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妖神繚乱~ホウソウシ編vol.2~

 ***************************************************


 時は進み現在――


 その病は人々の前に突如姿を現した。

 病の最初の感染者は東の果てにある島国の沿岸部の小さな港町。I県リクタカ市。


 それに感染すると通常の風邪もしくはインフルエンザと似た症状から始まる。

 40度以上の高熱と激しい喉の痛み、全身を襲う極度のだるさ。


 既存の病と違うところは死に至るまでの時間の短さと致死率の高さ。

 この新しい病は感染後7日以内に100%の確率で人を死に至らせる。

 つまり感染者に致死率100%の確実な死をもたらすタナトスの剣のような病。

 高熱が引かず、口や鼻、内臓から出血。


 そしてもう一つの特徴は驚異の感染力。

 通常、致死率の高い病は感染拡大の速度は遅い。

 だが、この病気の初期症状は風邪に似ていた為か、人々はどう対策して良いのか分からず防衛が後手に回り、結果的に感染は全国、全世界へ拡大した。


 謎の病に感染した人間が日本だけで10万人を超えた頃、死に至る原因が新種のウイルスであるところまでは研究で分かった。

 医療機関や研究所に属する者たちはウイルスに対抗すべくワクチンの開発に乗り出した。

 しかしながらウイルスは驚くべきスピードで変異を繰り返し、ワクチンがその効果を発揮する事は未だなかった。


 I県リクタカ市――


 海にそびえ立つ崖。

 そこから見えるのは一面に広がる青い海。

 そして、白い雲に溶け込むように空を舞うカモメの群れ。


「天気は快晴。春はやっぱりいいなあ。寒すぎず暑すぎず、ちょうどいい」


 元ウイルス学者のハマダは海を眺めながら独り言を呟く。

 歳は40歳。

 ぼさぼさ髪で黒縁眼鏡。

 見た目の雰囲気はうだつの上がらない地味な男。


 世間の人々は彼の事をこう呼んだ。

 狂信者、異常者、異端者、宇宙人、オカルティスト、ただのアホ。

 世界で流行中の新種の病、謎のウイルスに対してメディアの前で語った言葉。


「これはもはや神の領域にいるウイルス。自然界では起こりえない性質と変異の特徴を持つ。しかしながら人工物とも言い難い。このように致死率100%で人を殺す事に特化したウイルスを作れる研究者を、今現在、私は知らない」


 メディアはウイルス学者ハマダの言葉を病気に対する煽りの文句として使用。

 見えないモノや正体不明のモノに対する恐怖は人々の心を負に向かい動かした。

 ハマダは世間の人々からバッシングを受け、敵視された。

 プライベートを週刊誌に晒され、オモシロおかしく記事になった挙句、ハマダは追い出されるように学会を去っていった。


 そしてハマダが行き着いた先はリクタカ市。

 不治の病に侵された患者が最初に見つかった場所。


「もう仕事も金もなくなったなー。さて、これからどうやって生きていこうか」


 ***************************************************


 リクタカ市にある山の奥。廃村の中にある木造の古い小学校。

 人が立ち入らなくなり20年以上経過しているせいか、建物の痛みは激しい。

 窓ガラスは割れ、夕焼けが直接校内を照らす。

 雨漏りの跡や枯葉の山があちらこちらに姿を残す。


 そんな校舎の廊下をカマイタチとケルベロスは歩いていた。

 目的地は廊下の先にある体育館。


「アイツは癖があるから気を付けるニャー」


「ああ、悪鬼に堕ちる前は曲者(くせもの)策士だったらしいね。噂には聞いた事がある」


 ケルベロスの忠告に真顔で言葉を返すカマイタチ。

 その視線は体育館の入口の扉に向けられていた。

 

「そうニャ、アイツは曲者だったニャー」


 ケルベロスはどこか懐かしそうに呟いた。


「神聖な熊の皮をかぶり、黄金に輝く四つの瞳を持つ仮面を付けたその男。赤と黒の衣装を身にまとい、盾と(ほこ)を左右の手に持つ。数多くの神獣を従え、自身は獣の神をニャのる。その者のニャは方相氏(ほうそうし)。方相の災厄を払う大儺(たいニャ)の神」


 ***************************************************


 体育館の奥で存在感を放つステージ。

 ホウソウシはそのステージの上に置かれた椅子に腰を掛け来客を待っていた。

 炎のような真っ赤な瞳が4つ付いた仮面を被り、赤毛の大きな熊の毛皮を身に纏った巨大な体躯の男。

 ところどころ見える素肌は火傷で焼けただれたような皮膚をしている。


 そしてホウソウシの両脇にはこれまた体の大きな猿が2匹。

 何かを睨みつける険しい表情。口元に見える鋭い牙。

 身長は3メートルほどでホウソウシより少し背が高い。

 平安時代の武士が戦場で着るような鎧を身に着け、手には長い槍を持っている。


 体育館のアリーナには殺気に満ちた無数の猿がキーキー騒ぎ声を立てていた。

 その数はゆうに300を超える。

 大きさは動物園にいる普通の日本猿と変わらない。

 しかし全ての猿が大猿と同じように鎧をまとい、刀や槍、こん棒等の武器を持って猿同士、互いに威嚇し合っていた。


 異様な光景。

 そんな状況の中、体育館と校舎を繋ぐ扉が開かれた。

 その扉の向こうから派手な服装の男と真っ白い猫が姿を現す。

 猿たちは騒ぐのを止める。

 突如現れた男と猫に全員の視線が注がれた。

 静寂が体育館を包み込む。


「来たか……」


 ホウソウシはガラガラの低い声で唸るように言った。


「歓迎するぞ、ケルベロス。我が古き友よ」



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