妖神繚乱~ナマハゲ編vol.2(完)~
「言う事きがね子は懲らしめっぞー!!」
ジジナマハゲの怒鳴り声と共に二体のナマハゲの影から魑魅魍魎が続々と出現。
黒い靄で出来た、人間の姿を模した魍魎。瘴気を身にまとっている。
しかしながら目玉だけとても赤い。
しかも赤いだけでなく、炎が灯されているかのようにゆらゆら揺らめている。
その数は二十体。
手には柄の長い槍や海賊が持つような湾曲した刃の剣を握っているものもいる。
魍魎数体が家主たちに襲い掛かる。
悲鳴を上げる子供だち。
「てめえら、何とかしやがれ!」
親戚の中にいた金髪男性30歳が怒鳴る。
そして自分の近くにいた子供たちを魍魎の方へドンと突き飛ばした。
不意の出来事に何が起きたのか理解できない子供たち。
そこへ魍魎の黒い手が子供たちに向かって伸びてくる。
だがその危機に登場したのはクジャクコウシュ。
大きな扇を振り回して魍魎を一撃で蹴散らす。
その動作のままくるりと体を回したクジャクコウシュ。
金髪男性に冷たい視線を向けて一言モノ申す。
「あらー、駄目ですよー。貴方の行為は善意ではありませんー。悪意ですー」
クジャクコウシュは子供たちに自分の後ろへ来るよう優しく促す。
「クジャクコウシュ殿はそのまま人間たちをお守りくだされ。カマイタチ殿、魍魎の始末は我々だけ充分だと思いますが違いますかね?」
ウンガイキョウはそう話しながらカマイタチと視線を交えた。
「間違いない!」
返答したカマイタチは素早く風を切るような太刀捌きで魍魎を両断していく。
斬られた魍魎は雲散霧消。
弾けるように飛び散り、初めからいなかったかのように姿を消した。
その光景を見たウンガイキョウは魍魎を相手に銃を放つ。
しかしそこから飛び出したのは弾丸ではない。
光線。レーザービーム。
ひとすじの光が魍魎の頭を吹き飛ばした。こちらの魍魎も姿を消す。
二人の勁勇無双の活躍で魍魎を次々と撃破。
残すは二体のナマハゲのみとなった。
赤のジジナマハゲが出刃包丁でカマイタチを後ろから斬り付ける。
しかし事前に気付いたカマイタチ。
くるりと振り返り漆黒の日本刀で出刃包丁を受け止めた。
金属同士のぶつかる鈍い音が耳をつんざく。
ジジナマハゲはもう一度振りかぶり勢いよく出刃包丁を振り下ろした。
今後は太刀で受け止めず、カマイタチは体をひねって攻撃をかわす。
そしてそのまま流れるような動きで水平に太刀を振るった。横一文字。
「嵐神八雲流・壱の太刀・裂葉風!!」
カマイタチは技の名前を言いながら剣技を繰り出す。
その技でジジナマハゲの胴体は真っ二つに両断され、ジジナマハゲの上下に分かれた肉体は魍魎たち同様、靄が晴れるように跡形もなく消えてしまった。
時同じくして青のババナマハゲと戦っていたのはウンガイキョウ。
次に技名を叫んだのは彼だった。
「鹿島雷神道・射撃術・大筒太鼓!!」
こちらもカマイタチのように得意技が炸裂する。
二丁の拳銃から撃たれた光線は螺旋を描くように混ざり合い一本の線になった。
そしてババナマハゲに直撃。
ドーンという大きな音と共にババナマハゲの上半身を吹き飛ばす。
残されたババナマハゲの下半身もジジナマハゲ同様、跡形もなく消えていく。
*********************************************************
「悪鬼は二体とも消え去り、冥界に封緘されたニャー」
カマイタチの肩に乗ったケルベロスは満足そうに言った。
「マスターに報告する為に帰還するニャー」
「あ、あのー……」
古民家の家主がおそるおそる話し掛けてくる。
「ニャにか用かニャー」
「助けていただきありがとうございます。あなた方は何者なのでしょうか。それと、先程までいたナマハゲは何だったのでしょうか」
「あー、あれはね――」
カマイタチが説明しようとしたところにケルベロスが口をはさむ。
「余計な事を言う必要はニャい。もうお仕事は終わりニャ。戻るニャー」
「まあまあ、良いじゃない。質問が命令であるのなら、善意ある人間の質問に答えざるを得ないのも、俺らを縛る原則の一つだろうしね。俺たちは妖神。世界の平和を守るヒーローって思ってもらえれば良い。冥界に封印されていたはずの妖鬼がね、ちょっとした拍子に解放されちゃってね」
カマイタチがそう言うと、それに続くようにウンガイキョウが口を開く。
「妖鬼は人間の悪意に触れると悪鬼に化ける。悪鬼になったモノは人間を襲い始める。先程の悪鬼は神だった頃はナマハゲと呼ばれておった。元は八百万の神の一員だったのじゃが、強い自尊心が原因で妖鬼にに堕ちてしまった。不幸な末路を辿った神、とも言えるのと違いますかね?」
ウンガイキョウは憐れむような表情を見せて問いかけた。
うん、と頷いてクジャクコウシュが言葉を続ける。
「本来の彼等はあのような性質ではなかったのですがー。残念ですー。それと、善意なき人間に対する保護義務は原則の外にあるー。こちらも残念ですー」
クジャクコウシュは金髪男性を一瞥した。
ケルベロスもチラリとその視線を追ったがすぐに視線を元に戻す。
「話は終わったニャ。サッサと戻るニャー。行くぞ、妖神回帰ニャー!」
ケルベロスが短い呪文を唱えるとたちまち三人の姿は消えた。
後に残ったのは損壊した古民家と呆気にとられた家主と親戚一同。
そして血まみれになり倒れている金髪男性。
「ママー」
女児は母親に抱きついた。
恐怖から解放されたその顔は満面の笑み。
そんな娘を母親はしっかり抱きしめ、助けられた事を心の底から感謝した。
ブックマーク登録や評価等お願い致します!励みになります!