妖神繚乱~アマノジャク編vol.2~
息子の部屋まで聞こえてくる叫び声。
「痛い、痛い!」
その悲鳴で起こされる息子。
母に対して父がまた暴力を振るっているのか。
声が聞こえないように耳を塞いで布団に潜る。
だけど声が止むことはない。
どうしたら父の暴力から母を守れるのか。
息子は必死に考えた。
考えて、考えて、10歳の男の子が出した一つの結論。
「そうだ、パパがいなくなれば良いんだ」
そっと自室のドアを開けてリビングにあるキッチンへ向かう。
途中、寝室にいる母が父に対して何か言っているのが聞こえてきた。
しかし声が小さくて良く聞き取れない。
間違いなく言えるのは、先程のような悲鳴は既に消えていた事くらい。
キッチンに着いた息子。
目的のものを探す。
食器用の水切りバスケットの中にソレはあった。
まだ薄暗い部屋の中で彼は鈍い光を放つ包丁を握りしめる。
そして、彼は静かに夫婦の寝室へ歩み出した。
「ぼくがママを守るんだ。ぼくがママを守るんだ。ボクがママを守るんだ」
繰り返される言葉。
決意に満ちたその言葉を唱えれば唱えるほど、彼の瞳はどんよりと暗いものになっていく。もはや子供の顔ではない。まるで怒りに心を震わせる鬼のような形相。
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「嵐神八雲流・壱の太刀・裂葉風!!」
カマイタチの繰り出したその剣技で魍魎たちは次々と消えていく
その名の通り、宙を舞う木の葉を切り裂くような鋭い一撃。
「さすがね、カマちゃん。いつ見ても貴方の剣さばきには惚れ惚れするわー」
いつの間にかカマイタチの背後に立っていたアクロジンノヒがそっと呟く。
そしてカマイタチの首筋にふう~っと息を吹きかけながら笑みを浮かべた。
全身に鳥肌が立つカマイタチ。
「ケルベロスー!!」
白猫のケルベロスに思わず助けを求めるカマイタチ。
イベント広場の片隅で妖神たちの戦いを見守っていたケルベロスはカマイタチの呼び声を聞いて魍魎たちの隙間を縫うように走り駆け付ける。
そのままアクロジンノヒの前まで来たケルベロスは怒り口調で注意を始めた。
「遊んでニャいで仕事するニャー! そういう事はあっちの世界に戻ってからすればいいニャ。今は目の前の悪鬼を倒すのが優先ニャー!」
「こっちの世界でカマちゃんにちょっかいを出しながら戦うのが面白いのに」
唇を尖らせたアクロジンノヒは不満そうに言った。
それを見たケルベロスは冷たく言い返す。
「マスターに報告するニャ」
「ごめん、ケルちゃん。さてさて、僕はシューちゃんの分も働くよー」
アクロジンノヒは両手の短剣をぶらぶら振りながらカマイタチから距離を取り戦いの前線に戻っていく。
「最初からそうするニャー。カマイタチ、お前もいちいち反応しニャい!」
カマイタチに向かってそれだけを言うとケルベロスは再びイベント会場の片隅へ行く。ケルベロス自身は戦闘要員ではないのでこれで正解。
「だからアクロジンノヒとパーティは組みたくない。あいつは毎回毎回……」
刀を振り魍魎を斬りながらカマイタチは呟いた。
少し離れたところで短剣に炎をまとわせたアクロジンノヒが魍魎と戦っている。
彼は性格に難があるものの腕は確かだ。
演舞の如く踊るような動きで次々と魍魎を斬っていく。
「あれさえ無ければいいヤツなんだけどな。裂葉風!!」
カマイタチはまた魍魎を一体倒した。
これで残るは魍魎10体。
シュテンドウジの職務放棄とアクロジンノヒのちょっかいはあったものの、ここまで順調といえば順調。スムーズに任務は進んでいる。
しかし、やっかいな問題が2点。
1点目はアマノジャクの能力。
それは他人の心中を察する能力。
アマノジャクからの攻撃は常に軽い当身のような一撃。致命傷はない。
だがこちらの攻撃が面白いほど当たらない。何をしても躱される。
アマノジャクの能力のレベルはかなり高い。
そして2点目は――。
「あれは元々人間だねー……。純粋な悪鬼ではない。人間の臭いが混じっている」
アクロジンノヒはアマノジャクの横にいる1匹の鬼に視線を移しながら言った。
その鬼はアマノジャクと同じくらいの身長。
見た目もアマノジャクに似ている。
身体は黄色で醜い顔付きとモジャモジャの天然パーマみたいな髪。
そして鋭く、殺意に満ちた瞳。しかし口元には幼さが残る。
「正確には人間とも鬼とも言えない。鬼になりきれていない人間。それが表現として一番近いかな」
魍魎に向けた刀の構えは崩さず、チラッとその鬼に視線を飛ばしたカマイタチ。
自分なりに分析した結果をアクロジンノヒに伝える。
それにしても、あの鬼は最初はいなかった。
気付いたらアマノジャクの隣りにいた。いつ、どこから現れたのか。
あれは悪鬼なのか人間なのか。斬るべきか斬らざるべきか。
カマイタチはその判断を迷っていた。
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I県アメノ市――
時は遡る事、3ヶ月前。
場所は築年数40年のアパート1階。8畳のリビング。
元妻は以前と変わらぬロングの茶髪。
だが以前と違い髪の毛の手入れはされていない。
結構キツメのギャルメイク。目元は大きくハッキリと、唇はかなり赤い。
耳に付けたピアスの数は増えている。
そして首や肩、手の甲や太ももにサイズの大きなタトゥー。
露出の多い服を着ており、もはや隠す様子もない。
現在、元妻は援助交際で生活費を稼いでいた。
時間は夜の22時。
息子が部屋で寝ているのを確認した元妻はそっと玄関の鍵を掛けて家を出た。
呼んでいたタクシーが家の前に止まる。
これから向かうのは隣りの市にあるラブホテル。
身元がバレるのを気にしてアメノ市のラブホテルには行かない。
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