様この国に四つしかない公爵家の長男のポワリエ・リーヴェル様、文武ともに優秀で次期当主と名高い。噂では既に領地経営をしており個人で企業しているとか。

次いで副会長にルーカス様、過去の記録から見ても同年代に公爵家が二人いるのはかなり異例だ。

そして残り二人がフラベンテンス侯爵家の次男ユーベル・フラベンテンス様、学園始まって以来の剣士として頭角を現している、そしてクライエル侯爵家の長女ライラ・クライエル様、ずば抜けた記憶力を持ち彼女との交渉をしたならいつの間にか持ち金が無くなるほどだとか……とにかくそんなすごい人たちだ。

生徒会は爵位で選ばれる訳では無いが、暗黙のルールとして位が高い方々が任命されているが今期は彼らが男爵であろうとその地位を勝ち取っただろうと言えるほど優秀だ、聞いた話では彼らをそれぞれ支持する派閥があるとかなんとか……


考えるだけで足取りが重くなる。


二人無言のまましばらく歩くと扉に王国の紋章が掘られた扉が見える。


「ミス・アメリア」


「っはい!」


急に話しかけたせいでアメリアが肩をビクリと震わせ大きな声で返事をする。


あまり大きな声を出すと部屋の中に聞こえてしまうのでやめて欲しい……


「この部屋の中にいるのはとても高貴な方々です。私が前に出ますのであなたは後ろで立っていて、質問された場合のみそれに答えなさい。」


「わ、分かりました」


私の緊張を感じ取ったのかアメリアの顔が先程よりも少し強ばっている。

本来の身分なら私が前に立つのは不敬以外のなんでもないのだが、彼女は身分を明かしていないから仕方がない。

それにこんなマナーもおぼつかない彼女にこれまで通り話させてしまってはアメリアは大丈夫でも私はどうなるか分からない。


息を一つ吐いてから扉をノックするとドアの向こう側から「どうぞ」と言われゆっくりと扉を開く。


「やぁ、いらっしゃい。待ってたよ。」


そう言って正面の壁側にある執務席に座ったリーヴェル様がわざとらしい笑顔でいるのを見て今回の話が簡単に終わらなさそうなことを察して元々重たかった体がさらに重くなる。




前話でも誤字報告してくださった方々、ありがとうございます。チェックはしてるつもりなのですが意外と誤字が多くでびっくりです。


投稿は週一、出来れば週二くらいでしたいなと思ってるんですが曜日を固定するべきか……などなど悩みますね笑

とりあえず次の投稿は日曜日くらいを考えてます!


次回もよろしくお願いします。

気に入って頂けたらブックマーク、アクション貰えると励みになりますのでよろしくお願いします(*^^*)

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