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第12話:説得と解決

「あなたは、第七属性を知っている?」

「そう考えてもらって構わない」


 私はメフィニスを殺さない。できれば協力者にしたい。現在私は、ミュカレーの町において、あまりにも味方が少ない。これだけ社会として整った町なら身分の他、後ろ盾があったほうがいいだろう。正直、つい先程まで瀕死だったアルクド氏だけでは心もとない。

 『万印の魔女』なんて大げさな名前を持っている彼女にも是非協力してもらいたい。私にはこの町で暮らすための基盤が必要なのだ。


「じゃあ、第七属性に至った方法を教えてくれるの?」


 つい数十秒前まで絶望に取り乱していたはずのメフィニスが目を輝かせて問いかけてきた。彼女にとって第七属性へ到達する手段とは、これまでの何百年の研鑽よりも価値のあるものだ。他人を犠牲にしてまで手に入れたかったものの答えが目の前にあるとすれば、気持ちも変わるというものだろう。

 

「残念ながら。私と同じ方法で貴方が第七属性を見つけるのは難しい」


 私の場合は非常に特殊というか、偶然に近い流れで第七属性に至ったので、再現性がない。しかし、幸いにも別の方法を知っている。むしろ王道なやつだ。


「魔術師なら『星の道』を知っているね。二番目の魔術師が作ったあれだ」

「もちろん、幼い頃からの憧れよ。あれを見て敬意を抱かない魔術師はいないわ」


 『星の道』、史上二番目に第七属性に至った魔術師が作り出した遺産。夜空に輝く光の帯だ。時期にもよるが、夜空には天の川よりもはっきりと、虹色に輝く光の道が見える。まるでこの世界を囲む輪のような輝き。星空から集めた巨大な魔力の循環機構。『第二の月』に続く、魔術師の達成した偉業の一つだ。

 

「あの道の中には二番目の魔術師が作った工房が浮かんでいる。貴方なら観測したことがあるのでは?」

「ええ……ええっ。三百年ほど前に観測用の魔術を組んで確認したわ。隠蔽されているけれど、見るだけならば難しくない」


 有名な話だ。「星の道には二番目の魔術師の工房があり、そこには第七属性についての知識が収まっている」。

 私はかつて、それを確認したことがある。

 

「恐らく、エルフが第七属性へ至るなら、あそこに行くのが一番早い」


 メフィニスから視線を外して、周囲を見る。ちょうどいいところに小さなテーブルと紙とペンがあった。恐らく、彼女がちょっとした書き物をするために用意してあるんだろう。これを使わせてもらうことにする。

 私の知るよりも白くて手触りの良い紙に、インクをつけたペンを走らせる。


「知っての通り、あの工房は見えはするけれど辿り着くのは難しい。空を飛ぶ魔術は難しいし、見た目よりも高度が高すぎる」

「何度も挑戦したわ。既存の魔術では途中で出力が足りなくなってしまう。大量の人工魔石を載せた魔術機で飛んだ魔術師もいたけれど、失敗したわ」

「そうだろうね。そもそも、『星の道』自体に近づいた魔術に反発する仕掛けが施してある。あれは魔力の流れであると同時に、常時発動する魔術でもあるんだ」


 その見た目と魔力量に反して、あまりにも小さな魔術が『星の道』には仕込まれている。近くに来るほど他の魔術、とりわけ既存の飛行魔術を弱める効能だ。


「つまり、あれは試験なんだ。『星の道』に隠された魔術を見つけ、くぐり抜けた者だけが、第七属性への資格ありとみなされて工房にたどり着ける」


 言って、ペンを置いて紙を渡す。メフィニスは何度もその上の文字へ視線を往復させる。

 書いたのはヒントだ。魔術を作るに当たって必要なキーワード。彼女くらいの魔術師ならば、それで十分『星の道』を渡るための魔術を組み上げられる。術式そのものではなく、大事なのは考え方なんだ。


「そう、『星の道』自体の魔力を利用するのね。ようは魔術に自分を『星の道』の一部だけだと誤解させる。むしろ、大地を離れるのではなく、『星の道』を大地に見立てて着地する……」


 なかなか理解が早そうで何よりだ。


「これからは熱心に観測することをおすすめするよ。ああ見えて、地上との距離が結構変わるんだ。近づきやすい時がある」


 具体的には、『第二の月』と一番接近するときがおすすめなのだけど、そこまでは教えない。私が教えるのはあくまでヒント。彼女は自力でたどり着けなければいけない。

 

「……あぁ……あぁぁあああ」


 メフィニスが両目から涙を流し、嗚咽を漏らし始めた。床に崩れ落ち、最初に会った時の余裕もなく、子供のように泣きじゃくる。

 

「答えのない問題に何百年も挑み続けるのは辛かっただろうね。貴方の研究を潰した埋め合わせは、これで良いかな?」


 腰を落とし、視線を合わせて問いかける。魔術師の多くは孤高で、同時に答えを求めている。沢山の弟子を持ちながら、第七属性への道を模索して数百年。メフィニスの孤独は想像するに余りある。


「ありがとうございます……。ありがとうございます……。これなら、続けることができる」


 お礼を言われるのは変な気分だ。彼女の研究を台無しにしたばかりなのに。いやまあ、話し合いが上手くいってよかったということにしよう。思った通り、第七属性を追い求める熱心な魔術師で良かった。


「そこで相談だ。私がこの町で暮らす手助けをしてほしい。実は遠くから来たばかりでね、身分も仕事も何もないんだ」


 現状、私は無職である。これは深刻な問題だ。

 

「もちろんですとも。私の新たな師に、不便はないようにとりはからいます」

「別に貴族みたいな生活はしなくていいよ。イロナさん……アルクド氏のところで普通に暮らしたいんだ」

「わかりましたとも。お任せください」


 涙でぐしゃぐしゃになった顔で言われた。この十分くらいで大分変わったな。

 

「それと、きちんと寝ること。魔術印の維持でろくに眠れていなかったでしょう? 睡眠は大切だよ」

「はい。ちゃんと寝ます!」


 物凄い素直な笑顔で答えられた。彼女の目つきは睡眠不足も影響している。全身の魔術印、任意発動とはいえ、維持に気を使っていたはずだ。それを何百年もやっていた精神は凄まじいとしかいえない。


「では、私はこれで帰るよ」


 私が立ち上がると、遠慮がちな声が聞こえた。

 

「あの……マナール様。また、お会いしにいっても?」


 振り返ると、瞳を潤ませてそんなことを言われた。


「アルクド氏の迷惑にならなければね。あまりヒントはあげられないよ。それと他の弟子も助けてあげてね」

「はい。それは勿論……」


 なんだかうっとりした響きの声を背中で受けながら、私は元「万印の魔女」の工房をあとにした。

 

 なんか、最後の方ちょっと様子がおかしかったけど、解決したから良しとしよう。

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