己の立場
セヴランへの恋心を自覚したソフィー。
しかし、幼い頃からアシルス帝国の皇太子アレクセイとの結婚が決まっている。よって、決してその恋心を表に出すわけにはいかなかった。
しかし、初めての恋でソフィーはどこかふわふわとしてしまうこともあった。
遠目からセヴランを見つめてしまったり、直してもらったペリドットのブローチや、彼の目と同じペリドットのアクセサリーを身に着けるようになっていたのである。
ソフィーは王宮の自室の窓から見える騎士団の練習風景を見ていた。
そこにはセヴランの姿もあった。
王家直轄の騎士団に所属するセヴランは、こうして王宮内での訓練にも参加しているのだ。
(気持ちを伝えるのは許されない。だけど、密かに想うことだけは許して欲しいわ)
ソフィーは王女という立場上、こうしてセヴランの姿を眺めることしか出来なかった。
(だけど、こうしてセヴランを見つめることが出来るのも、あと一年で終わってしまうのね)
ソフィーはため息をついた。
一年後、ソフィーが十六歳になる年に、アレクセイと結婚することになる。つまりソフィーはナルフェック王国から出てアシルス帝国に行かなければならないのだ。
(セヴラン……)
ソフィーは胸の奥がギュッと痛くなった。
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数日後。
侍女を引き連れて王宮内を歩いていたソフィーは、この日も窓から騎士団の訓練中であるセヴランを見つめていた。
懸命に剣を振るうセヴランの姿。
ソフィーにはその姿がキラキラと輝いて見えた。
ほんの少し口角を上げるソフィー。
その時、兄でありナルフェック王国の王太子のガブリエルがやって来る。
「ソフィー、何を見ている?」
「お兄様……」
突然声を掛けられ、ソフィーは驚いた。
ガブリエル・ルイ・ルナ・シャルル・ド・ロベール。
月の光に染まったようなプラチナブロンドの髪に、アメジストのような紫の目の少年だ。母親であり女王でもあるルナ譲りのその美貌は、まるで彫刻や芸術品といった類である。
長身で、髪色と目の色はロベール王家の特徴を見事に引き継いでいる。
「騎士団が訓練中なのか」
ソフィーと同じように、窓の外に目を向ける。
「そのようですわ」
「王家直轄の騎士団の実力は年々上がっているからな。頼もしいことだ。そうだ、ソフィー。新たに私の護衛が決まったんだよ」
「お兄様の護衛の方……どなたなのです?」
突然のことに、ソフィーは首を傾げる。
「グラス侯爵家長男のセヴランだ」
「そう……ですか」
ソフィーは想い人の名前が出てきてドキリとしたが、平然を装った。
「彼は剣術だけでなく、機転もよく利くからな」
フッと笑うガブリエル。
「……そのようですね」
ソフィーは訓練中のセヴランを見ながらそう答えた。
二人の間にしばらく沈黙が続く。
「お前達、少しばかり外してくれ。目の届く範囲にいてくれたら良いから」
突然ガブリエルは自身の護衛やソフィーに付いている侍女に対してそう言った。
ソフィーはいきなりのことに驚き、アメジストの目を丸くする。
「お兄様、一体どうなさったのです?」
ソフィーは怪訝そうな表情だ。
「ソフィー、お前は滅多なことをしないと信じている。だが……万が一お前が行動を起こしてしまった場合、女王陛下はお前ではなく相手の方を処分する。それをよく理解しておくことだな」
ガブリエルのアメジストの目は、ソフィーを射抜くようであった。
(……私の気持ちは……お兄様にバレているのね。だとすると女王陛下にも……)
少しだけソフィーの呼吸が浅くなった。
「……ええ。私は己の立場を理解しているつもりでございますわ」
ソフィーはガブリエルの真っ直ぐ目を見て答えた。
「そうか……。それなら女王陛下も私も安心だ」
ガブリエルはフッと笑った。
そしてそのまま護衛やソフィー付きの侍女を呼び戻し、立ち去るのであった。
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自室に戻ったソフィーは浮かない表情であった。
『ソフィー、お前は滅多なことをしないと信じている。だが……万が一お前が行動を起こしてしまった場合、女王陛下はお前ではなく相手の方を処分する。それをよく理解しておくことだな』
ガブリエルに言われた言葉を思い出す。
(もし私がセヴランに想いを伝えてしまい、一緒に逃げようとしてしまえば、セヴランが危険な目に遭ってしまうわね……)
ソフィーはため息をついた。
兄であるガブリエルも、母であるルナも、目的の為なら手段を選ばない面があることをソフィーは十分理解している。
(先程のお兄様は……怖かったわ。それに、女王陛下はいつも上品な笑みを浮かべてばかりで、全く考えが読めない。それでいて時には恐ろしい手段を用いるものだから……もっと怖いわ)
ソフィーはセヴランに直してもらったペリドットのブローチに触れ、心を落ち着ける為にゆっくりと深呼吸をする。
(せめて残り一年だけでも、セヴランのことを想いたい。でも、それすらもやめた方がいいのかしら……?)
ソフィーは心臓を締め付けられるような思いであった。
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