妖神繚乱~アマノジャク編vol.8~
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「シュテンドウジ!」
イベント広場の中央で腕を組み佇んでいるシュテンドウジ。
そんな彼にカマイタチが声を掛けた。
シュテンドウジはその呼び掛けに応じる。
「ああ、カマイタチ。我の名を呼んだのは貴様か。何用か」
「いや、珍しく呆けているじゃないか」
先程のキツメの言葉のお返しといわんばかりにカマイタチは言った。
「呆けてなどおらぬわ。小鬼を見ていたところよ」
シュテンドウジの視線の先にいたのは小鬼だった。
最初に見た時と比べてかなり変化している。
見た目は間違いなく鬼。だが中身は間違いなく人間。
しかも悪意を感じられない。ただの人間の子供。
カマイタチの目にはそう映った。
「どうしてこうなったか分かるか?」
カマイタチはシュテンドウジに問う。
それに対してアクロジンノヒから聞いた事をシュテンドウジは伝える。
「アクロジンノヒが言うには小鬼の中に2つの魂があるらしい。今しがたアクロジンノヒが小鬼に近付いて魂の深淵を覗いて確認しておったわ。アヤツはそういう事に長けておるからな。どうやら悪意と善意がはっきりと分かれてあの一つの肉体の中に存在しているとか。人間が言うところの解離性同一性障害とかいう病らしいが。まあ、我みたいなものなのだろうな。今の小鬼からは悪意は見えない。本当にただの人間の子供。だから小鬼を斬るような真似はせず、こうして傍観しておるわけだ。言っておくが我はけっして呆けているわけではないぞ」
「どうしてこうなったか、原因は分かっても変貌した理由までは……という事か」
原因が多重人格なのは間違いない。
しかし、魂が入れ替わる引き金は他にあるはず。
カマイタチはそう考えた。
だが、今の状況だけでは何とも言えない。
敢えて言うとしたら、母親を探している点か。
あの変貌には母親が何かしら関わっているのか。
「小鬼の母親はこの近くにいるのか」
「我は知らぬ」
「アクロジンノヒは何か言ってなかったか」
「アヤツは見知らぬ小鬼の為にそこまで世話を焼くような事はせぬ」
「いたずら好きなところはあるが、思いやりをもって人の為に尽くすタイプだと思っていたのだが」
「アヤツの過度の親切心は貴様だけに向けられているものよ。その程度の事すら気付けぬとは、貴様は本当に愚かよの。そんなもの我ですら見て分かるわ」
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「ママ、ママはどこ?」
息子は母親を探していた。
でも母親はどこにも見当たらない。
派手な格好の男性2人が立ってぼくを見ている。
2人とも知らない人。何でぼくを見ているのだろう。
それにしても――
ついさっきまでアパートにいたはず。
しかし気付いたらショッピングセンターの中にいた。
どうしてここにいるのか分からない。
ここはママと何度か来た事があるショッピングセンター。
ディオールやルイヴィトン等のハイブランドを取り扱うショップを覗いては、あれが欲しい、これが欲しいとママはいつもボヤいていた。
アパートでもハイブラの財布が欲しいと電話で誰かに言っていた。
相手が誰なのか分からない。
だけどママの口調から、相手は親しい人物なんだろうなと思った。
ただ、その言い方が嫌だった。
媚びながらも、あの手この手で言葉の中に嘘を絡めながらカネカネカネとしつこく言い続けていた。
カネが絡むとママは嫌な性格になる事が多かった。暴力的になった。
そんなママをぼくは嫌いだった。
それでもぼくにとって大切なママ。
すぐに泣いちゃうママをぼくが守らないと。
そうしないとママは嫌なママになっちゃう。
嫌なママにならないように、ぼくがママを守るんだ。
……そうだ、思い出した。
ママに機嫌よくなってもらう為に、ママが怒ってぼくを叩かないように。
ママが欲しいものをボクが持っていかないと。
ママの為にボクが頑張らないと。
「サイフ、カバン、ネックレス……。サイフ、カバン、ネックレス……」
息子の目付きが鋭くなる。
「サイフ、カバン、ネックレス……。ママにもっていく。ボクのジャマするな!」
息子の瞳に憎しみと怒りの火が灯る。
その魂は悪意に満ち、息子は小鬼へ変わっていく。
「なぜボクをみている。おまえはボクのテキか。ジャマするやつは、ころすぞ!」
小鬼はカマイタチとシュテンドウジに対して声を荒げた。
そしてイベント広場のすぐ隣りの宝飾品のテナントへ目を移す。
あそこにあるものをママへもっていく。
ママがよろこぶ。ママがほめてくれる。
小鬼は宝飾品のテナントへ足を向けた。
ガニ股で前のめりな姿勢でドンドン進む。
従業員は避難済みで誰一人いない宝飾品店。
小鬼は力を込めた拳でショーケースを叩き破壊。
そこにあった貴金属を両手に握ってゲヘヘと下品な声を出して笑った。
そんな小鬼に向かって大きく跳躍しながら太刀を振りかざす男。
「貴様の魂は悪意しか感じられん。小鬼よ、冥府で罪を償え」
素早い行動だった。
シュテンドウジが動いた事にカマイタチは気付かなかった。
それほど、あっという間の出来事。
「悪鬼即滅!」
シュテンドウジによる童子切の一振りで小鬼の首が宙に舞った。
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