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第64話:塔と魔術師

 『沈黙の塔』がいつ頃できた魔術結社なのかはわからない。これは私が真面目に調べたことがないとかではなく、師匠ですら把握していなかったことなのだ。

 ただ、相当古い組織であることは確かであり、創立者はエルフの中でも上位に位置する存在だったとか言われている。


 『塔』の目的は魔術の探求だ。閉鎖された魔術師達の世界を作りだし、その中でひたすらに研鑽を積む。とはいえ、外部とのやり取りは必要だ。そのため、『沈黙の塔』の魔術師は何かしら仕事を与えられて外に出る。

 内容は様々だ、王族、貴族からの依頼。秘境や遺跡での探索活動。危険地帯への潜入や敵対組織の殲滅。

 私も師匠に命じられて出かけた先で何度も死にかけた。今でも思い出すと軽く震えが来るほどだ。

 

 話が変わってしまった。ともかく、『沈黙の塔』というのは世間と距離を取りつつ、魔術の探求をしている、やや閉鎖的な魔術結社と言える。

 『塔』と言いつつ、本拠地は時代によって様々なのも特徴だ。大きな城だったり、地下の洞窟だったり、情勢に合わせて割と頻繁に引っ越しをする。

 私が居た頃は名前の通り塔だった時代で、近隣の国家ともそこそこ付き合いがあった。


 あれから百年以上が経った現在、『沈黙の塔』がどうなっているのか把握はしていなかったが、思わぬところで関わりが出来てしまった。


 今も活動する『塔』の本拠地は不明。ただ、時々今回のように国の貴族に接触して来るそうだ。大体は魔術が絡んでいるという。

 同時に、世の中に溢れる魔術機を生み出した場所でもあるので、一定の敬意が払われているとも言う。うん。私の弟子達はとても頑張ったね。素晴らしい。


 とりあえず、私の仕事は『沈黙の塔』の魔術師を見つけることになった。ベルウッド氏に敵対する勢力、反ミュカレー派に協力しているなら、どこかに潜んでいるはずだ。どうにかして尻尾を掴めれば、大きく事態は進展する。

 

 そう考えて頑張って探してみたんだけれど、全然見つからなかった。


 反ミュカレー派の魔術師はライトからの情報もあって所在がわかっているけれど、そちらと一切接触はなし。周辺に怪しい建物や魔力の気配もなし。そもそもミュカレーは人が多いので、手がかりもなく人捜しをするのは難しい。


 本気で困った。手詰まりだ。


 ライトの協力を得たベルウッド氏が色々仕込んでからの十日間、頑張って探してみたけれど、全然駄目だった。

 いくら私でも難しいものはあるな、と現実を思い知っていた時、動きがあった。


 ベルウッド氏がライト経由で流した情報に、魔術師達が乗ったのだ。


「まさか、本気でヴェオース大樹境に入るとはね。彼らはこういうのに慣れているのかな?」

「実戦経験はあるけど探索経験は殆どないな。自信だけはある連中だ。実力はまあまあ、かな」


 私は今、ヴェオース大樹境内にいる。ライトも一緒だ。木々の間で隠れ身の魔術を駆使して、対象を観察中というところ。


 反ミュカレー派の魔術師達は、ライトの持ち帰った情報を物凄くあっさり信じてくれた。

 その上で、手土産として持たせた『ミュカレーの難題』にもきっちり釣られてくれた。あまりにも上手くいきすぎて、逆に罠に填められているんじゃないかと心配になる。


「ライト、彼らは策にかかった振りをしているんじゃないのかい?」

「俺が信用されてたってことだよ。……それと、ベルウッドの手腕だな。あっという間に、政争で怪我をした話が町中に知れ渡った。市中はそれで持ちきりだ。二方向からの情報を見て、尚疑う余裕はあいつらにはないよ」

「そうか。彼らからは君が手柄を立てたように見えているわけか」


 単身、ナイレ嬢を利用してベルウッドを傷つけ、多くの譲歩を引き出した。反ミュカレー派の魔術師の中では、一番の功績だろう。自然、他の者は焦って何かしらの「成果」を欲しがる。

 そこに怪我をした振りをしたライトが良い餌をぶらさげた訳だ。


「割と行き当たりばったりでやっているんだが、上手くいくものだなぁ」

「俺はあんたが本当に怖いよ。いや、ベルウッドも怖いな。王都の連中は彼を甘く見すぎだ」

「随分、認識を改めたようだね」

「この町で魔術師の味方が多い貴族なんて、彼くらいだ。魔術師が貴族以上の地位で振る舞う異常な場所だぞ。だから他の貴族は近寄らなかったんだ」


 ベルウッド氏自身もそっとして置いて欲しかったと思うんだけれどな。こうして政争をしていると仕事に遅れが出ると疲れた顔をしていた。責任感のある偉い人は貴重だ。大事にしよう。


「森の奥に入っていったぞ。一応警戒はしているが、多分駄目だな。全滅する」


 彼らに渡した『難題』は蜘蛛型の魔獣の巣窟になっている一帯だ。異常個体と呼ばれる巨大な女王を中心とした、蜘蛛の世界である。

 おぞましいが、比較的安全に進める経路案内つきで、上手く潜伏しながら進めば貴重な魔石や蜘蛛の集めた宝石が手に入る。その経路案内が百年以上前のものだという前提があるのが問題だが。


「それは望ましくないね。適当なところで助けるとしよう」


 実際の所、魔術師達の実力はそこそこ悪くない。大樹境の中間地帯にあたるここまで安全に進んで来ることが出来たのは評価に値する。


「俺は手伝わないぞ。こんな恐ろしい所、生き残れる気がしない」

「賢明だね。蜘蛛型の魔獣の異常個体なんて、相手をするものじゃないよ。私もとっとと逃げるさ」


 虫の形をしていて魔獣というのも変だが、こういうタイプは非常に危険だ。昆虫の異常な生命力や力を持ったまま巨大化し、特殊な能力まで持っていることが多い。この『難題』の蜘蛛は女王を中心とした巣を作り、あらゆる生き物を捕食する縄張りを形成している。

 ライトにはああ言ったが、倒せないわけじゃないけど、面倒なのは本当だ。手っ取り早いのは辺り一面焼き払うことだけど、それはそれで別の厄介を引き起こしそうで怖い。

 今回は、反ミュカレー派の魔術師を救出したら帰らせて貰おう。幸い、運ぶ人手はいるしね。


「じゃあ、行ってくるよ。人を運ぶ準備をしておいてくれ」

「わかった。俺が言うのも変だが、気をつけてな」


 ライトの言葉に軽く手で応えると、私は隠れ身の魔術をより強いものに変えて、暗い森の中へと足を踏み入れた。

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