妖神繚乱~アマノジャク編vol.4~
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「人間とも鬼とも言えない。鬼になりきれていない。そんな事はどうでも良い」
抜身の太刀をぶらりを持ちながらそう語る精悍な顔つきの男。
彼はカマイタチの隣りに立つ。
その瞳に宿るはハッキリとした意思表示。
「悪鬼だろうと人間だろうと悪意を持つモノは我ら妖神が守護するに値せず。それにあれは既に人ならざる者に身も心も変化しておるわ。ああなった以上、その魂は封緘されるほかあるまい」
先程まで戦いたくないと泣いていた男と同一人物と思えないその表情と口調。
「お、主人格のお出ましか。来たな、シュテンドウジ」
カマイタチは右手に童子切安綱を持つシュテンドウジに声を掛けた。
童子切安綱。
天下五剣の一つで大江山に棲みついた鬼、酒呑童子の首を斬り落としたという伝承を持つ名刀。
シュテンドウジはそんな“いわくつき”で自分へ向かってくる魍魎を叩き切る。
「カマイタチは相変わらず温いな。我らは裁くものではない。我らは執行者。勘違いするな。意志を整え、我らの任務を全うせよ」
キツメの視線と言葉をカマイタチに飛ばすシュテンドウジ。
そこへちょこちょこと小走りで駆け付けたアクロジンノヒが割って入ってきた。
そのアクロジンノヒと入れ替わるようにカマイタチは前線に向かう。
説教モードに入りかけた時のシュテンドウジは面倒くさい。話が長くなる。
そんな事を考えながらカマイタチは太刀を振るい続けた。
残された2人。シュテンドウジとアクロジンノヒの会話が始まる。
「ちょっとシューちゃん! カマちゃんの事をあまり怒らないでもらえる?」
「おお、久しいな、アクロジンノヒ。今回の任務は貴様と一緒だったか」
「あのね、シューちゃん。カマちゃんはすぐにメンタルブレイクしちゃうから優しく優しくが基本だぞ」
「貴様はカマイタチに対して昔から過保護だったな」
「カマちゃんの過去の事はシューちゃんも知ってるでしょ」
「ああ、覚えておる。ついでに言うと昔の貴様は性格も風貌も、もっと男らしかった事も覚えておる。あの頃は髭面でなー。妖神も時間とともに変わるものよな」
「おい、シュテンドウジ。昔の顔を思い出させるんじゃねーよ!」
先程までの艶のあるイケボイスからいきなりドスの効いた低い声に変わったアクロジンノヒ。
それを聞いて顔の表情が固まるシュテンドウジ。
「あー、ごめん。シューちゃんが口を滑らせるから、ついつい地が出ちゃった」
へへっと舌を出しながらアクロジンノヒが笑う。
そして悲しそうな瞳を見せながら言葉を続ける。
「あー、なんで男なんかに生まれたんだろう」
「唐突にどうした。こればかりは仕方あるまい。“十二使徒”は全員男と決まっておるからな」
シュテンドウジはアクロジンノヒの問いに真面目に答える。
「そういう事を言っているんじゃなくて……」
「分かっておる、分かっておる。皆まで言うまい。儂もそこまで朴念仁ではない。貴様の事は重々理解しているつもりだ」
「シューちゃん……」
「まあいい。ほら、任務をこなすぞ。我らの仕事はあやつらを葬る事だ。その話は帰ったら聞いてやる」
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