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妖神繚乱~アマノジャク編vol.7~

 それにしてもあの時の息子は何だったのか。

 元妻は息子の観察を始めた。

 その結果分かった事がいくつかあった。


 一つ目――

 息子は解離性同一性障害になった。いわゆる多重人格。

 普段はいつもの優しい息子。

 もう一人は憎しみや殺意に満ちた瞳を持つ、異形の姿をした息子。

 息子は元々、他人に気を遣う、人の目を気にして行動するタイプではあった。

 異形の姿の息子はそれが更に過剰になったというか、他人への忖度が過度になったというか。まるで他人の心を読んでいるかのよう。

 そして、互いの記憶を共有していない。


 二つ目――

 異形の姿の時の息子は、母親である自分のストレスに応じて出てくる。

 行為をした際に鬱を感じた相手。

 そういった援助交際相手はホテルから出たところで異形の息子に殺される。

 そのような場面に何度か出くわした事があった。


 あとはおそらく行為の帰りがけだろう。

 援助交際相手が事故死したニュースを視た事もある。

 こちらも間違いなく息子が関わっている。そんな気がした。


 三つ目――

 ストレスを感じるのは行為をした時だけではない。

 お金が必要なのに手元にない。そんな時もストレスを感じる。

 いや、必要じゃない時もお金はあった方が良い。


 お金があると気持ちに余裕が出てくる。金額は多ければ多いほど良い。

 お金の事で母親である自分がストレスを覚える。

 そうなると異形の息子はどこからともなくお金や貴金属を持ってきた。

 本当に良く出来た息子。振れば財宝が出てくる打ち出の小槌(こづち)


 ただ、これに頼り過ぎるのはよくない。バレた時に面倒になる。

 今まで通り、援助交際で生活費を稼ぎながら、あとは息子が勝手に忖度して金目のものを持ってくる。これぐらいのバランスが丁度いい。


 ああ、何て素敵な息子に育ったのだろうか。


 ***************************************************


 カマイタチはアマノジャクに向かって水平に太刀を振るう。横一文字。


「嵐神八雲流・壱の太刀・裂葉風!!」


 カマイタチの繰り出した技をキャッキャッと笑いながらアマノジャクは華麗に躱す。裂葉風の生み出した斬撃はショッピングセンターの壁にぶつかり壁を破壊。大きな穴を開けた。


「ヤバっ……」


 思わず声が出てしまうカマイタチ。


「わるいやつだあ、わるいやつだあ。たてものこわした、たてものこわした」


 酒焼けした喉から発せられるようなガラガラ声。

 それでいて幼子のような口ぶりでアマノジャクは話し掛けてきた。


「ますたーにいう、ますたーにいう。こわいこわい。おこられる、おこられる」


「チッ、勝手に他人(ひと)の心を読むんじゃないよ。裂葉風! 裂葉風!」


 カマイタチはイライラしながら裂葉風を繰り返す。

 しかし先程と同様、太刀がアマノジャクに届く様子はない。

 鼻息荒く太刀を構え次の攻撃を繰り出そうとするカマイタチの隣りにアクロジンノヒが立った。彼はポンポンと優しくカマイタチの肩を叩いて言った。 


「カマちゃん、血気盛んは格好いいけど、今は駄目ー。うん、選手交代」


「アクロジンノヒ……」


 カマイタチは何かを言いかけ口を閉じた。


「自分でも分かっているでしょ。カマちゃんの悪いところとアイツは相性が悪い。だから選手交代。ここからは僕がアイツの相手をする。カマちゃんは小鬼の方ね」


「分かった。あとは頼む」


「その素直さはカマちゃんのいいところだよ。うん、あとは任せて」


 カマイタチは小鬼の方へ向かう。

 それを見届けたアクロジンノヒは2本の短剣を左右の手に握った。

 そして2本の短剣に炎をまとわせる。


「ここからは僕の出番。君と戦うのはこの僕」


 そう言いながら近付いてくるアクロジンノヒに対してアマノジャクは目を細めてじっと見つめた。そしてニヤニヤしながらガラガラ声で言葉を紡ぐ。


「すきすきだいすき。かまちゃんすきすきだいすき」


「あのさ、他人(ひと)にわざわざ言われたくない事もあるんだよ。心の中を覗いてなんでもかんでも見ちゃうのはマナー違反だね。それと、君が他人の心の中で思っている事を声に出して言うのはわざと、か。それは立派な悪意だよ」


 2本の短剣をまとう炎の出力が上がる。

 今までは蝋燭(ろうそく)の揺らめくような淡い炎。

 それがガスバーナーのような直線的な勢いの炎になった。


「おんなのこがよかった、おんなのこがよかった」


 揶揄(からか)う仕草を見せながらアマノジャクはその場でぴょんぴょん跳ねて回る。

 それを見たアクロジンノヒは表情のトーンが変わった。

 明らかな不満顔。目尻は細くなり、瞳の奥には怒りが見える。


「いいかげんにしろよ……」


 ドスの効いた低い声でアクロジンノヒは言い放つ。

 そして舞台で踊りを披露するかの如く、能や歌舞伎に似た演舞を舞い始めた。

 体を大きく使って舞うその姿は、優美で繊細。風雅で大胆。見る者を魅了する。


「伊勢炎舞・双蛇の舞」


 アクロジンノヒは繰り出す技の名前を唱えた。

 それをキッカケに少しずつ演舞の速度が加速する。

 2本の短剣がまとう炎の残像は二匹の蛇がうねる姿のように見えた。

 演舞はドンドン早くなり、アクロジンノヒの顔や手が見えないほど高速となる。

 

 その舞がアマノジャクに近付くと、一瞬でアマノジャクを巻き込みアマノジャクの身体を無数に切り刻んだ。


 アクロジンノヒの伊勢炎舞は気が遠くなるほどの長い年月の訓練で成り立っている。一度動けば頭で考える必要はなく、体が勝手に動いて技を繋いでいく。

 アマノジャクが心中を察して攻撃を躱そうとしても躱せない。

 何故なら考えながら技を繰り出しているわけではないから。

 その点でいえばアマノジャクからみたら最悪の相性。天敵ともいえる相手。


「……任務完了」


 アマノジャクの切り刻まれた身体は靄が晴れるように跡形もなく消えてしまった。その隣りで演舞を終え停止の姿勢をとったアクロジンノヒ。スッキリしたと言わんばかりのドヤ顔で勝利のポーズをきめる。


「他人の心に土足で入るやつは馬に蹴られて死んでしまえ」



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