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第72話:同じ言葉

 漆黒。いきなり目の前が真っ暗になった。それがイロナの認識だ。視界が奪われたと思い、すぐに戻った明るさに目がくらんだと思えば、戦いは終わっていた。


「え、なにこれ! 拘束されてる!?」

「嬢ちゃん、動かねぇ方がいいぜ。少し痛いからな」


 いつの間にか、イロナの体は漆黒のロープで拘束されていた。魔術によるものだとはわかる。しかし、あまりにも複雑な術式で作られていて、正体が掴めない。


「今の暗闇……噂の闇の魔術師ですね。まさか、『沈黙の塔』関係者だったとは……」


 見れば、メフィニスとアルクドも拘束されていた。どちらも万全でないとはいえ、あまりにも鮮やかだ。いや、メフィニスだけは抗っているようだった。漆黒のロープがたまに魔力の光を走らせる。


「ククク……おっかねぇな、さすがは『万印の魔女』ってことか。まあ、安心しなよ。俺は雇われさ。念のためって、やつだな」

「お主ら……さては、こちらの考えに気づいておったな?」


 腰の痛みに顔をしかめながらアルクドが問うと、闇の魔術師テオハルトは楽しげに頷いた。


「ま、見え見えの手だからな。俺の依頼主はそのくらいの手は打つさ。あっちで寝てる奴とはちょっと違う」


 いまだに気絶している嫌味な男を一瞥してから、テオハルトは真面目な顔になった。


「さて、悪いがお前達には交渉材料になって貰う。領主代理はどこだ? あとナイレお嬢さんもだ。それだけいれば、マナールの奴も諦めるだろ」

「マナールさんを知っているんですね?」

「ああ。一緒に仕事をしたことがあってな。あいつの危険性はよくわかってる。向こうには依頼主が行ってるが……どうかな、得体がしれねぇ」


 そう呟きながら、テオハルトはイロナの前に来た。メフィニスでもアルクドでもなく。


「見たところ、あんたが一番領主代理の居場所を知ってそうだ。その実力じゃ、逃げる手助けくらいしかできんだろう?」

「は、話しませんよ! それに、すぐにマナールさんが来てくれます! 絶対に!」


 気丈にもイロナが叫ぶと、テオハルトは静かに喉を鳴らした。


「気持ちはわかるがよ、あいつがいくら規格外だからって、すぐさまここまで来れるわけないだろう? 距離の問題がある。距離が」

「……っ」


 その通りだった。仮にマナールがこちらの異常を察知しても、相応の時間がかかる。湖の別荘はそういう場所だ。


「そういうわけだ。手荒なことはしたくない。大人しく、情報を吐いちゃくれないか?」

「…………っ」


 これまでとは打って変わっての真摯な態度。最後通牒。断れば、相応のことをされる。

 一瞬、恐怖に体が固まるイロナだったが、それでも、意を決して言葉を吐こうとする。


「そ、そう簡単に……」

「嘘だろ……本当に来やがった……」


 反抗の言葉は、呆然とした呟きとその後に起きた事象にかき消された。

 窓が吹き飛び、轟音と共に、人が飛び込んできたのだ。

 高価な窓ガラスがキラキラと砕け散り、光を散らす様は、まるで何かの自然現象のようだった。

 その光景を作り出した男は、紫紺のローブを着ていた。いつもと違って、少し焦げているが。

 顔をあげると、彼はいつも通りの穏やかな口調で話し出した。


「やあ、どうやら間に合ったようだ。それにしても、知り合いだらけで驚きだね」


 魔術師マナールはいつも通りの調子で言うと、周囲を見回し、二言三言、呪文を唱えた。即座にイロナ達を拘束していた魔術が解ける。


「おいおい。ここまで滅茶苦茶だったか、アンタ」

「ちょっと真面目に戦ったものでね。調子がいいんだ。察するところ、依頼を受けてここにいるみたいだね、テオハルト。残念ながら、私の勝ちだよ」


 にこやかに言うマナールに対して、テオハルトは素直に両手をあげた。

「その様子だと、もう話はついてるんだろ。素直に降参するぜ。もう少しゆっくり来いよ」

「これでも大分焦ったんだよ」


 話は終わったとばかりに、マナールがイロナの前に来て手を差し出した。


「もう大丈夫だよ、イロナさん。無事で良かった」


 奇しくもその言葉は、子供の頃、自分を救い出した祖父が言ったのと同じだった。

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