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「ステップの返しが遅いです。それに姿勢が悪くなってますよ。慣れないうちはしっかりと意識し続けなさい。」
「は、はい!」
アメリアが部屋に訪れて来たあの日から、既に一週間が過ぎていた。そして、私が今なにをしているのかと言えばアメリアとダンスの練習をしている所だった。
何故そんなことをしているのか……原因は二日前にあった。
◈
「一ヶ月後、上級二年生が参加する交流会を開こうと考えているんだけどそれについて君たちはどう思う?」
授業も終わりクラスの皆が食堂に向かい始める中、一人帰る準備をしていた時いきなり生徒会室にまたもや呼び出された私とアメリアは、部屋に入るなりリーヴェル様のその言葉に二人して唖然としてしまった。
交流会?一ヶ月後?ダンスを教える?
言っていることはわかるけど、なぜそんな突表紙もない話が出てきたのか理解ができず、リーヴェル様に返事を返せないでいる私に刺々しい言葉が飛んでくる。
「おい、返事くらいしたらどうなんだ?礼儀知らずにも程があるだろう」
毎度のように私に鋭い視線を向けながら苦言を呈してきたのはユーベル・フラベテンス様だった。普段ならライラ様やルーカス様が諌めてくれるのだけど、今日は何故か生徒会室にはリーヴェル様とユーベル様しかいないため彼は私が部屋に入るなりじっと睨みつけてきていた。私は生徒会に入り、アメリアの教育を始めたことで何度かこの部屋を訪れる事が何度かあった。その時顔を合わせる度に突っかかって来るため最近はちょっと無視していたけど、今言われたことに関してはもっともなので今回は素直に頭を下げる。
「お見苦しいところお見せしてすみません、取り乱してしまいました。それで、交流会とやらの話を詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「気にしないでくれ。オリヴィア嬢もアメリア嬢もいつまでもそんなところに立っていないで座ってくれ。交流会の事について僕からも聞きたいことがあるかね。あとユーベルは僕が許すまでしばらく黙っててね、話進まないから」
リーヴェル様の言葉にユーベル様は不服な顔をしながらも頬杖をついて会話に参加しない姿勢を見せる。
ユーベル様に関しては気にしても仕方が無いので、取り敢えず私とアメリアは最初にこの部屋に来た時と同じ場所に座る。交流会だなんて夢ではなかったのに……
「それでは、まず交流会とは?」
「うん、まぁ言葉の通りなんだけど二年生に集まってもらってダンスでもしながら交流でもしてもらおうと思っていてね。それに………」
そこからリーヴェル様はなぜ交流会が開かれる事になったのか、いつからそんな話が出ていたのか等を話してくれた。
「なるほど、話はわかりました」
「流石だね、一度の話でそこまで理解してくれるとは。」
流石も何もある程度の話を聞けば、それくらい誰だってわかる。どうも最初に来た時からリーヴェル様には謎の期待を得ている気がする。あまり過度に期待されるのも不安になる。
ちなみにアメリアはこれまでの間、ずっと黙って話を聞いている。今回は以前のように『返答は私がするから貴方は静かに私の真似をしてて』ということは言っていない。
彼女のクラスの様子では人見知り等という事も無さそうだし、きっと緊張してるのね。
本来はこの部屋にいる誰よりも爵位は高いのだけど、公表されていないせいと、まぁ一年前まで平民として暮らしてたからまだ本人も慣れていないんだろう。
ただ今はアメリアの事よりも、リーヴェル様が私達を呼んだ理由が気になる。まさか、交流会のことを一足先に教えてくれただけな訳ないわよね?
ふぅ、と一つ息を吐いて呼吸を整える。
「交流会のことは分かりました。その上で最初の質問に答えるとするなら、素晴らしい考えだと思いますわ。そう答える以外の選択肢がないと考えてしまうほどには」
「ふふ、気を悪くしたならすまないね。ただ会話には順序があるだろう?勿体ぶった事は否定しないけど」
私の含みを持たせた言葉の意味を理解した上でリーヴェル様は万人受けする笑顔を崩すことなく笑う。
やりづらい...
このまま、腹の探り合いをしていても話は進まないし、いいことは無さそうなのでさっさと切り上げさせてもらおう...
「正直、こういった事は苦手なのでご遠慮頂ければ」
私の言葉にリーヴェル様は一瞬目を見開くと、笑顔を崩さずかつ悪い顔をする。
「苦手?いやいや、この手の事でここまで上手くこなせる学院生は君とライラくらいだろう」
「買いかぶり過ぎです。それより私達が呼ばれた理由をお聞きしても?」
分かりやすいお世辞は置いておくとして、さっさと本題に入りたいともう直接伝えてしまう。
「ふむ、まあいい。それじゃあ単刀直入に言うと、二週間後に交流会に参加する女子に対してダンスのレクチャーをオリヴィア嬢に頼みたい。さらに頼めるならアメリア嬢もそれまでにある程度までは仕上げて欲しい」
はい?
「...............はい?」
つい心の声が出てしまった。ただ、それを気にすることも出来ないくらいリーヴェル様の言葉が頭の中をぐるぐると回る。
若干痛んできた頭を抑えつつ、何とか考えを落ち着かせる。
「えっと、アメリア嬢のダンスレッスンは分かるのですがほかの貴族女子全員に教えるのですか?私が?」
「もちろん他にも何人かに頼んではいるよ。二年の貴族の女の子だけでもそれなりにはいるからね。アメリア嬢も多少の心得位は受けてるよね?」
「家庭教師の先生にちょっと教わったくらいです.......」
あまり自信はないと言外にアメリアは言うものの王族に付く家庭教師なら相当優秀なはずだから、練習時間が短いとはいえまったく踊れないということはないはずだ。
リーヴェル様の視線がアメリアに移った間に落ち着きを取り戻す。考えればリーヴェル様の言いたいことは分かる。学生のみの参加とはいえ、そこで披露するダンスに差がありすぎると後々に影響しかねないし、それを知った保護者から何を言われるか分からない。平民出身の親はよほどでは無い限り何も言ってこないだろうけど貴族の家系は用心しておいて損はない。そのためにある程度、全員のダンスのレベルを底上げしたいということなんでしょうね。
そして生徒会に所属している私が、その教師役として任命されるのも分かる。ただ問題は私と他の生徒との間には壁があることだ。それもかなり高い壁が。
「えっと、仰りたいことは分かるのですが.........」
物事には適材適所という言葉がありまして..
そもそも向こうが嫌がると思うのですけど.....なんて言えたらどれだけ楽か。
「やってくれるよね?」
「...........かしこまりました」
私なんかに、いい笑顔をしたリーヴェル様相手に異議を申し立てれる訳もなくそのまま了承させられてしまった。
取り敢えず他生徒への練習の内容や日取りは、別日に決めることになりアメリアとの個人レッスンの日だけ決めて今日は帰ることになった。
「あ、アメリア嬢は他にも話があるからもうちょっと時間貰えるかい?」
「え、あー、はい。大丈夫です」
私と一緒に席を立とうとしたアメリア様はリーヴェル様に呼び止められる。その時何故かこちらを確認してきたので軽く頷いてあげると了承の返事をしていた。
元々今日はマナーのレッスンをする予定もなかったので私に確認する必要は無いのに...
結局帰るのは私一人になったので、一人で生徒会室を出ようと扉に手をかけるとリーヴェル様が後ろから話しかけてきた。
「オリヴィア嬢、これは僕からのと言うより一学院生の先輩からのアドバイスとして受け取って欲しいだけど。君のその貴族らしさはとても素晴らしいけど、ここは学院。もう少し肩の力を抜いても咎める人はいないよ」
後ろを振り向かなかったため、リーヴェル様がどんな表情でその言葉を言ったのかは分からない。
それこそこの学院に入学したばかりの頃はよく言われた言葉。最近はもう言われることもなくなっていたからある意味懐かしさすら感じる。
学院生として、とわざわざ前置きをしてくれたのはきっと私の自主性を求めてのことなんだろうけど、その手のアドバイスに返す言葉はずっと前から変わらない。
「必要であれば」
そのまま振り返りはせず「失礼します」とだけ言って部屋を出る。廊下に生徒の姿はなく、真昼間だと言うのに静かなものだ。
微かに遠くから聞こえる虫の音を聴きながらその日は寮に帰った。
◈
あれから二日、学院の一室にてだらしなくテーブルに突っ伏すアメリアの姿がそこにはあった。
「だらしないですよ。ほらお水を飲んでください」
「.........ありがとうございます。」
水を入れたコップを手渡すとアメリアは起き上がって一気にその水を飲み干した。そんなに喉が乾いていたのね...もう少し早く休憩にすれば良かったかしら?
おかわりの水を差し出しながら、時間を確認していると水を飲み終えたアメリアが何か言いたげにこちらを見ていた。
「どうかされましたか?」
「オリヴィアさんも一緒に踊ってたのにどうして汗の一つもかいていないんですか?」
「慣れてますから」
貴族として必要なことは幼少の頃から叩き込まれている。学院のおかげでここ数年は練習の頻度こそ減ったものの長期休暇には実家でみっちり教育されるため、鈍るようなことはない。
「私もここ一年は結構やってたんですけどね...」
「それこそ、歴が違いますから。ただ、想定よりはお上手でしたよ。これなら一ヶ月後の交流会は問題なさそうです」
アメリアのダンスはそう悪くはなかった。ただどうしても短い期間しか練習していない弊害で、体力と細かな動きに難があるくらいのものだった。
一ヶ月の間に何度か練習を繰り返せば体力はつくだろうし、細やかな調整はいくらでも出来る。
「うぅ、大人に見られる訳じゃないですし、そこまで完璧にしなくても.......」
「あら、私に師事するなら完璧に、と最初にお伝えしたと思いますが。お辞めになりますか?」
「.......がんばります」
私の言葉に諦めたように、また水を飲み始めたアメリアを横目に見る。アメリアの言ってることはわかるけど、こればかりは譲れない。元々半端を目指して練習するなんて性分ではないし。
まぁ、こういう変な所で強気というか頑固な所のせいで夢の中ではアメリアに突っかかっていたんだろうけど。
自分自身に呆れながらふと考える。
そういえば、最近は夢での出来事をあまり気にしていなかった。忙しくて考えてる暇が無かったというのもあるけど、きっと夢にはなかった出来事が沢山起きるせいも他あるのだろう。もしかしたら.....
そこまで考えたところで頭を左右に振り、無意識に考えた可能性を否定する。
夢とはいえ何度も実感したあの大勢から突き刺さる視線の痛みが辱めの絶望が、死の記憶が軽くなろうとする心臓を鷲掴みする。
夢通りだった事だって確実にあるのだ。アメリアの事もルーカス様のことだって.....
「オリヴィアさん?なんだか顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」
いつの間にか私の目の前に立っているアメリアの目が私の顔を覗き込んでいた。
強く握りすぎていた両手からは血の気が引き、首筋に冷や汗が流れる。どうやら考え込みすぎていたらしい。
軽く深呼吸をして、なんとか上がった心拍数を下げる。
「もう、大丈夫です。少し嫌なことを思い出しただけですので.......そろそろ練習を再開しましょうか」
アメリアは未だ心配そうな顔をしながらも、ダンスの準備を始めた私の雰囲気を察してか、何も言わず同じようにダンスの準備を始める。
その後は一時間ほど練習と調整を繰り返して解散となった。帰る前にアメリアから昼食を一緒に食べないかと誘われたけどそれは丁重にお断りして、その日も一人で寮に帰った。
寮へと帰る道には綺麗な花が咲いていて、最近は風に揺らされるそれらを見るのがちょっとした楽しみだった。だけど、ここ二日間は何故かその花を見ても綺麗とは思えなかった。
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