第25話:真相と『話し合い(就活編)』の結果
わかってしまえば、簡単かつ酷い話だった。
魔術師ジグラトと二人組の冒険者。彼らは繋がっていた。
お金のない冒険者に、高額な報酬と引き換えに、希少な魔剣とその使い手を実験体として確保する話を持ちかけた。
私との『話し合い』に応じたジグラトはそう語った。
テッド君の父トニーは冒険者二人とは旧知の間柄。ジグラトの指定した場所まで連れてくるのは難しいことではない。
大体の時間と場所を指定して、ジグラトが確認したらキメラを解き放つ。あとは、責任感の強いトニー氏が若者二人を守って行方不明になる。
酷い話だが、実現可能な計画である。
彼らにとっての誤算は私の存在だったわけだ。しかし、ちょっと町から出ただけで、こんな事件に巻き込まれるなんて、この町はどうなっているんだろうか。治安が悪すぎる。
とにかく、今回はテッド君とお母さんを喜ばせることが出来そうで良かった。
トニー氏はまだなにかされる前で、弱っていたが、私の方で怪我を治したらすぐに動けるようになった。腕のいい冒険者は体内の魔力を活性化して体力を回復させることができるらしい。
ジグラトから話を聞き、トニー氏を治療して、今後のことを考えていたところで、工房内に入った二人組に気づいた。ここまでの流れはそんな感じだ。
「さて、二人共。私は大体の事情は把握している。大人しくしてくれるかい?」
「く……」
「う……」
一瞬武器を構えた二人だが、目の前のキメラを見てそれをやめた。私が魔獣を制御しているわけではないんだけどね。無駄に抵抗しないでくれるのは嬉しい。
「……お前たち、なんでこんなことをしたんだ」
トニー氏が辛そうな口調で問いかけると、二人組が答える。
「俺達はあんたみたいになれねぇからだよ! どんなに頑張ったって下っ端だ! そのうち大樹境のどっかで野垂れ死に! それなら手っ取り早く稼げる方がいいだろうが!」
「そうよ! 私達には絶対に手にできない魔剣や仕事の話ばかりして。「いつかお前たちだってなれるさ」なんて上から目線で言われるのもうんざりなのよ!」
「お前ら……」
トニー氏がうつむいている。ここに来るまでに軽く彼らについて聞いた。この二人組は、ミュカレーでも治安の悪い場所でたむろしているのを、トニー氏が保護して冒険者として生きていけるように指導したそうだ。
最初は倫理観や言動に問題はあったものの、最近は落ち着いてきて一人前になってきた。
今回の事件は、その矢先に起きたらしい。
「トニー氏、残念だが。彼らは……」
「ああ……。難しいもんだな、人を育てるってことは」
本当に悲しい目で、弟子二人組を見て、消え入りそうな声での呟き。
トニー氏の悲しみが届かない二人組は、敵意を込めてこちらを睨んでいる。
「トニー氏、どうする? なんならここで始末もできるが」
「…………ッ!」
「いや……いい。俺がいない間、テッドには優しかったそうだしな」
始末という言葉に勢いを失い真っ青になった二人組に、トニー氏は続ける。
「命は取らん。だが、衛兵には突き出す。お前たちは裁かれた後、上手くいって、ミュカレーから追放だ。この辺じゃもう冒険者としてもやってけんだろう」
「…………」
私よりもこの言葉の意味を正確に理解した二人組が、静かになった。まるで、死刑宣告を受けたかのようだ。ここの法律は知らないが、本当に死刑かもしれないな。よくて追放なんだから。
「テッドには仕事で町を出たと伝えておく。それが俺からの最後の情けだ」
「そ、そんな……ちょっとあんたを魔術師の実験に付き合わせただけだろ?」
男の言葉に、女の方も頷く。これはどうも、彼らは魔術師というものをわかっていなかったようだ。
「魔術師の実験台になるということは、死んだほうがマシというくらいの扱いを受けた後、死後もその体をいじられるということだよ。特にここみたいなキメラを作っている魔術師はね」
「…………」
ようやく自分達のやったことの重大さがわかったのか。二人は今度こそ観念したかのように、その場に項垂れ、動かなくなった。
「マナールさん、世話をかけたな。ありがとう」
二人組をじっと見つめながら、トニー氏は静かにそう言った。