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妖神繚乱~アマノジャク編vol.3~

 そんな元妻は数年前から援助交際をしていた。

 ただしそれは生活費を稼ぐ為でなく、遊興費や心療内科の医療費を稼ぐ為。


 しかし今は違う。

 旦那が3か月前に亡くなり、シングルマザーとして一人で息子を育てている。


 昼間の仕事や夜にスナックでホステスとして働く事も考えた。

 だが精神疾患が原因で働けなかった。

 いきなり発作や眩暈(めまい)が起きても困る。


 それに仕事中は不安な気持ちになっても頓服を飲めなかった。

 何故なら頓服を飲むと強烈な眠気に襲われるから。

 そうなると仕事にならない。周りに迷惑をかけるだけになる。


 だから元妻は援助交際の事を仕事と呼び、不定期で相手を募集して稼いでいた。

 そして今日も毎回利用しているラブホテル近くのコンビニに到着した。


 コンビニの前に止まっている一台の白い車。トヨタプリウス。

 運転席に乗っている男は50代。

 男と合流した元妻はコンビニへ入る。

 度数の高いレモンチューハイを2本ほど男に買ってもらう。


 酒が好きだからと出会う男たちに説明していたが、何てことない、もはやシラフで行為に及ぶ事はできない精神状態になっていた。

 旦那が生きていた時はラクだった。

 あの頃は毎日“好きになる相手”が変わっていた。

 その時に“好きになった相手”と日替わりで行為に及んでいた。


 今は違う。

 この援助交際を“仕事”と認識してからは苦痛だった。

 毎回、行為前に身体を洗う時、今から犯されるのかと鬱になった。


 その嫌な気持ちを少しでも静める為に、酒で酔うしかなかった。

 だから元妻はラブホテルに入る前にコンビニで酒を買ってもらうようになった。早く酔えるように度数の高いものを選ぶようになった。 


 この日の援助交際が終了し、元妻は金を受け取りラブホテルを出る。

 コンビニでタクシーを呼び、古くなったアパートへ戻る。


 元妻の本日の援助交際の相手の男。

 男はホテル代を支払い自分の車に乗り込んだ。

 彼は車の中で今日の感想をぶつぶつ呟きながら家路を急いだ。


 時間は深夜2時。後続車も対向車も走っていない田舎道。

 途中、赤信号に捕まり車を停車する。

 車のハンドルをトントントンと指で軽く叩きながら、信号が変わるのを待つ。


「それにしてもあの女、エロイカラダだったなー。もう一回やってもいいな」


 下品な笑い声を車内に響かせ男は言った。

 そして信号が青に変わり、車を進める為にブレーキから足を外した時だった。


 ドスン!!!!


 何かの塊が上から降ってきた。

 車のボンネットにぶつかりバウンドし、そのまま車体前方に転がり落ちる。

 男は慌ててブレーキを踏む。


「何だ!? 何が落ちてきた!?」


 一瞬の出来事だった為、何がぶつかったのかよく分からなかった。

 男は車のシフトレバーをパーキングに入れ、トヨタプリウスから降りた。

 そして車の前に移動する。

 そこにいたのは――。


「……人? 子供か?」


 車のライトに照らされたのはうずくまっている様子の子供。

 学校のジャージらしきものを着ている。

 髪はモジャモジャのパーマ。

 ライトのせいか全身の肌色は黄色っぽく見える。

 顔は腕で隠されていて見えない。


「おい、大丈夫か。怪我はないか」


 突然の事とはいえ、心配になった男は声を掛けた。

 車は停車していたから交通事故扱いされたとしても俺に非はない。

 だがここで逃げたら非はなかったとしても捕まりかねない。

 そうなったら面倒だ。


「おい、意識はあるか。返事できるか。怪我はないよな」


 男が腰をかがめ低い姿勢をとったその時だった。

 うずくまっていた子供が飛び起き、男に襲い掛かってきた。

 右手に隠し持っていた包丁を男の首に突き刺す。

 そして男の首から刺した包丁を抜くと、そこから勢いよく血が噴き出した。

 子供は何度も何度も男の首や胸に包丁を突き立てながら呟く。


「ボクがママを守るんだ。ボクがママを守るんだ。ボクがママを守るんだ」


 何度も包丁で刺された男は既に絶命していた。

 しかし子供は手を休める事をしなかった。

 子供はしばらくの間馬乗りになり何度も何度も刺し続けた。


 5分ほど経ったろうか。

 返り血にまみれた子供は倒れている男を見下すように立ち上がった。

 車のライトに照らされた子供の顔は、怒りに満ちた醜い鬼の形相をしていた。



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