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第51話:†闇の魔術師†

 テオハルト、闇の魔術師……。最近、その名を聞いた気がするな。着ているのはイロナさんのような魔術機士っぽい服装で、闇らしさは感じないが。


「調べ物かい? それなら協力するが」

「くそっ、調子狂うな。杖を構えてる俺が馬鹿みたいじゃねぇか。最近話題の魔術師ってのは不思議な奴だな」


 なんと。話題になっているとは心外だ。私は市井の一魔術師として地味に生きていきたいだけなのに。今だって、家のリフォームという現実的な目標のために、こうして危険な依頼を遂行中だ。


「そんなに話題になってるの? 大したことはしてないはずだけど」

「ふざけんじゃねぇ。半年ぶりに来てみたら、魔術師の勢力図が激変してて、その中心には必ずアンタがいるって話だろうが。『万印の魔女』の心変わり、『真実同盟』の実質的な崩壊、他にも色々やってるって聞いてるぜ」


 闇の魔術師は情報通のようだ。今挙げられた二点は否定のしようがないね。


「行き掛り上、そうなっただけだよ。今日だって、『ミュカレーの難題』で見つけた魔術陣を悪用する魔術師達を確認に来ただけだ」

「たった一人に魔術師の工房を攻めさせるあたり、組合もわかってるんじゃないか? マナールさんよ」


 言われてみればそうだな。でも、報酬はとても良いので不満はない。一人のほうが気楽だし。


「話を戻そう。テオハルト、君がここに来た理由を知りたい」

「……この街の人間に体調不良が続出してるんだよ。その原因を追ってたらここについた。なんだか、微量だが魔力を吸い取られてるみたいでな」

「…………すまない。ちょっとこの魔術陣を見させてくれ」


 私は慌てて床に描かれた魔術陣に目を走らせた。『ミュカレーの書』の記述では単なる攻撃用の魔術で、周囲の人間から無理やり魔力を集める機能なんてなかったはずだが?


 継ぎ目が見えないくらい綺麗に磨き抜かれた石床の上の魔術陣は、うす青い光を放っている。光は鼓動のように点滅し、徐々に魔術陣の輝きが増している。……いや、これはまだ発動途中だな。光っていない魔術陣がかなりある。

 周囲を見回すと、魔力が空になって輝きを失った人工魔石がいくつかあった。これでは、ドラゴンをも倒す攻撃魔術には圧倒的に足りない。


「なにかわかったのか? 急に顔色変えて。俺にも教えてくれると嬉しいね」

「推測だが……この魔術を起動するための魔力を、周囲から集めるように改変を加えてあると思われる」

「はぁ? なんだと、なんでそんなことになってる?」


 私は、自分の思考を整理する意味も含めて、テオハルトに状況を説明する。


「これは『ミュカレーの難題』にあった、攻撃魔術陣だそうだ。上手く発動すれば、ドラゴンをも倒すという強力なものだ。当然、必要とする魔力も多い。」

「……っ。じゃあ、ここの連中は人工魔石で補えない分の魔力を、あたりの人間から奪うことにしたっていうのか? そんなの、攻撃魔術より高度じゃねぇのか?」


 私は頷く。この闇の魔術師、工房を制圧したことといい、かなりの腕前だね。実に察しが良い。


「考えてみれば、強力な攻撃魔術を開発するなら、魔力を用意する手段も準備してあるだろう。彼らはそちらの魔術も見つけて持って来たのかもしれないな」

「噂の『ミュカレーの書』から出てる依頼か。まさか本当だとはな。しかし、迷惑な話だぜ。ドラゴンを倒すために味方の魔力を使うのか?」

「……恐らく、使ってもいい者の魔力を使用するんだろうね」

「チッ……」


 テオハルトが舌打ちする。口調は乱暴だけど、話はわかる男だな。最初も警告だけだったし。

 魔力は生き物の生命活動にも大きく関係している。ちょっと持っていかれたくらいなら体調不良で済むが、著しく失うと深刻な事態を引き起こしかねない。


「…………マナール、お前ならこの魔術陣を解除できるか?」


 忌々しそうに床の魔術陣を凝視しながら、テオハルトが言う。


「そうだね。動きを止めることなら、なんとかなるかな。しかし、これは……不完全にも見える」

「なんだと?」


 私の目には、この魔術陣は完成しきっていないように見えた。もしかしたら、彼らはヴェオース大樹境内にある工房から、研究結果のすべてを持ち帰れていないのではないだろうか?


「よし、とりあえず。私の方で解除していこう。まずは、攻撃部分の方からだね」


 魔力吸収の部分から手を付けたかったけれど、どうもこれ、供給する魔力が止まったら、発動準備態勢に入るようになっているみたいだ。なので、順番としては攻撃部分、次に魔力吸収部分になる。


「よし。マナール、ここはアンタに任せたぜ。俺は向こうに寝転がってる偉そうな奴を起こして、情報を吐かせて来る」

「できれば、何を見つけられなかったか聞いてほしいな」

「もちろんだ」


 ぶっきらぼうに言い残すと、テオハルトは部屋から消えた。この魔術陣は自分の手に負えないと早々に見切りをつけたのだろう。それでいて、次に私がやろうとしていることを察している。


「やれやれ、これを止めたら、大樹境にもいかないとね」


 最悪、現地には中途半端な状態の魔術陣が放置されている。最低限、消去すべきだろう。攻撃力以上に、魔力吸収が迷惑すぎる。


「しかしこれは、報酬はどうなるのだろうね。ほとんどテオハルトが片付けてしまった……」


 そんな現実的な不安を口にしつつ、私は魔術陣の解除にかかった。


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