妖神繚乱~アマノジャク編vol.10(完)~
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目の前にある大きな門。
門の屋根は雲を突き抜けた向こう側にあり、その高さを測り知る事はできない。
そして、鉄のような冷たい金属で出来た重厚な扉。
凛とした空気の中、静かに、ただ静かに閉ざされたまま大地に鎮座していた。
そこは木どころか草一つ生えていない。
右を見ても左を見ても砂、砂、砂。
果てしない砂漠の真ん中に冥府の門は存在していた。
「ここはどこ?」
髪はモジャモジャの長髪。
皮膚の色は黄色。黄色人種の黄でなく、原色の黄に近い。
体は小さく、小学校6年生の男子平均身長と同程度の150cmほど。
怯えた目つきと不安そうな表情。今にも泣きだしそうだ。
「ママ、ママ、どこにいるの?」
震える声で母親を呼ぶのは、先程童子切で首を斬られた小鬼。
周囲には誰もいない。見える範囲に人はいない。
気付いたらこの場所にいた。
今までも目覚めたら知らない場所にいる。そんな事は度々あった。
それを母親に相談した事がある。
だけど母親は笑いながら「大丈夫」と言うだけだった。
そんな時の母親は不思議と機嫌が良かった。
だから“ぼく”は安心した。それ以上何かを聞く事はなかった。
それにしても、いつからこうなったのだろう。
記憶を無くす事だけじゃない。
“ママ”の顔色をみて暮らす生活。
“ぼく”の意識は過去へ遡る――。
パパとママは喧嘩が絶えなかった。
3人で笑って家でご飯を食べた日は何回あったか、あまり思い出せない。
もちろん、仲良しだった時もある。
でもそんな時はたいてい外食だった。
居酒屋でご飯を食べる事が多かった。
パパとママはお酒ばかり飲んでいた。
大人しかいない、BARというところにも何度も行った。
ぼくはクラスの連中より強く格好いい。そんな気持ちになれる瞬間でもあった。
だからぼくはこんな生活でも楽しかった。
そう、パパとママと一緒だったから、ぼくは楽しかった。
それに、パパやママと一緒だったら、クラスの連中より大人になれた気がした。
だけど、いつからだろう。
パパがママに暴力を振るうようになり、ママはぼくを殴るようになった。
ぼくはパパが怖かった。
でもそれ以上にママが怖かった。
パパはいつも怒っていた。
だから怒るパパに慣れてしまった。
ママは優しい時と怖い時があった。
だから優しくもらう為にぼくはママを観察するようになった。
ママの表情をよく見て、心の中で何を思っているのか。
ぼくはそれだけを考えるようになった。
そんな事を繰り返していたあの日、ぼくはママの悲鳴を聞いた。
その声が聞こえないように、ぼくは布団にくるまって耳を塞いでいた。
でも声が聞こえてくる。
ぼくの心はもやもやした。不思議な感情。暗く黒い何かが心の中にあった。
「それはあくい、それはあくい。たのしいなー、たのしいなー」
おじいさんのようなガラガラ声。
誰かがぼくの部屋にいる。
ぼくは恐くなり布団の中で体を丸め、強く目を閉じ両手を耳に当てる。
恐い、恐い、恐い。
「こわくないさ、こわくないさ。おらがおまえをかいほうしてやるよー」
声の主が言った。
「おらはあまのじゃく。おまえのなれのはてさ、おまえのなれのはてさ」
そうだ、この時からぼくは記憶を無くすようになった。
パパがいなくなった日に何があったのか覚えていない。
だけどその日の朝、ママが不安そうな顔でぼくを見ていた事は覚えている。
そして、ママが心の中で考えている、ママがされて嫌な事やママが欲望のままに欲しているモノ。それが手に取るように分かってしまう。
ぼくがそうなったのもこの日からだった。
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「残念だニャ。悪意を持った状態で鬼にニャってしまったら、それは悪鬼ニャ」
ぼくの背後から声が聞こえたので振り返ると一匹の白い猫がいた。
「えっ、猫?」
「猫じゃニャイ。冥府の番犬ケルベロスニャー」
ぼくの目の前にいる猫がしゃべった。
「付いてくるニャー。道中、説明してやるニャー」
猫はトコトコ歩きながら門の前まで進む。
するとゆっくりとした動きで少しだけ扉が開いた。
「こっちニャー」
猫が扉の中に入っていくのでぼくもそれに付いて扉の中へ足を進めた。
扉の中は光が眩しすぎて何も見えない。
たくさんの光に体が包まれているような気持ちになった。
猫とぼくが扉の中へ入ったからだろうか。
後ろから扉が閉まる音が聞こえた。
大きな音ではない。そっと静かに閉まる。そんな雰囲気の厳かな音だった。
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アマノジャク編は今回で完結です。
次回よりホウソウシ編のスタートです。




